銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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GカクテルⅢ⑬

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 よかった。桐野さんは約束を果たしてくれた。

『実は、彼の妹さんが横にいてね。あなたにぜひ、お礼を言いたい、と言っているの。ちょっと今、代わってもいいかしら』

「桐野さんの妹さんですね。ええ、もちろん大丈夫です」

 電話の向こうの声が変わった。

『突然、すいません。あの、はじめまして。私、桐野黎児の妹で、朱里あかりといいます。この度は兄のことでお世話になりまして、本当にありがとうございました』

「いえ、こちらこそ、桐野さんにはいつもお世話になっています。でも私、ほとんど何もしていないんですよ」

『いえ、そんなことはないです。久し振りに会いましたが、兄は変わっていました。人当たりがやわらかくなって、とげとげしい部分が消えたみたい。それって、雪村さんのおかげだと思うんです。本当に、ありがとうございます』

「いえ、とんでもないです。むしろ、お礼を言いたいのはこちらの方です」

 いろいろあったけど、今回の一件のおかげで、桐野さんとの距離が少し縮まった気がするから。これまでよりわかりあえたような気がするから。

 お父さんの病状については詳しく訊かなかったが、朱里さんによると、少し持ち直したという。久し振りに桐野さんと会って、気が張ったのかもしれない。また、少しぐらい、やりあったのだろうか。

 でも、桐野父子が疎遠のままであるよりはずっといい。

 私はスマホをポケットに仕舞うと、背筋を伸ばして銀座方面に歩き出す。

 九つの年の差とか、童顔というコンプレックスとか、些細なことを気にするのはやめよう。もっと思い切って勇気をもって、ありのままの私で、桐野さんと話し合っていこう。

 私は【銀時計】の経営者だ。桐野さんに能力を引き出すことと、気持ちよく働いてもらうことは、大切な仕事である。もちろん、意見が対立することはあるし、傷ついたり傷つけられたりすることはあるだろう。

 でも、それを恐れていては、何事も始まらない。わかりあえなくても、何度も話し合おう。年上であっても言うべきことはキチンと言おう。言葉は気持ちを伝えるためにあるのだし、人は一人では生きていけないのだから。

 ああ、コミュニケーションって本当に大切だ。

 私は胸を張って歩き続ける。
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