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不思議な夢と妹マリーの出現

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「私は神殿に仕える者です。あなたの妾などにはなりません」

「妾ではない!皇妃だ!」

「皇后という正妃がいるのならば、妾と変わりありません」

「妻となるのだ。妾とは違う」

「何と言われようと、私はこの国に仕えている者です。私の大切な護衛騎士達を殺したあなたに付いて行くつもりはありません」

「国と国の戦いを早く治める為には仕方のないことだ。これ以上、民を混乱させ犠牲にすることはできない。一日も早い決着には騎士達を撃つ必要があった」

「この国が無くなるのなら、私も共にここで死にます」

「我が帝国に先に攻め入って来たのは、そなたの国王の方だ!私はその戦いを受けて立ったまでだ。そなたの国王は、神殿に仕える聖女のそなたが居ることで、自分達の国は負けないと自負していた。国の規模が違うことも考えず、神が味方していると無謀な戦いを仕掛けてきたのだ。他国といえど、民を巻き込みたくはないからな‥戦力となる者を全て排除することで早い終息を図ったのだ」

「⁈‥私の存在がこの戦いを引き起こしたということですか?‥そんな‥」

「そなたが気に病むことはない。王が愚かであったということだ‥」

「そんな‥‥」

「我が帝国にも犠牲者は出ている。戦いは愚かで哀れな事だ。この国の民も、我が帝国の民として大事にしていくつもりだ」

「私が聞いていた冷酷な人とは違うように見えますね」

「噂が冷酷、冷徹なほど国を護れるだろう。悪評が立つことは構わない。俺は我が帝国を愛している。民の幸せを護ることが俺の役目だ。そなたにも、帝国で生きて欲しい」

「私は‥心の支えであった大切な護衛騎士を失いました。彼らだけは聖女としてではなく、一人の人間として接してくれた仲間でした‥」

「ならば、俺がそなたの護衛騎士となろう!その者達よりも深くそなたを一人の女性として愛そう」

「皇帝が護衛騎士だなんて」

「おかしいか?惚れた女を守りたいのは、皇帝も騎士も平民だろうと男は皆同じだぞ!」

「惚れた?‥とは」

「俺はそなたに惚れた」

「会ったばかりです」

「時間が必要か?会ってすぐに惚れることもあるだろう。俺と共に生きて欲しい。必ず後悔はさせない。必ずそなたを幸せにすると約束する!」

「‥‥面白い人ですね‥‥」

ふふっ

「そうか?はははっ、そなたの笑う顔はより一層美しいな。そなた、名は?」

「ルリアースレイサー‥‥」

「ルリアか!俺はベルラードだ。そなたの笑顔をこれからも俺に見せてくれないか?願いを受け入れて欲しい」

「ベルラード‥‥」

ベルラード‥‥⁈

ん⁈何処かで聞いた‥‥名だわ

ベルラード‥‥って‥




「お姉様?お姉様?」

ん?‥‥妹⁈

重い瞼をゆっくり開くと、黒い髪にぱっちりとした黒い瞳‥‥誰?

誰かに似ている‥‥

「すごい汗をかいていますわ!着替えなくては風邪を引いてしまいますわ!」

「‥‥誰?」

思わず本人に聞いてしまう。

「あら、ごめんなさい。私ベルラードお兄様の妹のマリエットと申しますわ。お兄様の婚約者に決まられたと、お兄様本人から聞きましたの!ですから、私のお姉様ですわ。私のことはどうかマリーとお呼びください。ルリア姉様!」

「‥‥」

苦笑いするしかない。
あの王太子、言いふらしているのかしら。
まだ私は受け入れられないと言ったばかりだけど、人の言うこと聞いてないのね‥

それにしても、先程の夢?はあまりにも鮮明なやり取りだった。

ルリアという女性は肖像画にそっくりの人物で、皇帝の皇妃になれと言われていた‥

きっと王太子の話を聞いた後だったから、あんな夢を見てしまったのね‥
私には関係ないことよ。


「今すぐに侍女を呼びますわ!」

黒髪の少女、マリエットが大きい声でエマ、エマと何度か戸に向かって呼ぶと慌てたようにエマが部屋に入って来る。

が、その後ろから王太子が付いて来ている。

「お兄様!ルリア姉様は、これから着替えるのですから入って来てはなりませんわ!」

「そうか‥心配で。付いて来てしまった」

バツが悪そうに下を向いた。

「まぁ!お兄様!本当にお兄様かと疑うほど別人ですわね。恋は盲目とは本当にあることなのですね」

「からかうな」

「あら!だって令嬢の名前も覚えないお兄様が、女性に必死になる姿なんて、天地がひっくり返るようですわ」

「おい!!」

この兄妹は仲がとても良いのね‥
羨ましいわ‥私は兄も妹もいない‥
こんな関係は憧れる。
私にもし兄弟姉妹がいたら、私の人生はまた違っただろう‥
いたなら国を出る前に相談できただろうに‥‥

「ルリア、体調はどうだ?」

「ええ‥だいぶ良くなりました。お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません」

「しおらしくしなくてもいい。そなたらしくいてくれ。俺に気を遣う必要はない」

‥‥私を何だと思ってるのかしら。
いつでも噛み付く女だと思っているの?
これでも一応一国の王女として淑女教育は受けているし、常識は心得ているつもり‥‥だけど。

感情的になりやすいのは‥‥失格というべきかしら‥


「お兄様ったら、自分だけルリアお姉様と特別な関係を築こうとしていますのね!ずるいですわ!ねぇ、ルリアお姉様。私とも姉妹ですもの。気安くマリーと呼んでくださいね。私もねーさまと呼びますわ!」

ギュッと私の手を握ると「ねーさまができて嬉しいわ」と、黒くぱっちりとした瞳を細めて笑った。

「さぁ、エマ。早く着替えを」

「はい。かしこまりました」

王太子を引き連れマリー(⁈)が部屋を出て行くと、私はまた新しいドレスを着せられる。

何故反対されないのかしら?
この王宮で誰か反対して私を追い出してくれる人はいないのかしら?
妹であるなら兄を取られて嫌がらせをするとかないの?
これでは王太子宮からますます出て行く機会が失われていく。

着せられた新しいドレスも相変わらず私にぴったりのサイズで気味が悪いを通り越して苛立ちさえ覚える。

このドレスのサイズが違えばあの王太子だって諦めたはずだ。
あの肖像画の生まれ変わりだなんて迷信を信じることもきっとなかった。
婚約者の話になどならなかっただろう。
それなのに憎らしいほどに、このドレスは私の体型を測ったようだ。

その上、代々王族が作り上げてきたドレスはどれも一級品で豪華だ。
全く色褪せず劣化していない。
着るだけで気が重い。

何百年も前の皇帝の意志を受け継いで、作り上げてきた王家の人達はどう思っていたのだろう。
皆自分の代に皇妃の生まれ変わりが現れると思っていたのだろうか‥
まさか‥‥ね‥‥

でもあの肖像画は代々受け継がれてきた。
皇帝や皇后の肖像画は何処にあるのかしら‥。
まさかあの女性だけということはないだろうに。

でもあの部屋には、ルリアという女性の肖像画しかなかったように思う。
きっと彼女の為に用意していた部屋なのね‥。


「ねーさま?着替えが終わったらお茶にしましょう」

積極的な妹は、私に自由を与えるつもりは無いようだ。
美しい庭にはすでにお茶の用意がされている。

そしてまた王太子。
この王太子は、暇なのかしら⁈

とにかく、私は騙されたのね。
婚約者候補を諦めさせたいと言いながら、本当の目的は皇妃に似ていた私をこの王家から出さない為。

身代わりの人生なんて嫌だわ‥
結婚させられる前に、一日も早くここから出なければ‥‥。












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