最強魔王の子供達~仇の勇者を倒すため、チート兄妹が無双致します~

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中

文字の大きさ
上 下
28 / 41

<28・Traitor>

しおりを挟む
「ご、ゴートンさん……何をやってるんですか!?」
「!!」

 ゴートンはその声でようやく我に返った。振り向けば、ノエルが真っ青な顔でこちらを見ている。

「ま、ま、マリオンさんに何をっ……」
「あ、いや、これはそのっ」
「使ったんですか、スキルを……!」

 駄目だ、誤魔化せない。ゴートンは金魚のように口をぱくぱくさせるしかなかった。
 並木道の、モモザクラの木の下。全裸で仰向けに倒れたマリオンは、恍惚とした表情で宙を見ている。涎をだらだらと垂らし、股間を濡らし、今まさに何をしていたかされていたか明白な状態。それでいてゴートンがズボンを押し上げた体勢だったわけだから、言い訳の仕様もないだろう。

「仲間でしょう……!?なんで、なんでそんな酷いことができるんですかっ!!一度能力をかけたらもう解除できないんですよね!?」

 純粋なノエルからすれば、ゴートンのやった行動はけして納得できるものではなかったのだろう。何度もゴートンと倒れているマリオンを交互に見つめた後、軽蔑するように吐き捨てた。

「さ、最低です……!」
「ま、待てノエル!待ってくれ!!」

 慌ててゴートンが呼びかけてももう遅い。ノエルはくるりと背を向けて走り出していた。反射的にスキルを使おうとして、動きを止めるゴートン。駄目だ、ノエルは男なのだ。自分のチートスキルは対応していない。

「あ、あああ……」

 ゴートンはその場に座り込んだ。マリオンの痴態が面白すぎて時間をかけすぎたのがいけなかったのか。そうすればノエルが駆けつけてくる前にマリオンを隠すことができたのか。
 否、どっちみちマリオンが戻ってこなければ状況は露呈していたことだろう。ノエルは必ずマリオンを探す。隠しきれることではない。そしてゴートンが何をしたのかが知れれば、温厚なノエルもきっと許しはしない。確実にサリーとゾウマに連絡を入れるだろう。
 自分達の間に、強い仲間意識があるとは思っていない。サリーたちにとってゴートンなど使い捨ての駒のようなのだろう。だが、彼女たちは従順で愛らしいマリオンのことはかなり気に入っている様子である。マリオンの進言ならば話を聞くことも少なくない。そんなマリオンをゴートンが奴隷にしたともなれば流石に黙ってはいないだろう。
 自分は確実に粛清される。
 冷えてきた頭が冷静に状況を伝えていた。自分はとんでもないことをやらかしてしまったのだという、そういう実感を。

「ど、ど、どうしよう……!」

 流石に、サリーとゾウマの二人を相手に勝てる気がしない。隙を突けばサリーをスキルで奴隷にすることは可能かもしれないが、ゾウマには効果がないのだからいずれにせよ手詰まりだ。奴隷にしたマリオンは自分の思う通りに動いてくれるとしても、彼女のスキルだけで果たして防ぎきれるかどうか。
 こんなはずではなかった。
 そう、最初からマリオンを奴隷にするつもりではなかったのだ。だが、彼女がまたしても自分を否定しようとしているのかと思ったらもうどうにも止まれなかった。何が何でも思い知らせてやらなければ気がすまなかった。ジニーだけは絶対に奪われたくないものであったからだ。

――どうしよう……どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようっ!死にたくねえ……お、俺はまだ死にたくねえよっ!!

「……ゴートン、さん?」
「!!」
「ま、マリオンさんはどうしてしまったのですか?これは一体……?」

 その場でがくがくと震えていたゴートンの耳に聞こえてきたのは、鈴が鳴るような美しい声だ。いつからそこにいたのか、ジニーが驚いたように目を見開いてそこに立っている。
 その姿が、ゴートンには天女かなにかのように映ったのだ。

「あ、あああ、ジニー!ジニーィィィ!!」

 ゴートンは泣きながらジニーに抱きついたのだった。

「助けてくれ。俺は死にたくないんだ。死にたくないだよぉぉぉ!!」

 自分はもう、王都の屋敷に戻ることもできない。勇者パーティーを追放され、きっと処刑されるだろう。
 孤独な自分に残された存在はジニーだけだった。もう自分には彼しかいないのだと、ゴートンは子供のように泣きじゃくりながらジニーに縋りついたのである。



 ***



――計算通り過ぎてマジで笑えるな。

 ゴートンの頭を撫でながら、ジニーことジルは心の中で高笑いしていた。
 ノエルはゴートンの所業を仲間に報告するだろう。サリーとゾウマ、あるいはそのどちらかが粛清に乗り出してくる可能性が極めて高い。これで、厄介な勇者パーティーは見事に二つに分裂してくれたわけだ。
 サリー、ゾウマ、ノエルと。ゴートンと、ゴートンの奴隷になったマリオン。マリオンがいれば、サリーやゾウマのスキルもある程度防ぐことができるだろう。また、マリオンはサリーにかなり可愛がられていたはず。いくら意志を奪われているとはいえ、彼女を攻撃することをサリーたちが躊躇ってくれる可能性は充分考えられるはずだ。
 そしてそのゴートンは、居場所も仲間も失ってジルに縋る他ない状況である。土砂降りの雨の中、差し出された手を振り払うことができる人間は少ないものだ。例えそれが詐欺師であろうと信じたくなってしまうのが人間というものである。ゴートンもきっとそうだろう。もはや、そんなドン底状態の彼を操ることなど容易いことだ。

「……事情はわかりました、ゴートンさん」

 ゴートンが半分パニックになりながらも話し終えるのを待ち、ジルは告げるのである。

「本当にごめんなさい。……彼女が勇者のマリオンさんだなんて、知らなかったのです。声をかけてきたので、お客様として楽しませたくて……踊りに誘わせて頂きました。迂闊だったと思います。本当に、申し訳ありません……!」

 勿論、実際はウソ。マリオンがマリオンだと分かっていて一緒に踊ったのだ。彼女が王子様にエスコートされることを夢見ていると知っていたから。お姫様として愛されることに飢えているという情報も得ていたのだから。
 それが分かっていればあとは容易いこと。“女役”としてゴートンを落としたように、マリオンには“男役”に徹して篭絡してやればいいだけのことだったのである。
 結果、思った以上の効果を上げてくれた。ジニーを溺愛し、同じ勇者仲間と比較されることにコンプレックスがあるゴートンは暴走して、マリオンにスキルを使ってくれた。そしてノエルがそれを見て、ゴートンを裏切り者と認定してくれた。順調すぎて怖いほどである。

「マリオンさんを、元に戻すことはできないのですか?」
「……できねぇんだ。俺たちのスキルは俺たちがスキルを貰った時の想像力に依存する。その時にイメージできなかった効果は発揮されない。俺は……奴隷にした女を開放することなんて考えもしてなかった。だから、一度かけたスキルは解除できねえ。女神様なら可能かもしれないが……」
「……そう、ですか」

 少女が不憫で仕方ない。そんな表情を作りつつ、ジニーはマリオンを見る。全裸で呆けている彼女には、ジニーが上着をかけている。後で服を着せてやればいいだろう。マリオンの元々着ていたワンピースはすぐ近くに落ちているから問題あるまい。
 無論そんなことをジルが考えるのは本当に彼女に同情したからではなく、ゴートンに優しい人アピールをするためであったが。

「……私は、ゴートンさんがしたことを責めることはできません。その権利もありません。引き金を引いてしまったのは私のようなものですから」
「ジニーは悪くねえよ。この女が俺の大事なものを奪おうとしたからだ。でもって俺が、後先考えられなかったからだ……」
「既に起きてしまったことをどうこう言っても仕方ありません。……確かなことはひとつなのです」

 ジルは真っ直ぐゴートンを見つめて言う。

「私は……ゴートンさんに死んでほしくありません。他のお仲間の方に殺されてしまうかもしれないなんて、そんなこと想像するだけでも恐ろしい。もう、ゴートンさん無しでは人生を考えることもできないのです……!」

 我ながら名演技である。目に涙を浮かべて訴えてやれば、ゴートンが泣きそうな顔で“ジニー……”と名を呼んでくる。
 目の前の男がすべてを仕組んだなんて、まったく考えもしていないという顔だ。

「ひとまず、ゴートンさんが泊まっているホテルに参りましょう。そして、今後の作戦会議をするんです。なんとかして、ゴートンさんが生き延びられるように」
「ジニー……ああ、ジニー!ありがとう、本当にありがとう。もう、俺にはお前しかいねえよ……!」

 ぐずぐずと醜く鼻を鳴らす男。
 さて、次の作戦はどうするのがいいだろうか?



 ***



「はぁ!?」

 かばり、とサリーはソファから身を起こした。
 自分達の勇者は、女神から貰った魔法具を使って遠くであっても通信することができる。令和日本にあったようなスマートフォンのように便利なものではないので、あくまで特定の人物とだけ遠隔通信ができるだけの代物であったが。
 サリーの場合それは耳につけたピアスである。青いキラキラとした玉のようなそれに触れると、念じた勇者の誰かと話ができるのだ。逆に向こうが連絡をよこしてきた場合は、頭の中にメロディが流れてきて受信することができるという仕組みになっている。
 今、サリーに連絡してきたのはノエルだった。彼は明らかに動揺した様子で、ゴートンがマリオンを奴隷化してしまったことを告げたのである。

『何故ゴートンさんがそのような非道な行為をしたのかはわかりません……!ですが、ゴートンさんのスキルは確か解除ができないタイプだったはず。ということはもう、マリオンさんは……』
「あんのクソデブ男……!このクソ忙しい時に何考えてんのよっ!!」

 思い切りテーブルに拳を叩きつける。同じリビングにいたゾウマが尋常ではない様子を察してか、驚いたようにこちらを見てきた。

「ヴァリアントを討伐して回るにせよ魔王の残党狩りをするにせよ、戦力は一人でも多く必要なはず。それなのにマリオンを奴隷にしたということは……あいつは裏切ったってことになるわね。ひょっとしたら知らない間に、魔王の手下の誰かと接触があったのかもしれないわ」

 確か、ゴートンは新しく仲間にしたい人がいるから紹介したいと言って、ノエルとマリオンをメリーランドタウンに呼び出したはずである。ならば、その仲間にしたい人物とやらが魔王の手下であったのかもしれない。
 ゴートンを唆したかもしれないその人物を徹底的にマークする必要がある。いや、それよりも先にゴートン本人を叩いてしまうべきか。
 サリーとしては仲間を裏切った男を、一分一秒たりとも野放しにしておきたくはないのだ。

「……とりあえず、ノエル。あんたはそのままメリーランドタウンにて待機してなさい」

 ちょいちょい、とゾウマ。手招きしながらサリーは言う。

「これから先の方針を、ゾウマと話し合って決めるわ。……あのクソ男を、必ず粛清してやるんだから……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...