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第137話 青ネギの恐怖
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「昔から苦手でさ、青ネギって。どこがうまいのかわからない」
煙草をふかしながら、俺は言った。
休日の喫茶店。
対面には久しぶりに会った友人のKがいる。
「ネギトロもそうだし、イクラ丼なんか、よく、刻んだ青ネギをご飯の上に敷き詰めてあるじゃないか。あれって、みんな、本当に平気なのかって思う」
どんな流れからそんな話題になったのか、忘れてしまったが、とにかく俺は青ネギについて熱弁をふるっていた。
ガキの頃からどうもなじめない青ネギのあの味、あの匂い。
「でも、けっこう世間の人たちは、好きみたいなんだよな、青ネギ。ほら、漫画やドラマでよく見るだろ? 主婦が買い物かごから長い青ネギ突き出して歩いてるシーン。あれ、気がついてみると、現実でもよく見かけるんだよ。一般大衆って、そんなに青ネギが好きなんだろうか、って思うぐらい。あんな長いネギ買って帰って、ほんとに全部料理に使うのかよって」
現に今、俺らの席の近くにも、買い物帰りらしき主婦たちのグループがいる。
もちろん、全員、マイバッグから50センチはありそうな青ネギを突き出して、だ。
俺がそこまで言った時、
「シーッ! 声がでかいよ」
突然、Kが立てた人差し指を口に当てた。
見ると、真っ青な顔であたりの様子をうかがっている。
「なんだ、どうした?」
不思議に思って訊くと、
「その青ネギなんだけど」
テーブルに身を乗り出し、声を潜めるK。
「最近、気づいたことがあるんだ」
「気づいたこと?」
「うん。これ、機密事項だから、誰にも言うなよ」
「あ、ああ」
機密事項? なんだそれ?
俺はあっけにとられた。
Kと会うのは高校以来だ。
久しぶりに会わないかと電話がかかってきたのが今朝のこと。
話したいことがある、そう言ってー。
「青ネギってさ、正体はネギ星人なんだ」
「はあ?」
「侵略者だよ。食材に化けて人類の中に紛れ込み、世の中の主婦たちを操ってるんだ。あの青ネギに擬したアンテナで」
「んな馬鹿な」
俺は吹き出した。
青ネギが宇宙人?
これって、新手の宗教の勧誘か?
「笑いごとじゃない。目が合ったんだ。それで気づいた。やつらは…」
Kが必至で言い募った、その時だった。
俺はふと、刺すような視線を感じ、振り返った。
近くのテーブルに陣取った主婦たちが、楽しげに会話にいそしんでいる。
全員、マイバックから青ネギを飛び出させて。
あることに気づき、俺はうめいた。
「マジか」
顔から血の気が引くのが分かった。
青ネギにはみな一対の眼があり、俺たちのほうをそろってじっと睨みつけていたのだ。
煙草をふかしながら、俺は言った。
休日の喫茶店。
対面には久しぶりに会った友人のKがいる。
「ネギトロもそうだし、イクラ丼なんか、よく、刻んだ青ネギをご飯の上に敷き詰めてあるじゃないか。あれって、みんな、本当に平気なのかって思う」
どんな流れからそんな話題になったのか、忘れてしまったが、とにかく俺は青ネギについて熱弁をふるっていた。
ガキの頃からどうもなじめない青ネギのあの味、あの匂い。
「でも、けっこう世間の人たちは、好きみたいなんだよな、青ネギ。ほら、漫画やドラマでよく見るだろ? 主婦が買い物かごから長い青ネギ突き出して歩いてるシーン。あれ、気がついてみると、現実でもよく見かけるんだよ。一般大衆って、そんなに青ネギが好きなんだろうか、って思うぐらい。あんな長いネギ買って帰って、ほんとに全部料理に使うのかよって」
現に今、俺らの席の近くにも、買い物帰りらしき主婦たちのグループがいる。
もちろん、全員、マイバッグから50センチはありそうな青ネギを突き出して、だ。
俺がそこまで言った時、
「シーッ! 声がでかいよ」
突然、Kが立てた人差し指を口に当てた。
見ると、真っ青な顔であたりの様子をうかがっている。
「なんだ、どうした?」
不思議に思って訊くと、
「その青ネギなんだけど」
テーブルに身を乗り出し、声を潜めるK。
「最近、気づいたことがあるんだ」
「気づいたこと?」
「うん。これ、機密事項だから、誰にも言うなよ」
「あ、ああ」
機密事項? なんだそれ?
俺はあっけにとられた。
Kと会うのは高校以来だ。
久しぶりに会わないかと電話がかかってきたのが今朝のこと。
話したいことがある、そう言ってー。
「青ネギってさ、正体はネギ星人なんだ」
「はあ?」
「侵略者だよ。食材に化けて人類の中に紛れ込み、世の中の主婦たちを操ってるんだ。あの青ネギに擬したアンテナで」
「んな馬鹿な」
俺は吹き出した。
青ネギが宇宙人?
これって、新手の宗教の勧誘か?
「笑いごとじゃない。目が合ったんだ。それで気づいた。やつらは…」
Kが必至で言い募った、その時だった。
俺はふと、刺すような視線を感じ、振り返った。
近くのテーブルに陣取った主婦たちが、楽しげに会話にいそしんでいる。
全員、マイバックから青ネギを飛び出させて。
あることに気づき、俺はうめいた。
「マジか」
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