超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
136 / 453

第136話 立体駐車場の怪

しおりを挟む
「カート置いてくるから、ちょっと待っててね」
 買い物を車の後部に移し替えると、妻が言った。
 休日のショッピングモール。
 日曜日のショッピングは、結婚二年目の僕らにとって、楽しい恒例行事である。
 午後二時過ぎ。
 僕らは昼食と買い物を終え、帰るところだった。
「わかった。気をつけて」
 エンジンをかけながら、僕は言った。
 休日ということもあり、立体駐車場は混んでいて、ようやくのことで僕が駐車スペースを見つけたのは、屋上階の外れだった。
 ここは近くにカート置き場がないので、カートを返すためには一度店内入り口まで戻らなけれエバならないのだ。
 FMラジオを聴いていると、しばらくして、後部座席のほうでガチャリと音がした。
「早かったね」
 僕と車で出かける時も、そのほうが楽だからという理由で、妻は必ず後部座席に乗る。
 バックミラーに人影を確認して、僕は車を出した。
 いつもの要領で出口を示す表示に従い、屋上を半周して、階下に降りるスロープにさしかかった時である。
 ふいに助手席に置いたスマホが鳴った。
 左手で拾い上げて画面を見ると、LINEが来ていた。
 妻からだった。
『どうして待っててくれないの?』
「え?」
 僕は蒼ざめた。
「どうしてって…」
 あわててバックミラーを見る。
 黒い影が映っていた。
 長い髪の間から覗く、血走った目。
「き、君は、誰・・・?」
 やっとのことで口を動かすと、しわがれた声で、影が答えた。
「忘れたの…? やっと見つけたのに…」
「な、なんだって?」
 ぞわり。
 記憶の彼方で、嫌なものが動いた。
 何か、思い出してはいけない何かが、ゆっくりと立ち上がってくるのがわかった。
「許せない…」
 バックミラーの中で、悔しそうに赤い口が開きー。
 操られるように、足が、勝手に動いた。
 ブレーキを踏もうとした右足が、アクセルの上へと滑っていく。
「や、やめろ!」
 次の瞬間、突然車が急加速して、僕は屋上フェンスを突き破り、空中に飛び出していた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...