おもいでにかわるまで

名波美奈

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第二章

第三十五話

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翌日の水樹の一限目の授業は教室移動からだった。

「おはよ水樹ちゃん。一緒に行こ。」

荷物を片付け礼の元へ戻る。

「お待たせ。おはよ前田君。」

「うん。それで昨日のボーリングどうだった?」

「そうそう、ちょっと聞いてくれる?私ね、3位だったんだー。嬉しい。」

「凄いじゃんやったね。イエーイ!」

「ありがとうー。でも筋肉痛になっててね、箸より重いものを持てないかもしれない。」

「じゃ、僕があーんしてあげるよ。」

「いやいや、だからお箸は持てるってば。」

「そっか。日本語って難しいね。」

朝からでも和やかな状態の二人は昨日のボーリングの話をしながら英語ルームに向かっていた。

「優勝は誰がしたの?」

「え!?うん。宇野勇利さんていう、2年生の人・・・。」

勇利の話になった瞬間に水樹のテンションは下がり、口数も減ってしまった。礼はそれに微かな違和感を感じたけれども、わからない事は深く追求せずにそのままやり過ごした。

「水樹ちゃん、おはよー!」

体操服姿の間宮仁美だった。

「おはようございます間宮さん。今から体育ですか。いいですね。私体育大好きなんです。」

「私も体育好きぃ。ねえねえ、昨日ボーリング3位だったんでしょ。超凄いじゃん。」

「ありがとうございます。」

「勇利君もさ、水樹ちゃんがクルクル回ったり飛んだりで、超楽しかったって喜んでたよ。」

「ほんとですか?」

水樹の表情が緩んだ。

「あ、でも女子にはハンディがあったんですよ。」

勇利が自分のいない場所で自分の話をしてくれているなんて、と水樹はくすぐったかった。

「宇野さんに、私も凄く楽しかったって伝えて下さい。教えてくれてありがとうございます。」

「うん。言っておくね。じゃあまた。」

勇利の記憶に自分が残っているだけでも感激し、水樹は素直に喜んでしまう。

勇利こそボーリングをする姿もかっこよくて、背の比べ合いをした事も思い出せば恥ずかしいのに嬉しくて、本当に水樹にとって勇利はかっこよくて可愛くて面白くて、全部完璧でずるい人なのだ。

だから勇利に出会えたおかげで水樹は毎日楽しくて、今日だって早くクラブの時間にならないかな、と勇利に会えるのを待ちわびてしまい、一昨日よりも昨日よりも想いは募っていくばかりだった。
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