家に帰りたい狩りゲー転移

roos

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5章

(43)行き先は

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 潜水艦を追いかけるとは言ったものの、渓谷を流れていた川はとっくに蒸発して、すべて砂に埋もれてしまっていた。潜水艦がヨルドの里へ向かったのか、それとも北のガルラ環洞窟まで遡っていったのかは全くの不明だ。

「うーん……どうやって追いかけりゃいいんだ?」
「提案しておいてそれかい」

 アンリに呆れられ、俺はムキになって反論した。

「仕方ないだろ? 時間的にも渓谷全部の砂を退けるわけにはいかないし、間違った方角を探してたらバルド村の皆を見つけ出すまで何日かかるか……」
「砂を退けられるようになったんだから、てっきり『瞋恚』で魂の痕跡を辿るもんだと思ってたけど?」
「あっ」

 潜水艦で脱出した手がかりを見つけたせいですっかり忘れていたが、当初の目的は魂の痕跡を辿るために砂を退けようとしていたのだった。俺があんぐりと口を開ければ、アンリは馬鹿にするような目つきになった。

「ほんっと、変なところで抜けてるよね」
「うっせ!」

 顔が赤くなるのを誤魔化しながら怒鳴り返すと、壁に開いた大穴の方からシャルが声を張り上げて聞いてきた。

「ねぇねぇ、この穴、もしかしてあっちの洞窟に繋がってるんじゃないか!?」
「洞窟ってどこの?」
「レオハニーから頼まれたお仕事で見つけたやつ! こっち!」

 そういえば俺がユダラナーガを討伐しに行く前、レオハニーがシャルにそんなことをお願いしていた気がする。

 シャルの説明には所々要領を得ない部分があったが、潜水艦の行き先が分かったのなら話は早い。早速シャルを追いかけようと俺は走り出そうとした。

 その途中、廊下に続く扉の方から声をかけられた。

「リョーホ様。お待ちを」
「ん、どうしたツクモ」

 振り返りながら訪ねると、ツクモから分厚い本を差し出された。

「こちらが例の日記かと」
「あ、あぁ。ありがとう。一人で探してくれたのか」

 気持ちが急いていたあまり、大事な日記を無視してしまうところだった。お礼を言いながら日記の中を確認してみると、機械仕掛けの世界に関する単語がちらほらと見えた。これがベアルドルフの言っていたもので間違いないだろう。ここでは読む時間がないため、詳細な中身を確認するのはエラムラに帰った後だ。

 俺が日記を閉じたタイミングで、ツクモは神妙な面持ちで声のボリュームを絞った。

「それと、エラムラの者たちと共に監獄の方を確認して参りましたが、中身は空っぽでした」
「ディアノックスに喰われた形跡は?」
「ありません。おそらく脱走したものと思われます」
「そうか。やっぱりな」

 ほとんど不死身の肉体を持ち『催眠』まで持っているベートならば、ディアノックスの襲撃に乗じて脱走するぐらい余裕でこなせるだろう。できればディアノックスに食われていれば手間が省けたのだが。

 眉間に皺を刻みながら日記を抱え直したところで、アンリが穴の向こうから声を張り上げた。

「リョーホ! 早く来い!」
「今行く!」

 研究所を出て、監獄を見ていたエラムラの狩人と合流しながら渓谷の上流へと遡る。

「ここ!」

 快活に言いながら、シャルが渓谷と地面の隙間を真っすぐと指さした。『瞋恚』を使いながら近づいてみると、かなり薄っすらとだが魂の痕跡が見えた。

「下がっててくれ」

 集まった面々に呼びかけながら『砂紋』で周辺の砂を取り除く。すると間もなく、渓谷の壁に俯くように開けられた真っ黒な洞窟が現れた。洞窟の縁には真っ青に光る液体がこびりついており、それが魂の痕跡の正体だった。

「これって……命綱の瓶じゃないか!?」

 エラムラの狩人の言葉に、その場にいた全員が大きく息をのんだ。
 命綱の瓶は、ドラゴンから匂いや姿を隠してくれる超チートアイテムだ。瓶の中には青い煙が詰まっており、使用した者が他の狩人に救助してもらえるよう青い足跡を残すよう設計されている。

 命綱の瓶に魂の痕跡が混ざっているということは、瓶の使用者が間違いなく生きているという証左だった。

 全滅すらありえたバルド村の惨状で生存者がいた。その証拠を見つけただけで、俺は踊り出しそうなほどの歓喜に包まれた。

「まだ間に合う……助けられる人がいる……!」

 拳を握りしめながら俺が感極まったように呟けば、背後にいた仲間たちから小さな歓声が湧いた。

 俺はしばしの間喜びを噛み締めた後、ふとこの洞窟が砂の中に深く埋もれていたことを思い出した。

「それにしてもシャル、よくこれが洞窟だって分かったな」
「魂の痕跡が落ちてくのが見えたから。あと音がする!」
「音?」
「ほら、洞窟で大声出すとぐわんぐわんするじゃん? あんな感じの音がずっと聞こえる!」

 そう言われて洞窟の傍に立ってみると、確かに水の音が奥底から反響し続けていた。反響音からしてかなりの深さがありそうだ。

 俺は試しに『砂紋』で砂から石を作り、洞窟の中に放ってみた。数秒待っても一向に音が帰ってこない。それからさらに数秒後、石が深い水に落ちる音が微かに聞こえた。

 瞬間。

『グオオオオオオオオ……!』

 一匹のドラゴンの咆哮が響き渡ったかと思うと、それに追随するように様々な怒号が入り乱れた。しばらくすると穴の奥底から突風が吹き上がり、俺を洞窟の縁から強く突き飛ばした。

「うおっと」

 よろけながら洞窟の縁に寄りかかると、洞窟の奥で一瞬だけ光が瞬き、小さな爆発音がした。ただの石ころが落ちただけで戦闘が勃発するぐらい、洞窟の中には無数のドラゴンがひしめいているらしい。
 
「なんの準備もなしに飛び込むのは無謀だな」

 ドラゴン狩り最前線の地下洞窟なんて、どう考えても上位ドラゴンばかりが集まっているはず。飛行できる菌糸能力持ちでも、穴の底からここまで戻ってくるのは命懸けになるだろう。それに、ビーニャ砂漠を二時間歩いただけでへとへとになった俺が、生存者を探しながら動き回れるわけがない。

 顎に手を当てながら考え込んでいると、レオハニーが無表情のまま首を傾げた。

「……私が一掃しようか?」
「ダメです。いたずらにドラゴンの生態系を崩してはいけないでしょう。それにレオハニーさんが行くなら俺も行きます。今日俺が言ったこと、まさか忘れてませんよね?」
「そうだったね」

 レオハニーは柔らかく目を伏せながら大人しく身を引いた。なぜだか俺は自分の幼い我儘を無理やり聞いてもらった気持ちになって、腹の辺りがくすぐったくなってしまった。

 人命を考えるなら生態系に拘っている場合ではないし、レオハニーの才能を腐らせるのも合理的ではないのかもしれない。それでもすぐ近くにいる人間をないがしろにしてまで突き進むほど、俺達は追い詰められていない。だからレオハニーを一人で行かせるのは最終手段だ。

 その代わり、別の手段を探さなければ。

 洞窟の中を睨みつけていると、アンリが腕を組みながら目を眇めた。

「水の音がまだ聞こえているのなら、洞窟内はディアノックスの被害から免れているはずだ。しかもあの爆発は水棲ドラゴンが生み出せるものじゃないから、陸上のドラゴンも中にいるんだと思う」
「なら、陸上ドラゴンでも入れる別の入口があるってことだよな?」

 すると、話を聞いていたエラムラの狩人が、顎髭を擦りながら視線を右上に逸らした。

「そういえばガルラ環洞窟とヨルドの里の入江にはドラゴンの通り道があると聞いたことがあるぞ」
「本当ですか?」
「老人連中の古い言い伝えだ。詳しい場所も聞いていないが、もし本当ならこの洞窟と繋がっていてもおかしくないだろう?」

 この洞窟がドラゴンの通り道ならば、内部に大量のドラゴンがいる理由も納得がいく。そして老人の噂が元ならば、バルド村でもっとも高齢のメルク村長が知っていてもおかしくない。

「けど、潜水艦がどっちに向かったのかは結局分からないままだな」
「だね。研究所にも書き置きなんてなかったし、二択で選ぶしかなさそうだ」

 アンリの台詞に俺は落胆しつつ、思考を整理するために深呼吸した。

 救助をするにあたって最もやってはいけないのは、ミイラ取りがミイラになることだ。かと言って救助が遅れれば、それだけ救助対象の生存率も下がってしまう。

 引き際か、攻め時か。

「……皆、帰る準備をしよう」

 俺が告げると、エトロが躊躇いがちに袖をつまんできた。

「いいのか?」
「ああ。バルド村でやりたかったことは全部終わった。ハウラに報告して、それからヨルドの里に向かおう。運が良ければそこでバルド村の皆を見つけられると思う」
「もし、見つからなかったら?」

 珍しく不安そうに眉を寄せるエトロに、俺は胸のつかえを押し出すように力強く言った。

「ガルラ環洞窟まで速攻で向かう。ドラゴンの通り道を抜けてでも」

 エトロは睫毛を震わせると、無言で笑みを浮かべながら俺の手を強く握った。
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