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<28・Traitor>
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「ご、ゴートンさん……何をやってるんですか!?」
「!!」
ゴートンはその声でようやく我に返った。振り向けば、ノエルが真っ青な顔でこちらを見ている。
「ま、ま、マリオンさんに何をっ……」
「あ、いや、これはそのっ」
「使ったんですか、スキルを……!」
駄目だ、誤魔化せない。ゴートンは金魚のように口をぱくぱくさせるしかなかった。
並木道の、モモザクラの木の下。全裸で仰向けに倒れたマリオンは、恍惚とした表情で宙を見ている。涎をだらだらと垂らし、股間を濡らし、今まさに何をしていたかされていたか明白な状態。それでいてゴートンがズボンを押し上げた体勢だったわけだから、言い訳の仕様もないだろう。
「仲間でしょう……!?なんで、なんでそんな酷いことができるんですかっ!!一度能力をかけたらもう解除できないんですよね!?」
純粋なノエルからすれば、ゴートンのやった行動はけして納得できるものではなかったのだろう。何度もゴートンと倒れているマリオンを交互に見つめた後、軽蔑するように吐き捨てた。
「さ、最低です……!」
「ま、待てノエル!待ってくれ!!」
慌ててゴートンが呼びかけてももう遅い。ノエルはくるりと背を向けて走り出していた。反射的にスキルを使おうとして、動きを止めるゴートン。駄目だ、ノエルは男なのだ。自分のチートスキルは対応していない。
「あ、あああ……」
ゴートンはその場に座り込んだ。マリオンの痴態が面白すぎて時間をかけすぎたのがいけなかったのか。そうすればノエルが駆けつけてくる前にマリオンを隠すことができたのか。
否、どっちみちマリオンが戻ってこなければ状況は露呈していたことだろう。ノエルは必ずマリオンを探す。隠しきれることではない。そしてゴートンが何をしたのかが知れれば、温厚なノエルもきっと許しはしない。確実にサリーとゾウマに連絡を入れるだろう。
自分達の間に、強い仲間意識があるとは思っていない。サリーたちにとってゴートンなど使い捨ての駒のようなのだろう。だが、彼女たちは従順で愛らしいマリオンのことはかなり気に入っている様子である。マリオンの進言ならば話を聞くことも少なくない。そんなマリオンをゴートンが奴隷にしたともなれば流石に黙ってはいないだろう。
自分は確実に粛清される。
冷えてきた頭が冷静に状況を伝えていた。自分はとんでもないことをやらかしてしまったのだという、そういう実感を。
「ど、ど、どうしよう……!」
流石に、サリーとゾウマの二人を相手に勝てる気がしない。隙を突けばサリーをスキルで奴隷にすることは可能かもしれないが、ゾウマには効果がないのだからいずれにせよ手詰まりだ。奴隷にしたマリオンは自分の思う通りに動いてくれるとしても、彼女のスキルだけで果たして防ぎきれるかどうか。
こんなはずではなかった。
そう、最初からマリオンを奴隷にするつもりではなかったのだ。だが、彼女がまたしても自分を否定しようとしているのかと思ったらもうどうにも止まれなかった。何が何でも思い知らせてやらなければ気がすまなかった。ジニーだけは絶対に奪われたくないものであったからだ。
――どうしよう……どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようっ!死にたくねえ……お、俺はまだ死にたくねえよっ!!
「……ゴートン、さん?」
「!!」
「ま、マリオンさんはどうしてしまったのですか?これは一体……?」
その場でがくがくと震えていたゴートンの耳に聞こえてきたのは、鈴が鳴るような美しい声だ。いつからそこにいたのか、ジニーが驚いたように目を見開いてそこに立っている。
その姿が、ゴートンには天女かなにかのように映ったのだ。
「あ、あああ、ジニー!ジニーィィィ!!」
ゴートンは泣きながらジニーに抱きついたのだった。
「助けてくれ。俺は死にたくないんだ。死にたくないだよぉぉぉ!!」
自分はもう、王都の屋敷に戻ることもできない。勇者パーティーを追放され、きっと処刑されるだろう。
孤独な自分に残された存在はジニーだけだった。もう自分には彼しかいないのだと、ゴートンは子供のように泣きじゃくりながらジニーに縋りついたのである。
***
――計算通り過ぎてマジで笑えるな。
ゴートンの頭を撫でながら、ジニーことジルは心の中で高笑いしていた。
ノエルはゴートンの所業を仲間に報告するだろう。サリーとゾウマ、あるいはそのどちらかが粛清に乗り出してくる可能性が極めて高い。これで、厄介な勇者パーティーは見事に二つに分裂してくれたわけだ。
サリー、ゾウマ、ノエルと。ゴートンと、ゴートンの奴隷になったマリオン。マリオンがいれば、サリーやゾウマのスキルもある程度防ぐことができるだろう。また、マリオンはサリーにかなり可愛がられていたはず。いくら意志を奪われているとはいえ、彼女を攻撃することをサリーたちが躊躇ってくれる可能性は充分考えられるはずだ。
そしてそのゴートンは、居場所も仲間も失ってジルに縋る他ない状況である。土砂降りの雨の中、差し出された手を振り払うことができる人間は少ないものだ。例えそれが詐欺師であろうと信じたくなってしまうのが人間というものである。ゴートンもきっとそうだろう。もはや、そんなドン底状態の彼を操ることなど容易いことだ。
「……事情はわかりました、ゴートンさん」
ゴートンが半分パニックになりながらも話し終えるのを待ち、ジルは告げるのである。
「本当にごめんなさい。……彼女が勇者のマリオンさんだなんて、知らなかったのです。声をかけてきたので、お客様として楽しませたくて……踊りに誘わせて頂きました。迂闊だったと思います。本当に、申し訳ありません……!」
勿論、実際はウソ。マリオンがマリオンだと分かっていて一緒に踊ったのだ。彼女が王子様にエスコートされることを夢見ていると知っていたから。お姫様として愛されることに飢えているという情報も得ていたのだから。
それが分かっていればあとは容易いこと。“女役”としてゴートンを落としたように、マリオンには“男役”に徹して篭絡してやればいいだけのことだったのである。
結果、思った以上の効果を上げてくれた。ジニーを溺愛し、同じ勇者仲間と比較されることにコンプレックスがあるゴートンは暴走して、マリオンにスキルを使ってくれた。そしてノエルがそれを見て、ゴートンを裏切り者と認定してくれた。順調すぎて怖いほどである。
「マリオンさんを、元に戻すことはできないのですか?」
「……できねぇんだ。俺たちのスキルは俺たちがスキルを貰った時の想像力に依存する。その時にイメージできなかった効果は発揮されない。俺は……奴隷にした女を開放することなんて考えもしてなかった。だから、一度かけたスキルは解除できねえ。女神様なら可能かもしれないが……」
「……そう、ですか」
少女が不憫で仕方ない。そんな表情を作りつつ、ジニーはマリオンを見る。全裸で呆けている彼女には、ジニーが上着をかけている。後で服を着せてやればいいだろう。マリオンの元々着ていたワンピースはすぐ近くに落ちているから問題あるまい。
無論そんなことをジルが考えるのは本当に彼女に同情したからではなく、ゴートンに優しい人アピールをするためであったが。
「……私は、ゴートンさんがしたことを責めることはできません。その権利もありません。引き金を引いてしまったのは私のようなものですから」
「ジニーは悪くねえよ。この女が俺の大事なものを奪おうとしたからだ。でもって俺が、後先考えられなかったからだ……」
「既に起きてしまったことをどうこう言っても仕方ありません。……確かなことはひとつなのです」
ジルは真っ直ぐゴートンを見つめて言う。
「私は……ゴートンさんに死んでほしくありません。他のお仲間の方に殺されてしまうかもしれないなんて、そんなこと想像するだけでも恐ろしい。もう、ゴートンさん無しでは人生を考えることもできないのです……!」
我ながら名演技である。目に涙を浮かべて訴えてやれば、ゴートンが泣きそうな顔で“ジニー……”と名を呼んでくる。
目の前の男がすべてを仕組んだなんて、まったく考えもしていないという顔だ。
「ひとまず、ゴートンさんが泊まっているホテルに参りましょう。そして、今後の作戦会議をするんです。なんとかして、ゴートンさんが生き延びられるように」
「ジニー……ああ、ジニー!ありがとう、本当にありがとう。もう、俺にはお前しかいねえよ……!」
ぐずぐずと醜く鼻を鳴らす男。
さて、次の作戦はどうするのがいいだろうか?
***
「はぁ!?」
かばり、とサリーはソファから身を起こした。
自分達の勇者は、女神から貰った魔法具を使って遠くであっても通信することができる。令和日本にあったようなスマートフォンのように便利なものではないので、あくまで特定の人物とだけ遠隔通信ができるだけの代物であったが。
サリーの場合それは耳につけたピアスである。青いキラキラとした玉のようなそれに触れると、念じた勇者の誰かと話ができるのだ。逆に向こうが連絡をよこしてきた場合は、頭の中にメロディが流れてきて受信することができるという仕組みになっている。
今、サリーに連絡してきたのはノエルだった。彼は明らかに動揺した様子で、ゴートンがマリオンを奴隷化してしまったことを告げたのである。
『何故ゴートンさんがそのような非道な行為をしたのかはわかりません……!ですが、ゴートンさんのスキルは確か解除ができないタイプだったはず。ということはもう、マリオンさんは……』
「あんのクソデブ男……!このクソ忙しい時に何考えてんのよっ!!」
思い切りテーブルに拳を叩きつける。同じリビングにいたゾウマが尋常ではない様子を察してか、驚いたようにこちらを見てきた。
「ヴァリアントを討伐して回るにせよ魔王の残党狩りをするにせよ、戦力は一人でも多く必要なはず。それなのにマリオンを奴隷にしたということは……あいつは裏切ったってことになるわね。ひょっとしたら知らない間に、魔王の手下の誰かと接触があったのかもしれないわ」
確か、ゴートンは新しく仲間にしたい人がいるから紹介したいと言って、ノエルとマリオンをメリーランドタウンに呼び出したはずである。ならば、その仲間にしたい人物とやらが魔王の手下であったのかもしれない。
ゴートンを唆したかもしれないその人物を徹底的にマークする必要がある。いや、それよりも先にゴートン本人を叩いてしまうべきか。
サリーとしては仲間を裏切った男を、一分一秒たりとも野放しにしておきたくはないのだ。
「……とりあえず、ノエル。あんたはそのままメリーランドタウンにて待機してなさい」
ちょいちょい、とゾウマ。手招きしながらサリーは言う。
「これから先の方針を、ゾウマと話し合って決めるわ。……あのクソ男を、必ず粛清してやるんだから……!」
「!!」
ゴートンはその声でようやく我に返った。振り向けば、ノエルが真っ青な顔でこちらを見ている。
「ま、ま、マリオンさんに何をっ……」
「あ、いや、これはそのっ」
「使ったんですか、スキルを……!」
駄目だ、誤魔化せない。ゴートンは金魚のように口をぱくぱくさせるしかなかった。
並木道の、モモザクラの木の下。全裸で仰向けに倒れたマリオンは、恍惚とした表情で宙を見ている。涎をだらだらと垂らし、股間を濡らし、今まさに何をしていたかされていたか明白な状態。それでいてゴートンがズボンを押し上げた体勢だったわけだから、言い訳の仕様もないだろう。
「仲間でしょう……!?なんで、なんでそんな酷いことができるんですかっ!!一度能力をかけたらもう解除できないんですよね!?」
純粋なノエルからすれば、ゴートンのやった行動はけして納得できるものではなかったのだろう。何度もゴートンと倒れているマリオンを交互に見つめた後、軽蔑するように吐き捨てた。
「さ、最低です……!」
「ま、待てノエル!待ってくれ!!」
慌ててゴートンが呼びかけてももう遅い。ノエルはくるりと背を向けて走り出していた。反射的にスキルを使おうとして、動きを止めるゴートン。駄目だ、ノエルは男なのだ。自分のチートスキルは対応していない。
「あ、あああ……」
ゴートンはその場に座り込んだ。マリオンの痴態が面白すぎて時間をかけすぎたのがいけなかったのか。そうすればノエルが駆けつけてくる前にマリオンを隠すことができたのか。
否、どっちみちマリオンが戻ってこなければ状況は露呈していたことだろう。ノエルは必ずマリオンを探す。隠しきれることではない。そしてゴートンが何をしたのかが知れれば、温厚なノエルもきっと許しはしない。確実にサリーとゾウマに連絡を入れるだろう。
自分達の間に、強い仲間意識があるとは思っていない。サリーたちにとってゴートンなど使い捨ての駒のようなのだろう。だが、彼女たちは従順で愛らしいマリオンのことはかなり気に入っている様子である。マリオンの進言ならば話を聞くことも少なくない。そんなマリオンをゴートンが奴隷にしたともなれば流石に黙ってはいないだろう。
自分は確実に粛清される。
冷えてきた頭が冷静に状況を伝えていた。自分はとんでもないことをやらかしてしまったのだという、そういう実感を。
「ど、ど、どうしよう……!」
流石に、サリーとゾウマの二人を相手に勝てる気がしない。隙を突けばサリーをスキルで奴隷にすることは可能かもしれないが、ゾウマには効果がないのだからいずれにせよ手詰まりだ。奴隷にしたマリオンは自分の思う通りに動いてくれるとしても、彼女のスキルだけで果たして防ぎきれるかどうか。
こんなはずではなかった。
そう、最初からマリオンを奴隷にするつもりではなかったのだ。だが、彼女がまたしても自分を否定しようとしているのかと思ったらもうどうにも止まれなかった。何が何でも思い知らせてやらなければ気がすまなかった。ジニーだけは絶対に奪われたくないものであったからだ。
――どうしよう……どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようっ!死にたくねえ……お、俺はまだ死にたくねえよっ!!
「……ゴートン、さん?」
「!!」
「ま、マリオンさんはどうしてしまったのですか?これは一体……?」
その場でがくがくと震えていたゴートンの耳に聞こえてきたのは、鈴が鳴るような美しい声だ。いつからそこにいたのか、ジニーが驚いたように目を見開いてそこに立っている。
その姿が、ゴートンには天女かなにかのように映ったのだ。
「あ、あああ、ジニー!ジニーィィィ!!」
ゴートンは泣きながらジニーに抱きついたのだった。
「助けてくれ。俺は死にたくないんだ。死にたくないだよぉぉぉ!!」
自分はもう、王都の屋敷に戻ることもできない。勇者パーティーを追放され、きっと処刑されるだろう。
孤独な自分に残された存在はジニーだけだった。もう自分には彼しかいないのだと、ゴートンは子供のように泣きじゃくりながらジニーに縋りついたのである。
***
――計算通り過ぎてマジで笑えるな。
ゴートンの頭を撫でながら、ジニーことジルは心の中で高笑いしていた。
ノエルはゴートンの所業を仲間に報告するだろう。サリーとゾウマ、あるいはそのどちらかが粛清に乗り出してくる可能性が極めて高い。これで、厄介な勇者パーティーは見事に二つに分裂してくれたわけだ。
サリー、ゾウマ、ノエルと。ゴートンと、ゴートンの奴隷になったマリオン。マリオンがいれば、サリーやゾウマのスキルもある程度防ぐことができるだろう。また、マリオンはサリーにかなり可愛がられていたはず。いくら意志を奪われているとはいえ、彼女を攻撃することをサリーたちが躊躇ってくれる可能性は充分考えられるはずだ。
そしてそのゴートンは、居場所も仲間も失ってジルに縋る他ない状況である。土砂降りの雨の中、差し出された手を振り払うことができる人間は少ないものだ。例えそれが詐欺師であろうと信じたくなってしまうのが人間というものである。ゴートンもきっとそうだろう。もはや、そんなドン底状態の彼を操ることなど容易いことだ。
「……事情はわかりました、ゴートンさん」
ゴートンが半分パニックになりながらも話し終えるのを待ち、ジルは告げるのである。
「本当にごめんなさい。……彼女が勇者のマリオンさんだなんて、知らなかったのです。声をかけてきたので、お客様として楽しませたくて……踊りに誘わせて頂きました。迂闊だったと思います。本当に、申し訳ありません……!」
勿論、実際はウソ。マリオンがマリオンだと分かっていて一緒に踊ったのだ。彼女が王子様にエスコートされることを夢見ていると知っていたから。お姫様として愛されることに飢えているという情報も得ていたのだから。
それが分かっていればあとは容易いこと。“女役”としてゴートンを落としたように、マリオンには“男役”に徹して篭絡してやればいいだけのことだったのである。
結果、思った以上の効果を上げてくれた。ジニーを溺愛し、同じ勇者仲間と比較されることにコンプレックスがあるゴートンは暴走して、マリオンにスキルを使ってくれた。そしてノエルがそれを見て、ゴートンを裏切り者と認定してくれた。順調すぎて怖いほどである。
「マリオンさんを、元に戻すことはできないのですか?」
「……できねぇんだ。俺たちのスキルは俺たちがスキルを貰った時の想像力に依存する。その時にイメージできなかった効果は発揮されない。俺は……奴隷にした女を開放することなんて考えもしてなかった。だから、一度かけたスキルは解除できねえ。女神様なら可能かもしれないが……」
「……そう、ですか」
少女が不憫で仕方ない。そんな表情を作りつつ、ジニーはマリオンを見る。全裸で呆けている彼女には、ジニーが上着をかけている。後で服を着せてやればいいだろう。マリオンの元々着ていたワンピースはすぐ近くに落ちているから問題あるまい。
無論そんなことをジルが考えるのは本当に彼女に同情したからではなく、ゴートンに優しい人アピールをするためであったが。
「……私は、ゴートンさんがしたことを責めることはできません。その権利もありません。引き金を引いてしまったのは私のようなものですから」
「ジニーは悪くねえよ。この女が俺の大事なものを奪おうとしたからだ。でもって俺が、後先考えられなかったからだ……」
「既に起きてしまったことをどうこう言っても仕方ありません。……確かなことはひとつなのです」
ジルは真っ直ぐゴートンを見つめて言う。
「私は……ゴートンさんに死んでほしくありません。他のお仲間の方に殺されてしまうかもしれないなんて、そんなこと想像するだけでも恐ろしい。もう、ゴートンさん無しでは人生を考えることもできないのです……!」
我ながら名演技である。目に涙を浮かべて訴えてやれば、ゴートンが泣きそうな顔で“ジニー……”と名を呼んでくる。
目の前の男がすべてを仕組んだなんて、まったく考えもしていないという顔だ。
「ひとまず、ゴートンさんが泊まっているホテルに参りましょう。そして、今後の作戦会議をするんです。なんとかして、ゴートンさんが生き延びられるように」
「ジニー……ああ、ジニー!ありがとう、本当にありがとう。もう、俺にはお前しかいねえよ……!」
ぐずぐずと醜く鼻を鳴らす男。
さて、次の作戦はどうするのがいいだろうか?
***
「はぁ!?」
かばり、とサリーはソファから身を起こした。
自分達の勇者は、女神から貰った魔法具を使って遠くであっても通信することができる。令和日本にあったようなスマートフォンのように便利なものではないので、あくまで特定の人物とだけ遠隔通信ができるだけの代物であったが。
サリーの場合それは耳につけたピアスである。青いキラキラとした玉のようなそれに触れると、念じた勇者の誰かと話ができるのだ。逆に向こうが連絡をよこしてきた場合は、頭の中にメロディが流れてきて受信することができるという仕組みになっている。
今、サリーに連絡してきたのはノエルだった。彼は明らかに動揺した様子で、ゴートンがマリオンを奴隷化してしまったことを告げたのである。
『何故ゴートンさんがそのような非道な行為をしたのかはわかりません……!ですが、ゴートンさんのスキルは確か解除ができないタイプだったはず。ということはもう、マリオンさんは……』
「あんのクソデブ男……!このクソ忙しい時に何考えてんのよっ!!」
思い切りテーブルに拳を叩きつける。同じリビングにいたゾウマが尋常ではない様子を察してか、驚いたようにこちらを見てきた。
「ヴァリアントを討伐して回るにせよ魔王の残党狩りをするにせよ、戦力は一人でも多く必要なはず。それなのにマリオンを奴隷にしたということは……あいつは裏切ったってことになるわね。ひょっとしたら知らない間に、魔王の手下の誰かと接触があったのかもしれないわ」
確か、ゴートンは新しく仲間にしたい人がいるから紹介したいと言って、ノエルとマリオンをメリーランドタウンに呼び出したはずである。ならば、その仲間にしたい人物とやらが魔王の手下であったのかもしれない。
ゴートンを唆したかもしれないその人物を徹底的にマークする必要がある。いや、それよりも先にゴートン本人を叩いてしまうべきか。
サリーとしては仲間を裏切った男を、一分一秒たりとも野放しにしておきたくはないのだ。
「……とりあえず、ノエル。あんたはそのままメリーランドタウンにて待機してなさい」
ちょいちょい、とゾウマ。手招きしながらサリーは言う。
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