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第266話 祟り人形(後編)

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 うなじの産毛がチリチリと逆立つような焦燥感。
 曲がりくねった山道。
 レンタカーを走らせながら、思い出す。
 そもそも、あの家をひと目見た時、嫌な予感がしたのだ。
 古い記憶の蓋が開いて、何やら気味の悪い黒い染みみたいなものが滲み出てくるような…。
 木造二階建ての何の変哲もない廃屋だった。
 狭い庭は草ぼうぼうで、我が物顔に生い茂る雑草の中に壊れた三輪車が埋もれていて…。
 日が傾きかけていた。
 そろそろ場所を決めないと。
 このあたりはろくに街灯もない。
 夜になればあたりは真っ暗で、何も見えなくなってしまうに違いない。
 少し道幅が広くなっている所で、車を止めた。
 スコップを持ち、アレの入ったゴミ袋を肩に担いで、木々の間に分け入っていく。
 しばらく斜面を下ったあたりに、開けた空間が見つかった。
 試しにスコップを突き立ててみると、この辺は木々の根もなく、幸いなことに地面も柔らかい。
 早くしないと。
 日が暮れないうちに。
 カナカナカナカナ…。
 俺を急かすように、意外なほど近くでヒグラシが甲高い声で鳴き出した。
 すぐに汗びっしょりになった。
 それは暑いから出る汗ではなく、大量の冷や汗だった。
 1メートルくらい掘ったところで、息をつく。
 これくらいでどうだ。
 これならいくらあいつでも、這い出てくることはできないだろう。
 スコップを地面に突き刺しておいて、放置してあったゴミ袋を持ち上げる。
 掘ったばかりの穴の上で逆さまにして、中身を出そうとした、その時だった。
 ふいにゴミ袋の中から小さな手が伸びて、俺のシャツの裾をつかんできた。
「うわっ!」
 驚いて両手を離すと、ゴミ袋だけが地面に落ちて、俺にぶら下がった人形が現れた。
「な、なんだ、おまえ?」
 顔が引きつり、干乾びた声が喉を漏れる。
 恐怖で立ちすくむ俺を、ぶら下がったまま人形が見上げている。
 やがてその作り物の目がぐるりと反転し、血走った生の眼球にすり替わった。
 そして、真っ赤な唇が動いたかと思うと、人形は確かにこう言ったのだ。

 ーお兄ちゃん、また私を埋めちゃうの?ー
 
 と。
 
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