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第268話 離島怪異譚⑪
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何かが飛んできて、頭に当たった。
「痛っ!」
足元にゴロンと転がったのは、野崎が履いていたスニーカーだ。
「痛っ!」
見上げると、異様な光景が視界に飛び込んできた。
逆さになった野崎の身体がはるかな高みに浮いている。
「な、なに?」
懸命に目を凝らすと、見えてきた。
野崎の右足首に、触手のようなものが巻きついている。
それはどうやら、岩壁の半ばあたりから突き出たテラス状の一枚岩のあたりから伸び出ているようだ。
「あ、あれは…」
危惧が現実化したことに気づいて、私は唇を噛み締めた。
天然のテラスの上に居るのは、セーラー服姿のあの少女だった。
今度は右腕が蛸の触手と化して、野崎の脚を絡め取っているのだ。
「ケイさ~ん! 助けてくださいよォ!」
情けない声で野崎が叫ぶ。
風もないのに少女のスカートが翻ったかと思うと、その野崎に向かって、夥しい数の触手が一斉に伸び出した。
「ぎゃあっ!」
手足に巻きつき、更にTシャツやジーンズの生地を突き破って触手が中に潜り込んでいく。
「あふ、ぐう、あへ」
野崎の声が変化した。
見ると、白目を剥き、半開きの口の端から涎を垂らしている。
触手が潜り込んだ胸のあたりと下半身が盛り上がり、何やらモゾモゾ動いているのだ。
そんな獲物の反応を面白がるように、少女は無数の触手で野崎を吊り上げ、その身体を弄んでいる。
「助けろって言われても…」
動けなかった。
逃げるのは簡単だ。
でも、さすがにそれはできなかった。
嫌がる野崎をここまで強引に連れてきたのは、この私なのである。
ここで自分だけ逃げだしたら、いくらなんでも人非人確定だ。
が、だからといって、何かできることがあるとも思えない。
周囲は海水に濡れた一面の岩場で、投げることのできる石ころ一つ、落ちていない。
蛸少女の陣取る岩棚に上がろうにも、そこまでの道らしきものはどこにもなかった。
なすすべもなく見守るうちにも、野崎は衣服を引き裂かれ、丸裸にされていく。
全裸に剥かれて初めて、あの変な喘ぎ声の意味が判明して私がぞっとなった。
触手が二つの乳首と股間の中心部に吸いついて、野崎を嬲りものにしているのである。
「きも…」
そう言いかけて、私は自分に彼を軽蔑する資格がないことに思い至り、暗澹たる気分に陥った。
ゆうべの私と今の野崎は、要は同じ状況ということではないか…?
そう、思ったのである。
性感帯を異生物の触手に責められるあの快感。
あれは、経験した者にしかわからない。
そんな逡巡に立ちすくんでいた、その時だった。
ふと、思いがけぬほど近くに人の気配を感じて振り向くと、海水パンツ一枚の青年が立ち、岩棚を見上げていた。
「また出たか」
そうつぶやくなり、右手に持っていた槍みたいな道具を、軽々と放り投げた。
ーギャアアアアッ!
額を貫かれ、蛸少女の姿が岩棚からかき消すように見えなくなった。
触手の戒めが解け、
「うわわわわっ!」
我に返った野崎が落ちてくる。
幸い、岩棚の真下は一枚岩のはずれで、三日月形の淵になっていた。
どぼんっ!
そこに落下した野崎が、
「プハアッ!」
海面に顔を出して生き返ったように息をする。
「あ、ありがとうございます!」
ペコリと頭を下げる私に向かって、若者が微笑んだ。
「間に合ってよかった。あんたたち、探偵社の人たちだろ?」
「痛っ!」
足元にゴロンと転がったのは、野崎が履いていたスニーカーだ。
「痛っ!」
見上げると、異様な光景が視界に飛び込んできた。
逆さになった野崎の身体がはるかな高みに浮いている。
「な、なに?」
懸命に目を凝らすと、見えてきた。
野崎の右足首に、触手のようなものが巻きついている。
それはどうやら、岩壁の半ばあたりから突き出たテラス状の一枚岩のあたりから伸び出ているようだ。
「あ、あれは…」
危惧が現実化したことに気づいて、私は唇を噛み締めた。
天然のテラスの上に居るのは、セーラー服姿のあの少女だった。
今度は右腕が蛸の触手と化して、野崎の脚を絡め取っているのだ。
「ケイさ~ん! 助けてくださいよォ!」
情けない声で野崎が叫ぶ。
風もないのに少女のスカートが翻ったかと思うと、その野崎に向かって、夥しい数の触手が一斉に伸び出した。
「ぎゃあっ!」
手足に巻きつき、更にTシャツやジーンズの生地を突き破って触手が中に潜り込んでいく。
「あふ、ぐう、あへ」
野崎の声が変化した。
見ると、白目を剥き、半開きの口の端から涎を垂らしている。
触手が潜り込んだ胸のあたりと下半身が盛り上がり、何やらモゾモゾ動いているのだ。
そんな獲物の反応を面白がるように、少女は無数の触手で野崎を吊り上げ、その身体を弄んでいる。
「助けろって言われても…」
動けなかった。
逃げるのは簡単だ。
でも、さすがにそれはできなかった。
嫌がる野崎をここまで強引に連れてきたのは、この私なのである。
ここで自分だけ逃げだしたら、いくらなんでも人非人確定だ。
が、だからといって、何かできることがあるとも思えない。
周囲は海水に濡れた一面の岩場で、投げることのできる石ころ一つ、落ちていない。
蛸少女の陣取る岩棚に上がろうにも、そこまでの道らしきものはどこにもなかった。
なすすべもなく見守るうちにも、野崎は衣服を引き裂かれ、丸裸にされていく。
全裸に剥かれて初めて、あの変な喘ぎ声の意味が判明して私がぞっとなった。
触手が二つの乳首と股間の中心部に吸いついて、野崎を嬲りものにしているのである。
「きも…」
そう言いかけて、私は自分に彼を軽蔑する資格がないことに思い至り、暗澹たる気分に陥った。
ゆうべの私と今の野崎は、要は同じ状況ということではないか…?
そう、思ったのである。
性感帯を異生物の触手に責められるあの快感。
あれは、経験した者にしかわからない。
そんな逡巡に立ちすくんでいた、その時だった。
ふと、思いがけぬほど近くに人の気配を感じて振り向くと、海水パンツ一枚の青年が立ち、岩棚を見上げていた。
「また出たか」
そうつぶやくなり、右手に持っていた槍みたいな道具を、軽々と放り投げた。
ーギャアアアアッ!
額を貫かれ、蛸少女の姿が岩棚からかき消すように見えなくなった。
触手の戒めが解け、
「うわわわわっ!」
我に返った野崎が落ちてくる。
幸い、岩棚の真下は一枚岩のはずれで、三日月形の淵になっていた。
どぼんっ!
そこに落下した野崎が、
「プハアッ!」
海面に顔を出して生き返ったように息をする。
「あ、ありがとうございます!」
ペコリと頭を下げる私に向かって、若者が微笑んだ。
「間に合ってよかった。あんたたち、探偵社の人たちだろ?」
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