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悩ましいボイス⑤

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 カラオケボックスを出た僕たちは身体を寄せ合って、外苑東通りを飯倉片町交差点に向かって歩く。

 六本木の22時のまだ宵の口だ。車は行き交っているし、通行人も少なくない。僕は歩きながら、ポケットの中でリモコンを操作する。

 ルナさんは息を飲み、強い力で僕の腕にしがみついてくる。極端な内股になって、上体を折り曲げている。

「どうかした? 気分が悪いの?」

 僕は酔った彼女を介抱する振りをして、何度もスイッチオンとオフを繰り返す。その度にルナさんは身体をガクガクと震わせている。

 すれちがう通行人の中には、彼女がプレイ中であることに気づいた人もいたかもしれない。

「あまり、いじめないで……」

 すがりつかれた際に、そう耳打ちされたけど、僕は笑顔でスルーする。ルナさんの本心は、プレイ続行を望んでいるからだ。

 カラオケボックスを出る前に、「もし止めてほしくなったら、僕の身体を二回叩いてください」と、伝えてある。その合図がない以上、このプレイを止める必要はない。

 通行人の視線を浴びて、ルナさんは隠微な快感を覚えているのだ。僕はその手助けをしているにすぎない。

 少し進んでは立ち止まり、こっそりプレイを楽しむ。それを繰り返しながら、繁華街から離れていく。

 飯倉片町交差点の手前までやってきた。この辺りには、土地鑑(とちかん)がある。

 交差点を少し下れば、『キャッスル』の事務所があるし、1月まで住んでいたマンションもすぐ近くだ。オフィスビルやマンションなどが集まっているエリアである。大通りから一本入ると、通行人は一気に減った。

 薄暗い裏路地には人影は一つない。ルナさんが不安げに訊ねてくる。

「どこに行くの?」
「穴場、みたいなものです」

 不夜城の六本木でも、夜更けになると無人になるスポットがいくつもある。瀟洒(しょうしゃ)なオフィスビルに囲まれた一角は、その一つだ。

 細長い花壇と、複数のベンチが設置されている。一般人も出入り自由のスペースだが、今は薄暗くて、閑散としていた。

 僕はルナさんをベンチに座らせて、彼女の正面にひざまずいた。

「ここなら、人目がないから、違った楽しみ方を味わえますよ」

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