28 / 41
<28・Traitor>
しおりを挟む
「ご、ゴートンさん……何をやってるんですか!?」
「!!」
ゴートンはその声でようやく我に返った。振り向けば、ノエルが真っ青な顔でこちらを見ている。
「ま、ま、マリオンさんに何をっ……」
「あ、いや、これはそのっ」
「使ったんですか、スキルを……!」
駄目だ、誤魔化せない。ゴートンは金魚のように口をぱくぱくさせるしかなかった。
並木道の、モモザクラの木の下。全裸で仰向けに倒れたマリオンは、恍惚とした表情で宙を見ている。涎をだらだらと垂らし、股間を濡らし、今まさに何をしていたかされていたか明白な状態。それでいてゴートンがズボンを押し上げた体勢だったわけだから、言い訳の仕様もないだろう。
「仲間でしょう……!?なんで、なんでそんな酷いことができるんですかっ!!一度能力をかけたらもう解除できないんですよね!?」
純粋なノエルからすれば、ゴートンのやった行動はけして納得できるものではなかったのだろう。何度もゴートンと倒れているマリオンを交互に見つめた後、軽蔑するように吐き捨てた。
「さ、最低です……!」
「ま、待てノエル!待ってくれ!!」
慌ててゴートンが呼びかけてももう遅い。ノエルはくるりと背を向けて走り出していた。反射的にスキルを使おうとして、動きを止めるゴートン。駄目だ、ノエルは男なのだ。自分のチートスキルは対応していない。
「あ、あああ……」
ゴートンはその場に座り込んだ。マリオンの痴態が面白すぎて時間をかけすぎたのがいけなかったのか。そうすればノエルが駆けつけてくる前にマリオンを隠すことができたのか。
否、どっちみちマリオンが戻ってこなければ状況は露呈していたことだろう。ノエルは必ずマリオンを探す。隠しきれることではない。そしてゴートンが何をしたのかが知れれば、温厚なノエルもきっと許しはしない。確実にサリーとゾウマに連絡を入れるだろう。
自分達の間に、強い仲間意識があるとは思っていない。サリーたちにとってゴートンなど使い捨ての駒のようなのだろう。だが、彼女たちは従順で愛らしいマリオンのことはかなり気に入っている様子である。マリオンの進言ならば話を聞くことも少なくない。そんなマリオンをゴートンが奴隷にしたともなれば流石に黙ってはいないだろう。
自分は確実に粛清される。
冷えてきた頭が冷静に状況を伝えていた。自分はとんでもないことをやらかしてしまったのだという、そういう実感を。
「ど、ど、どうしよう……!」
流石に、サリーとゾウマの二人を相手に勝てる気がしない。隙を突けばサリーをスキルで奴隷にすることは可能かもしれないが、ゾウマには効果がないのだからいずれにせよ手詰まりだ。奴隷にしたマリオンは自分の思う通りに動いてくれるとしても、彼女のスキルだけで果たして防ぎきれるかどうか。
こんなはずではなかった。
そう、最初からマリオンを奴隷にするつもりではなかったのだ。だが、彼女がまたしても自分を否定しようとしているのかと思ったらもうどうにも止まれなかった。何が何でも思い知らせてやらなければ気がすまなかった。ジニーだけは絶対に奪われたくないものであったからだ。
――どうしよう……どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようっ!死にたくねえ……お、俺はまだ死にたくねえよっ!!
「……ゴートン、さん?」
「!!」
「ま、マリオンさんはどうしてしまったのですか?これは一体……?」
その場でがくがくと震えていたゴートンの耳に聞こえてきたのは、鈴が鳴るような美しい声だ。いつからそこにいたのか、ジニーが驚いたように目を見開いてそこに立っている。
その姿が、ゴートンには天女かなにかのように映ったのだ。
「あ、あああ、ジニー!ジニーィィィ!!」
ゴートンは泣きながらジニーに抱きついたのだった。
「助けてくれ。俺は死にたくないんだ。死にたくないだよぉぉぉ!!」
自分はもう、王都の屋敷に戻ることもできない。勇者パーティーを追放され、きっと処刑されるだろう。
孤独な自分に残された存在はジニーだけだった。もう自分には彼しかいないのだと、ゴートンは子供のように泣きじゃくりながらジニーに縋りついたのである。
***
――計算通り過ぎてマジで笑えるな。
ゴートンの頭を撫でながら、ジニーことジルは心の中で高笑いしていた。
ノエルはゴートンの所業を仲間に報告するだろう。サリーとゾウマ、あるいはそのどちらかが粛清に乗り出してくる可能性が極めて高い。これで、厄介な勇者パーティーは見事に二つに分裂してくれたわけだ。
サリー、ゾウマ、ノエルと。ゴートンと、ゴートンの奴隷になったマリオン。マリオンがいれば、サリーやゾウマのスキルもある程度防ぐことができるだろう。また、マリオンはサリーにかなり可愛がられていたはず。いくら意志を奪われているとはいえ、彼女を攻撃することをサリーたちが躊躇ってくれる可能性は充分考えられるはずだ。
そしてそのゴートンは、居場所も仲間も失ってジルに縋る他ない状況である。土砂降りの雨の中、差し出された手を振り払うことができる人間は少ないものだ。例えそれが詐欺師であろうと信じたくなってしまうのが人間というものである。ゴートンもきっとそうだろう。もはや、そんなドン底状態の彼を操ることなど容易いことだ。
「……事情はわかりました、ゴートンさん」
ゴートンが半分パニックになりながらも話し終えるのを待ち、ジルは告げるのである。
「本当にごめんなさい。……彼女が勇者のマリオンさんだなんて、知らなかったのです。声をかけてきたので、お客様として楽しませたくて……踊りに誘わせて頂きました。迂闊だったと思います。本当に、申し訳ありません……!」
勿論、実際はウソ。マリオンがマリオンだと分かっていて一緒に踊ったのだ。彼女が王子様にエスコートされることを夢見ていると知っていたから。お姫様として愛されることに飢えているという情報も得ていたのだから。
それが分かっていればあとは容易いこと。“女役”としてゴートンを落としたように、マリオンには“男役”に徹して篭絡してやればいいだけのことだったのである。
結果、思った以上の効果を上げてくれた。ジニーを溺愛し、同じ勇者仲間と比較されることにコンプレックスがあるゴートンは暴走して、マリオンにスキルを使ってくれた。そしてノエルがそれを見て、ゴートンを裏切り者と認定してくれた。順調すぎて怖いほどである。
「マリオンさんを、元に戻すことはできないのですか?」
「……できねぇんだ。俺たちのスキルは俺たちがスキルを貰った時の想像力に依存する。その時にイメージできなかった効果は発揮されない。俺は……奴隷にした女を開放することなんて考えもしてなかった。だから、一度かけたスキルは解除できねえ。女神様なら可能かもしれないが……」
「……そう、ですか」
少女が不憫で仕方ない。そんな表情を作りつつ、ジニーはマリオンを見る。全裸で呆けている彼女には、ジニーが上着をかけている。後で服を着せてやればいいだろう。マリオンの元々着ていたワンピースはすぐ近くに落ちているから問題あるまい。
無論そんなことをジルが考えるのは本当に彼女に同情したからではなく、ゴートンに優しい人アピールをするためであったが。
「……私は、ゴートンさんがしたことを責めることはできません。その権利もありません。引き金を引いてしまったのは私のようなものですから」
「ジニーは悪くねえよ。この女が俺の大事なものを奪おうとしたからだ。でもって俺が、後先考えられなかったからだ……」
「既に起きてしまったことをどうこう言っても仕方ありません。……確かなことはひとつなのです」
ジルは真っ直ぐゴートンを見つめて言う。
「私は……ゴートンさんに死んでほしくありません。他のお仲間の方に殺されてしまうかもしれないなんて、そんなこと想像するだけでも恐ろしい。もう、ゴートンさん無しでは人生を考えることもできないのです……!」
我ながら名演技である。目に涙を浮かべて訴えてやれば、ゴートンが泣きそうな顔で“ジニー……”と名を呼んでくる。
目の前の男がすべてを仕組んだなんて、まったく考えもしていないという顔だ。
「ひとまず、ゴートンさんが泊まっているホテルに参りましょう。そして、今後の作戦会議をするんです。なんとかして、ゴートンさんが生き延びられるように」
「ジニー……ああ、ジニー!ありがとう、本当にありがとう。もう、俺にはお前しかいねえよ……!」
ぐずぐずと醜く鼻を鳴らす男。
さて、次の作戦はどうするのがいいだろうか?
***
「はぁ!?」
かばり、とサリーはソファから身を起こした。
自分達の勇者は、女神から貰った魔法具を使って遠くであっても通信することができる。令和日本にあったようなスマートフォンのように便利なものではないので、あくまで特定の人物とだけ遠隔通信ができるだけの代物であったが。
サリーの場合それは耳につけたピアスである。青いキラキラとした玉のようなそれに触れると、念じた勇者の誰かと話ができるのだ。逆に向こうが連絡をよこしてきた場合は、頭の中にメロディが流れてきて受信することができるという仕組みになっている。
今、サリーに連絡してきたのはノエルだった。彼は明らかに動揺した様子で、ゴートンがマリオンを奴隷化してしまったことを告げたのである。
『何故ゴートンさんがそのような非道な行為をしたのかはわかりません……!ですが、ゴートンさんのスキルは確か解除ができないタイプだったはず。ということはもう、マリオンさんは……』
「あんのクソデブ男……!このクソ忙しい時に何考えてんのよっ!!」
思い切りテーブルに拳を叩きつける。同じリビングにいたゾウマが尋常ではない様子を察してか、驚いたようにこちらを見てきた。
「ヴァリアントを討伐して回るにせよ魔王の残党狩りをするにせよ、戦力は一人でも多く必要なはず。それなのにマリオンを奴隷にしたということは……あいつは裏切ったってことになるわね。ひょっとしたら知らない間に、魔王の手下の誰かと接触があったのかもしれないわ」
確か、ゴートンは新しく仲間にしたい人がいるから紹介したいと言って、ノエルとマリオンをメリーランドタウンに呼び出したはずである。ならば、その仲間にしたい人物とやらが魔王の手下であったのかもしれない。
ゴートンを唆したかもしれないその人物を徹底的にマークする必要がある。いや、それよりも先にゴートン本人を叩いてしまうべきか。
サリーとしては仲間を裏切った男を、一分一秒たりとも野放しにしておきたくはないのだ。
「……とりあえず、ノエル。あんたはそのままメリーランドタウンにて待機してなさい」
ちょいちょい、とゾウマ。手招きしながらサリーは言う。
「これから先の方針を、ゾウマと話し合って決めるわ。……あのクソ男を、必ず粛清してやるんだから……!」
「!!」
ゴートンはその声でようやく我に返った。振り向けば、ノエルが真っ青な顔でこちらを見ている。
「ま、ま、マリオンさんに何をっ……」
「あ、いや、これはそのっ」
「使ったんですか、スキルを……!」
駄目だ、誤魔化せない。ゴートンは金魚のように口をぱくぱくさせるしかなかった。
並木道の、モモザクラの木の下。全裸で仰向けに倒れたマリオンは、恍惚とした表情で宙を見ている。涎をだらだらと垂らし、股間を濡らし、今まさに何をしていたかされていたか明白な状態。それでいてゴートンがズボンを押し上げた体勢だったわけだから、言い訳の仕様もないだろう。
「仲間でしょう……!?なんで、なんでそんな酷いことができるんですかっ!!一度能力をかけたらもう解除できないんですよね!?」
純粋なノエルからすれば、ゴートンのやった行動はけして納得できるものではなかったのだろう。何度もゴートンと倒れているマリオンを交互に見つめた後、軽蔑するように吐き捨てた。
「さ、最低です……!」
「ま、待てノエル!待ってくれ!!」
慌ててゴートンが呼びかけてももう遅い。ノエルはくるりと背を向けて走り出していた。反射的にスキルを使おうとして、動きを止めるゴートン。駄目だ、ノエルは男なのだ。自分のチートスキルは対応していない。
「あ、あああ……」
ゴートンはその場に座り込んだ。マリオンの痴態が面白すぎて時間をかけすぎたのがいけなかったのか。そうすればノエルが駆けつけてくる前にマリオンを隠すことができたのか。
否、どっちみちマリオンが戻ってこなければ状況は露呈していたことだろう。ノエルは必ずマリオンを探す。隠しきれることではない。そしてゴートンが何をしたのかが知れれば、温厚なノエルもきっと許しはしない。確実にサリーとゾウマに連絡を入れるだろう。
自分達の間に、強い仲間意識があるとは思っていない。サリーたちにとってゴートンなど使い捨ての駒のようなのだろう。だが、彼女たちは従順で愛らしいマリオンのことはかなり気に入っている様子である。マリオンの進言ならば話を聞くことも少なくない。そんなマリオンをゴートンが奴隷にしたともなれば流石に黙ってはいないだろう。
自分は確実に粛清される。
冷えてきた頭が冷静に状況を伝えていた。自分はとんでもないことをやらかしてしまったのだという、そういう実感を。
「ど、ど、どうしよう……!」
流石に、サリーとゾウマの二人を相手に勝てる気がしない。隙を突けばサリーをスキルで奴隷にすることは可能かもしれないが、ゾウマには効果がないのだからいずれにせよ手詰まりだ。奴隷にしたマリオンは自分の思う通りに動いてくれるとしても、彼女のスキルだけで果たして防ぎきれるかどうか。
こんなはずではなかった。
そう、最初からマリオンを奴隷にするつもりではなかったのだ。だが、彼女がまたしても自分を否定しようとしているのかと思ったらもうどうにも止まれなかった。何が何でも思い知らせてやらなければ気がすまなかった。ジニーだけは絶対に奪われたくないものであったからだ。
――どうしよう……どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようっ!死にたくねえ……お、俺はまだ死にたくねえよっ!!
「……ゴートン、さん?」
「!!」
「ま、マリオンさんはどうしてしまったのですか?これは一体……?」
その場でがくがくと震えていたゴートンの耳に聞こえてきたのは、鈴が鳴るような美しい声だ。いつからそこにいたのか、ジニーが驚いたように目を見開いてそこに立っている。
その姿が、ゴートンには天女かなにかのように映ったのだ。
「あ、あああ、ジニー!ジニーィィィ!!」
ゴートンは泣きながらジニーに抱きついたのだった。
「助けてくれ。俺は死にたくないんだ。死にたくないだよぉぉぉ!!」
自分はもう、王都の屋敷に戻ることもできない。勇者パーティーを追放され、きっと処刑されるだろう。
孤独な自分に残された存在はジニーだけだった。もう自分には彼しかいないのだと、ゴートンは子供のように泣きじゃくりながらジニーに縋りついたのである。
***
――計算通り過ぎてマジで笑えるな。
ゴートンの頭を撫でながら、ジニーことジルは心の中で高笑いしていた。
ノエルはゴートンの所業を仲間に報告するだろう。サリーとゾウマ、あるいはそのどちらかが粛清に乗り出してくる可能性が極めて高い。これで、厄介な勇者パーティーは見事に二つに分裂してくれたわけだ。
サリー、ゾウマ、ノエルと。ゴートンと、ゴートンの奴隷になったマリオン。マリオンがいれば、サリーやゾウマのスキルもある程度防ぐことができるだろう。また、マリオンはサリーにかなり可愛がられていたはず。いくら意志を奪われているとはいえ、彼女を攻撃することをサリーたちが躊躇ってくれる可能性は充分考えられるはずだ。
そしてそのゴートンは、居場所も仲間も失ってジルに縋る他ない状況である。土砂降りの雨の中、差し出された手を振り払うことができる人間は少ないものだ。例えそれが詐欺師であろうと信じたくなってしまうのが人間というものである。ゴートンもきっとそうだろう。もはや、そんなドン底状態の彼を操ることなど容易いことだ。
「……事情はわかりました、ゴートンさん」
ゴートンが半分パニックになりながらも話し終えるのを待ち、ジルは告げるのである。
「本当にごめんなさい。……彼女が勇者のマリオンさんだなんて、知らなかったのです。声をかけてきたので、お客様として楽しませたくて……踊りに誘わせて頂きました。迂闊だったと思います。本当に、申し訳ありません……!」
勿論、実際はウソ。マリオンがマリオンだと分かっていて一緒に踊ったのだ。彼女が王子様にエスコートされることを夢見ていると知っていたから。お姫様として愛されることに飢えているという情報も得ていたのだから。
それが分かっていればあとは容易いこと。“女役”としてゴートンを落としたように、マリオンには“男役”に徹して篭絡してやればいいだけのことだったのである。
結果、思った以上の効果を上げてくれた。ジニーを溺愛し、同じ勇者仲間と比較されることにコンプレックスがあるゴートンは暴走して、マリオンにスキルを使ってくれた。そしてノエルがそれを見て、ゴートンを裏切り者と認定してくれた。順調すぎて怖いほどである。
「マリオンさんを、元に戻すことはできないのですか?」
「……できねぇんだ。俺たちのスキルは俺たちがスキルを貰った時の想像力に依存する。その時にイメージできなかった効果は発揮されない。俺は……奴隷にした女を開放することなんて考えもしてなかった。だから、一度かけたスキルは解除できねえ。女神様なら可能かもしれないが……」
「……そう、ですか」
少女が不憫で仕方ない。そんな表情を作りつつ、ジニーはマリオンを見る。全裸で呆けている彼女には、ジニーが上着をかけている。後で服を着せてやればいいだろう。マリオンの元々着ていたワンピースはすぐ近くに落ちているから問題あるまい。
無論そんなことをジルが考えるのは本当に彼女に同情したからではなく、ゴートンに優しい人アピールをするためであったが。
「……私は、ゴートンさんがしたことを責めることはできません。その権利もありません。引き金を引いてしまったのは私のようなものですから」
「ジニーは悪くねえよ。この女が俺の大事なものを奪おうとしたからだ。でもって俺が、後先考えられなかったからだ……」
「既に起きてしまったことをどうこう言っても仕方ありません。……確かなことはひとつなのです」
ジルは真っ直ぐゴートンを見つめて言う。
「私は……ゴートンさんに死んでほしくありません。他のお仲間の方に殺されてしまうかもしれないなんて、そんなこと想像するだけでも恐ろしい。もう、ゴートンさん無しでは人生を考えることもできないのです……!」
我ながら名演技である。目に涙を浮かべて訴えてやれば、ゴートンが泣きそうな顔で“ジニー……”と名を呼んでくる。
目の前の男がすべてを仕組んだなんて、まったく考えもしていないという顔だ。
「ひとまず、ゴートンさんが泊まっているホテルに参りましょう。そして、今後の作戦会議をするんです。なんとかして、ゴートンさんが生き延びられるように」
「ジニー……ああ、ジニー!ありがとう、本当にありがとう。もう、俺にはお前しかいねえよ……!」
ぐずぐずと醜く鼻を鳴らす男。
さて、次の作戦はどうするのがいいだろうか?
***
「はぁ!?」
かばり、とサリーはソファから身を起こした。
自分達の勇者は、女神から貰った魔法具を使って遠くであっても通信することができる。令和日本にあったようなスマートフォンのように便利なものではないので、あくまで特定の人物とだけ遠隔通信ができるだけの代物であったが。
サリーの場合それは耳につけたピアスである。青いキラキラとした玉のようなそれに触れると、念じた勇者の誰かと話ができるのだ。逆に向こうが連絡をよこしてきた場合は、頭の中にメロディが流れてきて受信することができるという仕組みになっている。
今、サリーに連絡してきたのはノエルだった。彼は明らかに動揺した様子で、ゴートンがマリオンを奴隷化してしまったことを告げたのである。
『何故ゴートンさんがそのような非道な行為をしたのかはわかりません……!ですが、ゴートンさんのスキルは確か解除ができないタイプだったはず。ということはもう、マリオンさんは……』
「あんのクソデブ男……!このクソ忙しい時に何考えてんのよっ!!」
思い切りテーブルに拳を叩きつける。同じリビングにいたゾウマが尋常ではない様子を察してか、驚いたようにこちらを見てきた。
「ヴァリアントを討伐して回るにせよ魔王の残党狩りをするにせよ、戦力は一人でも多く必要なはず。それなのにマリオンを奴隷にしたということは……あいつは裏切ったってことになるわね。ひょっとしたら知らない間に、魔王の手下の誰かと接触があったのかもしれないわ」
確か、ゴートンは新しく仲間にしたい人がいるから紹介したいと言って、ノエルとマリオンをメリーランドタウンに呼び出したはずである。ならば、その仲間にしたい人物とやらが魔王の手下であったのかもしれない。
ゴートンを唆したかもしれないその人物を徹底的にマークする必要がある。いや、それよりも先にゴートン本人を叩いてしまうべきか。
サリーとしては仲間を裏切った男を、一分一秒たりとも野放しにしておきたくはないのだ。
「……とりあえず、ノエル。あんたはそのままメリーランドタウンにて待機してなさい」
ちょいちょい、とゾウマ。手招きしながらサリーは言う。
「これから先の方針を、ゾウマと話し合って決めるわ。……あのクソ男を、必ず粛清してやるんだから……!」
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる