辺境の侯爵家に嫁いだ引きこもり令嬢は愛される

狭山雪菜

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辺境の当主3

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『ソフィア様の体調が宜しくないです』

そう告げたアガサの声が、私の頭を掠める。
夕飯の時間になっても来ないソフィアに、体調崩していると聞き、すぐに見舞いに行こうとしたが、ソフィアが断ったと知りショックで頭が真っ白になった。
とてもじゃないが、眠れないのでそのまま執務室に向かい、アガサを連れた。


ーー何故だ、ソフィア殿

いつもならすぐ対策を打てるのに、身体が鉛のように重く、思考も止まったままだ。
「何か変化でもあったのか」
辛うじて発した言葉は、情けなく掠れ今にも消えてしまいそうだった。
「それが、お昼前までは、いつも通りだったのですが…ヒル男爵家の使いの者がソフィア様に手紙を渡してから、部屋に閉じこもってしまったのです」
私の声など気にしていないアガサがそう言うと、私はすぐさま
「…その手紙を今すぐここへ」
と指示を出した。



「ソフィア様から内緒で持ってきました」
と言った優秀な執事に、渡された手紙を読み進めていくうちに、眉間に皺が寄り、凶悪なオーラが溢れ出した。
ひっ、と数人のメイドが部屋から出ていくと、アガサは変わらず扉の前で佇んでいた。


「ヒル男爵家はソフィア殿との婚約破棄を希望しているらしい」
自分でも驚く程低い声が口から漏れ、怒りで目の前が真っ暗になる。
「今すぐどういう事なのか調べろ、そうだな、明日の朝までにだ」
それだけ告げると、アガサは
「かしこまりました」
ひと言返事をして、一礼すると部屋から出て行った。
執務机に手紙を置くと、椅子の背もたれに身体を預けると、ギシッと鳴る。


そのまま執務室で仕事をしていると、夜が明けたと同時に部屋の扉がノックされた。

「入れ」

寝不足もあり、不機嫌な声で入室を許可すると、アガサが入ってきた。

「旦那様」
たった一晩だけでこんなに変わるのかと、あまりの変貌に驚くアガサだったが、すぐに執事の顔に戻り淡々と報告をした。

「…娘の結婚が嫌だから、婚約破棄を狙っている…?確かなのか?」
まさかの理由で呆けた声が出て、同調する様にアガサも頷いた。
「ええ、ショウにも確認が取れました…何でも三女のソフィア様はヒル家の女神と囁かれる程の美しさで社交界でも噂されてます…が、社交界デビューも済んでいないのをいい事に、ヒル男爵が末っ子のソフィア様と一緒に過ごしたいと強く願っているようです」

「何だその理由は」

呆れる程のくだらん理由で、もちろん婚約破棄などするつもりなどない私は、ヒル男爵を思い出した。
「ヒル男爵は、切れ者だったな」
ぼそりと告げた声に
「ええ、やり手です」
即座に返事をするアガサに感心している場合ではない。

「なら、こちらも手を打とうか」

ニヤリと笑うどす黒いオーラのキースに、あの時生まれて初めて笑顔を見ましたと、後日アガサが涙を流していた。
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