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敵か味方か‥

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「ねーさま、庭師のジェイフが声を掛けてもらえた事を喜んでいましたわ。後でねーさまに渡したいものがあるそうですわ」

「渡したい物?」

「そんな物は受け取らなくていい!」

「お兄様。あまり嫉妬深いと嫌われますわよ。ねーさまはこちらに来たばかりなのですから、使用人達とも仲良くしていただかなくては。ねぇ?」

「‥‥ええ」

「そういう余計な苦労はしなくてもいい。ルリアに負担をかけるな」

‥‥あなたが仰るのですか?

「まぁお兄様ったら。ねーさまの事も考えて下さいませ。この国に来て心細いはずですわ。ねーさまを大事にしてくれる人が増えれば、ねーさまもこの王宮やこの国で暮らしやすくなるんですよ。独占するのはやめて下さいませ」

「独占などしていない。無理をさせない為だ。俺の婚約者なのだから、俺が側にいればいいだろう」

「まぁ!!」

小さく「呆れますわね」と呟いた妹のマリーは、私の顔を憐れんだように見つめた。

憐れんでいる?
私を気の毒だと思ってくれているの?

もしかして、この妹、私の味方になってくれるかもしれないわ‥

兄の王太子よりずっと話が分かる人間のようだわ。
味方にできれば、この現状から抜け出せるかもしれない。
生まれ変わりだなんて気味の悪い話を一生聞かされるなんてごめんだわ。

「マリー、あなたとは仲良くしたいわ」

「ねーさま。もちろんですわ。マリーは、ねーさまの味方ですわよ」

ギュッと手を握ってくる。
これは期待できそうね。

「マリー!俺の婚約者だ」

「だから何ですの?しつこい男ですわね」

くっ‥‥と顔を歪めた王太子に勝ち誇ったマリーの顔。

これは勝機を見出せた気がするわ。
私は思わずマリーを見てにっこりと笑顔を作った。


「殿下!殿下!」

少し離れた所で立っていた側近と侍従は、痺れを切らしたように王太子を呼びながらこちらに歩いて来る。

「マリエット王女様、ルリア王女様、ご歓談のところ、大変申し訳ないのですが、殿下は仕事が溜まっておりますので、連れて行かせて頂きます」

「どうぞ、どうぞ。早く連れて行ってちょうだい。ヘイルズ」

「はっ」

頭を下げた後、側近と侍従は私の所へ来た。

「昨日はきちんとご挨拶できませんでしたが、私は殿下の側近として仕えておりますヘイルズ・デューダーと申します。どうぞお見知りおきください」

「ええ、こちらこそご挨拶しておりませんでしたわ。ルリアです。どうぞよろしく」

「私は侍従として殿下の身の回りのお世話をしておりますアロン・バージェスと申します。私の事もどうぞお見知りおき下さい」

「ええ、よろしく」

「おい!ヘイルズ、アロン。近付き過ぎだ」

紅茶を一気に飲み干すと立ち上がった。

「はい、はい、殿下。仕事に戻りましょう。だいぶ溜まっておりますから」

ムスッと不機嫌そうに歩き出したその後ろを、ヘイルズとアロンは急いで付いて行く。

「お兄様にも困ったものね‥」

マリーはカップを持ち上げた。

庭の奥から庭師のジェイフが走って来た。

「ルリア様。珍しい薔薇がありますので、お部屋に飾って頂きたくて」

「まぁ黄色の薔薇ね。素敵だわ」

「この品種は新しいものなんです。とても黄色が鮮やかでルリア様の髪のように美しいので」

「ありがとう、ジェイフ。飾らせてもらうわ」

「なっ‥名前まで‥覚えて下さるなんて‥」

私が薔薇を受け取ると、ジェイフは照れたように下を向いた。

ふふっ。男の人から花を貰うなんて素敵ね。

「この花は俺が預かろう。むやみに俺の婚約者に近付くのはやめてくれ」

‥‥⁈
何故戻って来たのかしら‥

王太子が私の手から花を取り上げると、全員が呆気に取られる。
そのまま、また戻って行くのをただ見守るしかなかった。
でも黄色の薔薇を抱えて歩いて行く姿が何だかおかしく見えた。

「あれは重症ね‥」

再びカップを持ち上げたマリーは首を少し振りながら呆れたように紅茶を口にした。

「熱いお茶を淹れてちょうだい」

マリーが声を掛けると侍女がすぐに動く。
庭師のジェイフは、どうしたらいいのかと立ち尽くしている。

「ねぇ、ジェイフ。部屋に先程の薔薇を届けて欲しいのだけど、いいかしら?」

「はい、もちろんです。後でお届け致します」

ジェイフはやっと笑顔を取り戻し去って行った。

テーブルにはケーキスタンドが置かれ、マカロンやタルト、スコーンが並ぶ。
熱い紅茶を淹れてもらい、二人のティータイムが始まった。

「ねーさま。何と言うか、困りましたわね」

「ええ、そうね」

熱いお茶をひと口飲んでカップを置いた。

「誤解しないで欲しいのですが、兄はとても仕事熱心で真面目な人よ。国を大切に思い、決断力もある。次期国王として優秀な人間よ」

「ええ‥‥」

「聡明で賢明な判断のできる人だと尊敬しているの」

「ええ‥‥」

「今まで令嬢との縁談は山ほどあったけど、兄は全く興味を示さなくてね。18にもなって婚約者の一人もいないことに焦った父が候補者を決めたのよ」

「聞きましたわ‥二人の候補者がいると」

「そう。やっと二人の令嬢に絞り込んだばかりだったの」

「ならば、そのどちらかにお決めになれば良いことです」

「でも兄はあなたを見つけた。城の皆に言いふらすほどの喜びようで‥。王宮に居た私の所までわざわざ言いに来たわ。運命の女性を見つけたと‥」

「‥‥」

マリーは、私の言葉を待つようにじっと見つめる。
信用してもいいのかしら‥‥?

「令嬢と関わってこなかった人が、いきなり好きな女性を見つけて舞い上がっているのね。自分の初めての感情を上手く扱うことができなくて、嫉妬や独占欲を隠す事もできないのだわ。初めてだから周りなんて見えていないのね」

「‥マリー‥‥あなたに少し相談したいの」

「この国に来た理由かしら?」

「ええ。聞いてくれるかしら?」

ぱっちりとした黒い瞳は、視線を一度落とすとゆっくりと瞬きをした。

「‥もちろんよ。では、場所を変えましょう!」









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