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第3章 アリスと公爵家

27.フロンティスへの道

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 私は侍女達に身を任せながら視察に行く準備をしていた。

「流石に着込みすぎじゃない?」
「いいえ、そんなことありません!」

 侍女達が口を揃えて言うものだから私は大人しくまた身を任せた。公爵様が言うには薬学研究所はフリーレンから遠くのフロンティスにあるため一層寒くなると聞いていた。その結果侍女達が私にやたら防寒具を着込ませているのだ。

「1日で往復は出来ると聞いていますが、あちらは冷えると聞きました。それならば当然のお召し物です!フリーレンですら寒さが厳しいのですから」

 エマはそう言いながら手際よく動いていた。準備を終えるとクロード様が部屋の扉を叩き、私は公爵邸の門へと向かった。

 私はクロード様に案内されるがままに馬車の前に行くと公爵様が待っていた。

「今日は随分と暖かそうな格好ですね」
「ええ、侍女にフロンティスに行くと言ったらこんなに着込まされてしまって」

 そう言うと公爵様は少し笑った。

「フロンティスはフリーレンよりも寒いですからそれだけ着込んでいれば安心でしょう」

 思えば公爵様が笑った顔を見るのは初めてだった。私は暫くの間、公爵様の顔を見ていると不思議そうに公爵様が話しかけてきた。

「どうかなさいましたか?」
「いえ、笑った顔を見たのが初めてだったもので」

 公爵様は少し恥ずかしそうに顔を横に向けた。私はそんな姿が新鮮で笑ってしまった。

「公爵様もそんなお顔をされるのですね」
「…あまり年上をからかわないほうが良いと思います」

 公爵様は馬車の前で私に手を差し伸べた。

「…外は寒いですから話しの続きは中でいたしましょう。」

 私は公爵様の手を取って馬車の中へ向かった。馬車の中は外よりは温かいとはいえ中も冷え込んでいる。私の後に公爵様が乗り込むと公爵様は少し寒そうに腕を組んで座っていた。

「公爵様は寒くないのですか?」
「…これくらいの寒さでしたら慣れていますので」
「ですが」

 私は咄嗟に公爵様の手を取った。やはり手がかなり冷たいようだった。

「やはり手が冷えきっています。私の上掛けをお貸しします。」
「…アリス嬢!」
「え?」

 公爵様を見ると顔が赤くなっていた。私は寒さのせいかと思い、すぐに自分の上掛けを公爵様に渡した。

「公爵様は慣れているのかもしれませんが、お風邪を召されると大変ですよ。どうぞお使い下さい」
「…そういう訳ではないのですが」

 「ありがとうございます」と公爵様は私に告げると馬車はフロンティスへ向けて走り出したのだった。
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