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10 もう一機の試作機

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「きーちゃんこうなると長いからなぁ」
 無線の前から離れて、塚越は振り返った。
「そういや小野君ってのは君かい?」
 塚越は居並ぶ中から朱音を見いだして声を掛けた。
「はい! 小野朱音三技曹であります!」
 緊張していささか甲高い声で朱音が答えていた。
「すると君が丹羽君だな」
 今度はそこにいる搭乗員の中で一番若い洋一を捜し当てた。「丹羽洋一三飛曹であります!」
 洋一も力強く答える。
「モーガンの過過給テストの資料護ってくれてありがとね。レイリー・ライレーの連中喜んでいたし、うちもどさくさで閲覧できた」
 からからと塚越は笑った。そして不意に二人の肩を抱えた。
「それと、フォッカー持ってきてくれてありがとう」
 二人だけに聞こえるように塚越は囁いた。
「機密だとかでおおっぴらに云えないけど、色々判って助かったよ。大手柄なんだから海軍も野暮なこと云ってないで金鵄勲章でも上げれば良いのに」
 塚越はパンと二人の背中を叩いた。秘密の話はこれでおしまいという合図だろう。
「この前の十式の翼端切ったのも良いアイデアだったよ。嬢ちゃんの考察と分析ちゃんとしてたし、飛行レポート書いたの君だろ。素人にしちゃ具体的に評価している」
 そう褒められると何だか背中がかゆくなってくる。
「なにか海軍でしくじって首になったらうちにきなよ。君はテスパイに向いている」
 よく判らないが、どうやら褒めているらしい。
「面白いからその翼端切るアイデア使わして貰おうってのが今回君たちが呼ばれた理由なんだ」
 先ほどの機の更に奥に、塚越は歩みを進めた。
「これから先、速度はいくらでも求められる。エンジンも進化するだろうが、機体も改良しなければならない。翼端切っただけで速くなるなら試してみない手はないな」
 奥に居るのは十式艦戦。しかし塚越が触ったそれは、翼端の部分が角形に切り落とされていた。
 なるほど、ちゃんとやるとこうなるのか。洋一のみならず一同は翼端の処理を見上げた。
「綺麗ですね、うちらが余った木で作ったのに比べたら雲泥の差だ。翼端灯もちゃんと新しい形になっているし」
 ジュラルミンの外皮で綺麗に覆われ、初めからそういう設計だったかのようだった。木を削った朱音が向こうで睨んでいるが、洋一は気にしないことにした。
「エンジンも少しばかりとは云えブーストを上げた。これからどうも陸上基地用の戦闘機の引き合いが増えそうだ。そんなわけでちょっと試験飛行を手伝って欲しい」
 自分たちの出したアイデアがこんなふうに形になるとは。洋一と朱音は感慨深く銀色の翼を見た。
「で、こいつ見てたらもう一つネタを思いついちゃってね」
 更に奥に塚越は案内する。
「翼端部分って折りたたみになっているから、割と好きにいじれるんだ」
 そこには更にもう一機の十式艦戦が居た。こちらの翼端は角張っていない。見慣れた形のはずだった。
「切り飛ばすのがありなら、伸ばすのもありかなって、作っちゃった」
 見慣れたはずなのに何か違和感のある翼端を塚越は撫でた。
「今までのより片側五十㎝伸ばした。高高度性能が良くなるかなって。こいつも試験して欲しいんだ」
 本来半円形の翼端が、何やら引き延ばされていた。なるほど、これが違和感の正体だったのか。
「丹羽、どっち乗る?」
 隣に立った成瀬一飛曹が声を掛けてきた。
「じゃあ今度は伸ばした方で」
 洋一は翼端が長い方の十式艦戦に手を伸ばした。訓練の一環とは云え、一風変わった各務ヶ原での日々になりそうだった。
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