淫雨は愛に晴れ渡る

鳫葉あん

文字の大きさ
3 / 9

陥落

しおりを挟む
 瞼を優しく刺激する朝の日差し。早起きな小鳥達の囀り。いつもと変わらない目覚めの導線を辿ったユージーンはゆっくりと意識を浮上させていき、いつもと違う感覚に気付いた。
 掛け布団はあるものの、下着の一枚も着けずに目覚めるのは初めてのことだった。孤独なユージーンには朝を共に迎える存在などいないというのに、右腕を下にして寝ているユージーンの上に、誰かの腕が乗せられている。さらには尻孔に何か太いものが突き刺さっており、体内に居座る異物への違和感があった。
「……ひぃ」
 そろそろと背後を確認したユージーンは、目を閉ざした端正な男の顔を見て小さな悲鳴を上げた。自分に何が起きたのか、昨日の出来事を思い出してしまったのだ。
「ん……」
 男の目が薄く開き、数度の瞬きを繰り返すうちに目覚めを迎える。刹那に見えた寝顔は穏やかなものだったが、意識を取り戻せば昨夜ユージーンをいびった時と同じ、冷淡な表情に戻っていった。
「……主人に対して挨拶もなしか」
「えっ。あっ。おはようございます……」
「おはよう……お前はこっちにも挨拶しろ」
「え? あっ……ぅ……」
 腰を掴まれたかと思うと、ユージーンの中に入り込んでいた肉塊が抜かれる。一晩中雄を咥え込んだ尻孔はすっかり形を覚えてしまい、物足りないとばかりにひくひく収縮していた。
「お前を悦ばせたものに礼儀を尽くせ」
 促されればユージーンは逆らえない。のろのろと起き上がり、愉しげに寝そべるリチャードの足元へ這う。股間に顔を寄せ、朝勃ちする陰茎を見つめる。これが昨晩ユージーンの体を割り開き、つい先程まで居座っていたのだ。
「……ぁ」
 同性の性器を、それも自分の肛門から抜き出したばかりのものを口内に迎え入れることに躊躇が生まれない筈もなく。おろ、と惑うユージーンだが、鋭い眼光を感じれば従うしかないことを一晩で覚え込まされた。
 口を開いて舌を突き出し、そろそろと近付けていく。舌先で亀頭へ触れ、大きく開いた口内へ迎え、咥え、しゃぶる。
 えぐみに呻きながらも下品な音を立てて性器に媚びるユージーンに、リチャードの眉尻がほんの僅かに下がり、淫茎は勃ち上がっていく。
 ユージーンのルーティンの一番目に、リチャードへの挨拶が組み込まれた。

◇◇◇

 朝食は寝室に運び込まれ、リチャードを尻に咥えたまま彼の股の上に座ったユージーンは上と下の口両方を使って食事をした。
 僅かに甘味のあるパンに、瑞々しい野菜の挟まれたサンドイッチを食べさせられながら、尻肉は勃起した雄を食む。涎を垂らして尻を振るユージーンは唇からパン屑を落とし、リチャードに「こぼすな」と叱られる。
「あぁっ……だってっ、だってぇ」
 言い訳をしようとする間も、ユージーンは腰を動かしてリチャードで快感を得ようとしている。淫乱そのものの姿だった。
「はしたない。これがファラン最後の王族の姿か」
「うぅ……う……うぅ~っ……」
 淫らな体を責められ、惨めに生き延びたことを思い起こし、ユージーンの眦が光る。大粒の涙が滲み出し、ぼろぼろとこぼれ落ちていく。
 腰を振って尻の奥を雄につつかせながら、子供のように泣き続ける情けない姿を晒すと、ユージーンの中でリチャードが一層大きくなった気がした。
「あぁ……ふとい……おおきいよぉ」
「ふん」
 背後のリチャードへ凭れかかって仰け反り、ああ、ああ、と喘ぐことしか出来ないユージーンは自然と胸を突き出す姿勢になる。張られた薄い胸では、まるで男に触れられるのを待つかのように、赤く色付いた乳首がピンと立ち上がっている。望みを叶えてやろうと動いた指が乳首を弾くと、ユージーンは声を上げて悦んだ。
「ああっ! ちくびっ、いやっ……いやぁっ」
「嫌なものか。もっとしろと誘ってくるぞ」
 指できつく摘み上げると「きゃ……あっ、んんっ」と喘ぐ。すっかり乳首で性感を得るようになっており、リチャードを包む襞もぎゅ、ぎゅうっと締め付けてきた。
 悦ぶ場所に触れてやれば、尻孔に咥えた雄へ抱き着いてくる。従順でいやらしい奴隷に褒美を与えるべく、リチャードは膨らみ育っていく。
「あっ、はっ、あ、あ、あっ……は、あ、あ……」
 白濁を吐き注ぐとユージーンは胎内を満たす熱に喘ぎ、尻を振る。射精により萎えた性器がぬぽっと抜け出ると、ぽっかり空いた孔から精液が垂れ流れてくる。
「俺の子種をこぼすなよ」
「あ……あぅ……う、んんっ」
 流れ出ていく精液を胎に残すために、ユージーンは栓を探した。尻孔にすっぽり収まって、精液が抜け出ていかない栓を。
「……んっ……ん、ん、ん、ん……」
 先程まで咥え込んでいたものを取り戻そうと、ユージーンの手がリチャードの性器を探し、掴む。
 精を吐き冷静さを取り戻したリチャードの性器は勃起時より小さいが、ユージーンの平常時よりは大きく立派だ。
「ん、ん、ん……」
 精液が抜け出ていかないよう、肉栓を大きくしようとユージーンの手が雄を撫でる。扱く。尻肉で亀頭を擦り、誘う。
「あ」
 懸命に奉仕を続けていると雄竿に芯が生まれ、膨らみ、硬さを取り戻していった。
「あ。あ、あぁ……ん」
 雄の形を覚えたままの尻孔へ、リチャードを迎え入れていく。肉壺を満たされる悦びに涙をこぼした。 



 朝食を終えたリチャードは体中に精液を散らしたユージーンを抱え、浴室へ向かった。さっぱりと体を清めるとユージーンをベッドに放り投げる。ふかふかのマットはユージーンを包み受け止め、心地の良さに眠気を覚えた。
「大人しくしていろよ」
 寝室には大きなクローゼットが設けられており、清潔な衣服へ着替えを済ませたリチャードはさっさと出ていってしまう。
「……大人しく……」
 皇帝としての責務に向かっただろうリチャード。彼の奴隷となったユージーンは、命令がなければ何もすることがない。大人しくしていることが命令だろうか。
「……」
 昨夜の性交は夜が更けた後まで続き、気絶するように眠りについた。体はまだ休息を求めており、瞼が瞬きを繰り返す。
「……」
 いつしか意識を手放し、寝息を立て始めたユージーンは深い微睡みに包まれ、夢を見る。
 無惨に死んでいった、半分だけ血の繋がった兄王子達の姿を。


『恥知らず』
 リチャードの指に抉じ開けられた視界の中、縄で首を吊る兄達がユージーンを罵った。
『情けなく命乞いをして、慰みに使われて。無様だと思わないのか』
 同じ城で暮らしていても、生まれの違いからあまり交流はなかった。それでも彼らはユージーンを露骨に疎むことなく、汚物を見るかのように睨まれることなど初めてだ。
 現実で起こっていないのだから、これはユージーンが生み出した妄想だと、何処か冷静な頭で理解する。それでも首を吊られながらユージーンを責め立てる彼らに何も言い返せないのは、自責を認めているからだった。
『王族の一員だと言うのなら、あの場で死んでみせろ』
『みっともない生き恥を晒して』
『男に飼われてまで生きていたいのか』
「うっ……」
 リチャードの指で開かれた目は瞬きすら許されない。あの日は瞬き程度は見逃されたが、ここはユージーンの夢の中だ。許されてはならなかった。
 耳を塞ぐことも出来ず、兄達らしくない口汚い罵りを受け止めるしかないユージーンの耳元に、囁きが聞こえた。
『本当に。こんな男と結婚しなくて良かった。無様。滑稽。恥知らずの汚れた血。貴方なんかがこの私に相応しい筈がないのよ』
 数回言葉を交わしただけの、書面上だけは妻になる予定だった彼女の声は、ユージーンの心臓に刃を突き立てていった。
 崩れ落ちてしまいそうな体は背後のリチャードによって支えられている。ぴくりとも動かすことは出来ない筈なのに、突然大きく揺さぶられた。視界が回り、霞み、消える。


「おい」
「…………」
 開いた視界は不自然に膜が張られているが、不機嫌そうなリチャードの顔は見えた。兄達の骸も吊るされず、婚約者の声も聞こえない。リチャードの寝室のベッドの上で寝ていただけだった。
 どれ程寝ていたのか、窓の外はすっかり日が暮れ始めている。
「……あ」
 膜の正体はユージーンの両目を潤す涙だった。寝ながら泣いていたようで、頬が濡れている。夢の内容は思い出すまでもなく、数瞬の後に大粒の涙があふれていった。
「何故泣く?」
 問いかけるリチャードはベッドに腰掛け、ユージーンを見下ろしている。
 表情の割には柔らかい声だった。優しくはないが、疎んでいたり怒っている様子でもない。だからだろうか、ユージーンはすんなりと答えることが出来た。
「死ねば良かったから」
 何を指しているのか、それだけで察したらしいリチャードは片眉を上げた。
「そうか。ならば叶えてやろう。俺は寛大だからな」
 言うや否や、リチャードの両手がユージーンの首を包むように掴み、絞める。
「ぐっ……ぅ……う……」
 ギリギリと音を立てながら、リチャードによって首を絞められる。首を圧迫される痛みと共に酸素の供給が止まり、意識がゆっくりと薄らいでいく。
 苦しかった。痛かった。惨めで辛くて仕方ない。けれどこの時が過ぎれば兄達のように終わりを迎える。ギリギリ、と首を絞め続けられる。痛い。苦しい。楽になりたい。
「…………ぁ」
 動かすので精一杯な腕を動かし、自分の首を絞めるリチャードの手に触れる。実際は爪先で引っ掻くように掠めた程度だったが、リチャードは手に込めていた力を抜き、解放してくれた。
「……ぁっ、はーっ、はーっ、はっあっ……」
 気道が解放され、目一杯酸素を取り込んだユージーンは荒い息を整えていく。
「死ぬんじゃなかったのか」
 冷静な問いかけにユージーンの半分は頷く。高貴なる血。王家に生まれた者は潔く、運命を受け入れるべきだ。
「っだっ……」
「うん?」
「やだっ……いやだぁ……しにたくない……しにたくないぃっ……!」
 ユージーンの半分は拒否する。金にならず、腹も膨れぬ矜持の為に命を捨てる勇気はなかった。
「しにたくない……しにたくないよぉ……」
 子供のように泣き、ぐずるだけになってしまったユージーンに、リチャードは静かに告げる。
「泣いたままでいい、聞け」
 あぐ、えぐ、としゃくり上げながら、ユージーンはリチャードを見上げる。冷静に冷淡に、ユージーンを見つめるその眼光は相変わらず鋭いが、悪意は感じられなかった。
「ファランの王族は皆死んだ。死に絶えた。お前は俺の奴隷だ。ただの奴隷のユージーン。そうだな?」
 ボロボロと涙をこぼしながら、ユージーンは青い瞳を見つめる。数回の瞬き。やがて頷いた奴隷に、リチャードは鼻を鳴らす。
「……陛下。陛下ぁ」
 泣きながらリチャードに縋り、のそのそと起き上がったユージーンは主の股座に顔を寄せる。
「おかえりなさいませ、陛下」
 挨拶だった。飾り気のない簡素だが質のよい衣服、その下履きに手を伸ばす。
「……わぁ」
 下衣は股間の編み紐で結ばれており、それを解いて前を開くと、現れた下着は大きな性器に押し出され、一部の色が変わっている。リチャードは既に勃起していた。
「お前の泣き顔のせいだ」
 頬を染めて長大な雄肉に見入っていたユージーンに、リチャードが答えを与えた。
「無様で情けなくてみっともない。お前の泣き顔がこうさせるんだ」
「……陛下ぁ」
 リチャードの言葉を聞き、ユージーンの胸には形容し難い興奮が生まれた。感情のままに股座へ顔を寄せ、涎を垂らす雄々しい男性器にむしゃぶりつく。
「んっ……んっ……」
 頬を窄ませ下品な音を立てて吸い付き、頭を動かして竿を扱く。ユージーンの口は、体は、リチャードを悦ばせるためにあるのだから。
 悲しくも辛くもないのに、ユージーンの眦から涙が次々とこぼれ落ちていく。泣き顔が良いと言われたからだ。ユージーンはリチャードのために従順に、貪婪に生まれ変わっていく。
 高貴な存在になりきれなかったユージーンはもういない。ただの奴隷のユージーンが、皇帝の情けを求めて這いつくばるだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ
BL
 アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。 ━━━━━━━━━━━ 現役人気アイドル×脱落モブ男 表紙はくま様からお借りしました https://www.pixiv.net/artworks/84182395

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

処理中です...