98 / 100
GカクテルⅢ⑫
しおりを挟む「高宮さんの話では、病状は芳しくないみたいです。桐野さん、どうか、お父さんのお見舞いに行ってきてしてください。言いたいことがあるのなら、思い切って伝えてきた方がいいと思います。万一、ケンカになってしまっても構わないと思います。父子なんだから、遠慮することはありません」
私はカクテルグラスを掲げる。
「ほら、この【Gカクテル】と同じですよ。ずっと抱え込んできた〈黒い獣〉を一時的に封じ込めるんです。活動停止状態にしてやるんです。お願いですから、私のお祖父ちゃんと父さんのように、30年遅れのメッセージにしないでください」
桐野さんはカウンターに両手をつき、しばらく顔をふせていた。私は無言で、返事を待つ。十数秒が1時間にも感じられた。有難いことに、父さんは珍しく空気を読んでくれた。そっぽを向いて、カクテルを飲んでいる。
桐野さんが顔を上げた。いつもの眼ヂカラは陰を潜めて、やわらかい微笑みを浮かべていた。
「ミノリさん、すいませんが、明日の出社は少し遅れます」
言葉の意味をじっくり噛み締めた。改めて確認するほど野暮ではない。
桐野さんは、なぜか、私に真っ白なハンカチを差し出した。頬に手をやって、初めて気がついた。やけに目元が熱いのは、涙をこぼしていたからだ。必死に堪えようとするけど、どうにもならない。
「はい、わかりました。ゆっくりで構いませんよ」
恥ずかしいけれど、はっきりした言葉にならない。
胸が熱い。今、桐野さんと心が通い合ったことを、私は実感していた。
*
日比谷図書館で調べ物を済ませた後、昼下がりの日比谷公園をブラブラと歩いた。
色とりどりのパンジーでいっぱいの花壇の横で、大きく深呼吸をする。澄みきった空気が身体の中に満ちていく。見上げれば、空は雲ひとつなく、どこまでも青かった。気分も晴れ晴れ。まるで、私の心を映したようだ、と言えば大袈裟か。
さぁ、今日も頑張ろう。銀座まで地下鉄で二駅だし、運動不足解消に、いっそ歩いてしまおうか。歩き出そうとした時、ポケットの中でスマホが鳴った。
モニターを見ると、高宮さんからだった。そろそろ連絡が来る頃かな、と思っていたところだ。
「雪村です。おはようございます」
『おはよう。あと、お礼を言わせて。どうもありがとう』
「桐野さんの件ですね?」
『ええ、ようやく、病院に顔を見せたみたいよ』
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
フローライト
藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。
ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。
結婚するのか、それとも独身で過ごすのか?
「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」
そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。
写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。
「趣味はこうぶつ?」
釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった…
※他サイトにも掲載
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる