おもいでにかわるまで

名波美奈

文字の大きさ
上 下
35 / 267
第二章

第三十四話

しおりを挟む
「水樹ちゃん、聖也から連絡あってね、せっかくの歓迎会なのに、行けなくて、歓迎できなくてごめんねって。てか水樹ちゃんかなりきてたね。」

「私も正木さんと一緒に出来なくて残念です。でも今日はすごく楽しかったです。ありがとうございました。結果は悔しいですけど。」

「まあね。あー見てもどー見ても皆おっさんだしね。それにしても超手足長いねー。身長何cmなの?」

「165くらいです。」

「ほんとよく育ったよねー。」

「でか!俺と同じくらいじゃん。ちょっと来て!」

突然話に割り込んだ勇利はグイっと水樹の手を引き自分の背中と合わせた。背の比べっこをしているのだ。

「よし、勇利君の勝ちー!圧勝!この俺に勝とうなんて一億万年早いからね。」

水樹はこんな他愛ないじゃれ合いにもドキドキした。触れ合う肩と肩に、それから勇利のその可愛らしい様子にどうしても心が揺れてしまう。

だから水樹はせめて自分のこの心の音が、無邪気にふざける大好きな勇利に聞こえませんように、と静かに願うのであった。

そして歓迎会は解散になると、瞬介は寄り道せずに帰宅し、姉と住むマンションに戻ってきた。着替えも済ませて今日のボーリングを意味深長に思い起こす。

水樹と夏子は100点のハンディがあった為に、水樹は2ゲームの合計得点が423点になり見事3位に輝いた。

瞬介の知る水樹は、いつも誰にでも笑顔で元気いっぱいでなんでも一生懸命で、ボーリングだって入賞してとにかく嬉しそうであったし、それが瞬介も嬉しかった。

優勝は534点で断トツ勇利で、相変わらず何でもこなす勇利に同性としては複雑な気持ちを持つ。

それから自然に水樹と夏子の会話を思い出している所に、丁度カチャッと玄関の鍵が開く音がした。

「瞬介ただいまー帰ってんのー?ん?何やってるの?何ー?何の印付けてるの?賃貸だから傷は駄目だよ?」

「うん・・・マスキングテープだから大丈夫・・・。」

165・・・。

はっきりとした理由も考える前に、瞬介はその高さにテープを貼っていた。

「ねえお姉ちゃん、俺、背、伸びるかな・・・。」

「何?思春期?うーん、羽柴家チビだからねー。でも瞬は男の子だからまだまだ伸びるよ。」

「そう・・・。」

だといいな・・・。

この気持ちがどういう事の始まりなのか、恋をした事もない瞬介は自分にひたすらに鈍感で、ただ、遠い何かを夢見るようにそのテープで付けた印を毎日見上げては、切ない溜め息を付く日々を送り始めるのであった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋 母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。 第二部:ジュディスの恋 王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。 周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。 「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」 誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。 第三章:王太子の想い 友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。 ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。 すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。 コベット国のふたりの王子たちの恋模様

陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君
青春
俺に青春など必要ない。 新高校1年生の俺、由良久志はたまたま隣の席になった有田さんと、なんだかんだで同居することに!? 絶対に他には言えない俺の秘密を知ってしまった彼女は、勿論秘密にすることはなく… 本当の思いは自分の奥底に隠して繰り広げる青春ラブコメ! なろう、カクヨムでも連載中! カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330647702492601 なろう→https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5319hy/

処理中です...