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第243話 墓のない村④
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こみ上げる吐き気に耐えられず、僕は廊下にまろび出た。
「ごめん、と、トイレ…」
口を押さえて、かろうじて彼女にそう伝えると、
「食事が合わなかったのね。こっちこそごめんなさい」
心配そうに僕の手を取った。
連れていかれたのは、縁側から庭に降りた先の小屋である。
「私、ここで待ってるから」
小屋へと続く石畳の小道の入口に佇んで彼女は言った。
建付けの悪い木戸を開ける前から嫌な予感がした。
匂いがひどいのだ。
中に入るまでもなく、水洗でないことがわかった。
今どき珍しいくみ取り式の便所である。
初めてではなかったけど、正直、気が進まなかった。
が、そんなことを言っている場合でないのも、また確かだった。
ええい!
意を決して戸を引き開けると、案の定、隙間からすさまじい屎尿の臭気が溢れ出した。
手探りで壁のスイッチを見つけて電気をつけたが、裸電球一つきりのため、たいして明るくはならなかった。
点滅する黄色い照明の中に、汚い木の床に埋め込まれた和風便器の陶器の白が、ぼうっと浮かび上がる。
便器の底に空いた漆黒の穴から噴き出す悪臭を吸い込んだとたん、胃袋がひっくり返るように暴れ出しー。
「げえっ!」
身体を二つ折りにして僕は吐いた。
酸っぱい胃液とともにさっき食べたばかりのヌルヌルするものたちが粘液の糸を引きながら口から噴き出した。
血まで吐きそうな勢いでげえげえやりながら、かすむ目で僕は目の前に開いた穴を見た。
涙でにじんだ視界が少しずつ晴れてくると、やがて自分が見ているものが明らかになってきた。
暗闇に目が慣れたからだろう。
便器の底に開いた穴の中の様子が、うっすらと見えてきたのだ。
堆積した茶色や黄土色の糞便の海。
そのあちらこちらで、おびただしい数の白いものが蠢いている。
「うげえっ!」
その正体に気づくと同時に、またしても激烈な吐き気が込み上げてきて僕はえずいた。
糞便を嬉々として食べている丸々太ってつやつやと光沢を放つその生き物こそは…。
ついさっき、白米と称して僕が食べさせられた、プチプチした食感の”あれ”と同じ姿かたちをしていたのである。
「ごめん、と、トイレ…」
口を押さえて、かろうじて彼女にそう伝えると、
「食事が合わなかったのね。こっちこそごめんなさい」
心配そうに僕の手を取った。
連れていかれたのは、縁側から庭に降りた先の小屋である。
「私、ここで待ってるから」
小屋へと続く石畳の小道の入口に佇んで彼女は言った。
建付けの悪い木戸を開ける前から嫌な予感がした。
匂いがひどいのだ。
中に入るまでもなく、水洗でないことがわかった。
今どき珍しいくみ取り式の便所である。
初めてではなかったけど、正直、気が進まなかった。
が、そんなことを言っている場合でないのも、また確かだった。
ええい!
意を決して戸を引き開けると、案の定、隙間からすさまじい屎尿の臭気が溢れ出した。
手探りで壁のスイッチを見つけて電気をつけたが、裸電球一つきりのため、たいして明るくはならなかった。
点滅する黄色い照明の中に、汚い木の床に埋め込まれた和風便器の陶器の白が、ぼうっと浮かび上がる。
便器の底に空いた漆黒の穴から噴き出す悪臭を吸い込んだとたん、胃袋がひっくり返るように暴れ出しー。
「げえっ!」
身体を二つ折りにして僕は吐いた。
酸っぱい胃液とともにさっき食べたばかりのヌルヌルするものたちが粘液の糸を引きながら口から噴き出した。
血まで吐きそうな勢いでげえげえやりながら、かすむ目で僕は目の前に開いた穴を見た。
涙でにじんだ視界が少しずつ晴れてくると、やがて自分が見ているものが明らかになってきた。
暗闇に目が慣れたからだろう。
便器の底に開いた穴の中の様子が、うっすらと見えてきたのだ。
堆積した茶色や黄土色の糞便の海。
そのあちらこちらで、おびただしい数の白いものが蠢いている。
「うげえっ!」
その正体に気づくと同時に、またしても激烈な吐き気が込み上げてきて僕はえずいた。
糞便を嬉々として食べている丸々太ってつやつやと光沢を放つその生き物こそは…。
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