零下3℃のコイ

ぱんなこった。

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同情じゃない

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自分が…まさか男を好きになるなんて、思いもしなかった。

いや、もう男とか女とかは関係なくて。
日下部を…好きになってしまったなんて。

本当にいつからだ…なんで雪菜さんじゃなくて、日下部なんだよ。ずっと片思いしてきたのに、どこで変わったんだ。

あいつの言いたいことも分かる。秘密を共有した特別な関係だったから……
情が入ってるだけかもって。

でも、でも…!!!
それだけには思えないのに…。

でも、あれだけ何回も念押してくるってことは…日下部はやっぱり僕のこと何とも思ってないんだろう…。

きっと。

だって、そもそもあいつはあのお兄さんのことが好きで…

「…はぁ」

家に帰ってから、どれくらい時間経ったのかな…。制服のままベッドにダイブしてボーッとしちゃってた。今日バイトないのに、咄嗟に嘘ついちゃったし……。

「もう、どうしたらいいんだ……」

ガチャッ

「風音~いる?」

「姉ちゃん…聞きながら開けないでよ」

けたたましい扉が開く音と共に、姉がズンズン部屋に入り込んできた。姉は美容の専門学生で割と仲はいい方だけど…ズバズバしてて遠慮はちょっとない。

「ごめんごめん!見てみて!この香水、さっき届いたんだけどさ、めっちゃいい匂いでさ!いい女って感じの匂いだわ」

「ん?あー本当だ。いい匂い」

「適当かよ!ほら手首かして!付けさせて!」

「うわっいや、いいって…」

「いいから!付けたほうがいい感じに香るから!」

相変わらず強引…。

「てか風音元気なくない?彼女となんかあった?」

「彼女なんていません…」

「あー間違えた!好きな子?」

強引に香水をつけられた手首をくんくん嗅ぐと、パキッとした強めの花の匂いがする。

「これいい匂いだけど強くない?」

「えーそう?男を誘惑するには、これくらいの方が良くない?」

「うーん。僕はもうちょっとほんのりした柔軟剤みたいな匂いの方が……」

あ。

“風音くん…”

ここで今更思い出すか……。あいつのこと。

「え?なになに、なんで顔赤いの?なにか思い出したのー??」

「う、うるさい!!何も…」

「好きな子のこと思い出したんでしょ?」

「…ち、ちが」

「思い出すだけでそんな顔真っ赤にしてるようじゃ、相当本気で好きなんだね~?その子のこと。むふふ」

「…本気で?」

「は?本気じゃないの?遊び!?」

「ち、ちがう!!!」

隣に座り、ニヤニヤしながら僕を挑発する姉。

「…あのさ、本気で好きか情で好きかって、どうやって分かるの?」

「はぁ?」

「い、いや何となく…」

「えー?よく分かんないけど…その人のこと考えるとドキドキする~とか、離れてると会いたくなる~とか、そう思ったら本気じゃない?」

「うーん…そういうもの?」

「あとは、その人のいい所も悪い所も知って、それを受け入れられるかどうかじゃない?あとは、その人と一緒にいたいと思うかどうか!あたしはそれを付き合う時に考える!」

「…一緒にいたいか、どうか」

僕が、一緒にいたいと思うのは…。
離れないといけないのが辛かったのは。

「まっ、風音は恋愛初心者だからねー。悩むのも分かるわかる。いつでも姉ちゃんに相談しなよ!あ、付き合ったら紹介だけはしてね!!」

「いたた、痛いよ、叩くなよー」

「よいしょ!じゃ、あたし出かけてくるね~」

「あ、姉ちゃん!」

「ん?なにー?」

「…っそ、その。あのさ、もしさ僕が男の人を…好きだって言ったら…その、なんていうか、ど、どう…」

あ、つい相談乗ってもらえたから聞いてしまった。
姉の方をゆっくり見上げると見ると、目をパチクリさせて固まっている。

やっぱり反対される…かな。

「え!?好きな子って男の子なの!?」

「うっ…!いや、あの。最初は1年の時から女の子のことが好きで…色々あって、その彼氏と知り合って?その人のこといつの間にか、好きって気付いて…みたいな」

あまりに至近距離に迫ってきた姉に焦って、経緯を話してしまった。

違う意味でドキドキしてる…心臓が。

「えええー!好きな子の彼氏!?なんでそうなったか知らないけど、別にいいじゃん」

「へっ」

「男でも女でもいいじゃん。性別って重要?好きになったんなら、頑張んなよ」

「姉ちゃん…」

「ふふっ、でも紹介だけはしてよね~!そんな関係性から好きになるなんて一体どれほどのイケメンなのか!」

「うっ…ま、まあイケメンではあるけど、それだけじゃないし」

予想外だった…そんなこと言ってもらえるなんて。なんかちょっと、胸が軽くなった。

でもそっか。

日下部は誰にも話してないって言ったから…ずっとこのモヤモヤを抱えたままだったんだ。

同じ立場になってみて、あいつの気持ちが少し分かる気がする。

「姉ちゃん、ありがとう…」

「いいえ!じゃあ、行ってくるー!」

嵐のように去っていった…。

「…やっぱり同情、とかじゃないよ。日下部」

日下部の部屋で思わずあいつを抱きしめた時は…同情だと思ってた。そう思うしかなかったから。

でも、やっぱり違う。

バタバタバタ

僕はベッドから降りて、姉の後を追うように部屋を飛び出した。

「あれっ?風音、どこ行くの?バイト?」

「バイトはない!ちょっと僕も出かけてくる!」

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