仮想(ゆめ)と貴方~VRMMO恋愛譚~

文字の大きさ
上 下
11 / 14

歓迎会

しおりを挟む
「丸夫くんのエッチっ! スケベっ! 変態っ!」
 群青学園ギルドホール、中央にある広いダンスホールから廊下を歩いて進んだ奥まった隅にある控室に瑠璃子の怒声が響き渡った。
「ドレスってエッチなドレスじゃない」



 胸もとが激しく開いた丸夫特製ドレスを着た瑠璃子はそれはそれで可愛かった。
 しかしそんなセクシーな服を着たこともない瑠璃子にとっては拷問刑に等しい羞恥プレイだった。

「やだなあルリルリは、SEXOでは晴れの舞台にエロ装備を身に付けるくらい当然の事だよ」
 やれやれと小ばかにするような仕草を見せる丸夫、やっぱりその視線は瑠璃子のおっぱいにあった。
「別に恥ずかしがることじゃない、街中を歩くわけじゃないんだから、まあ街中をエロ装備で歩く女の子もいるけどね」
 そうなの? と隣の加奈子に目配せしてみれば、確かに加奈子も瑠璃子ほどではないが胸もとが開いたセクシーなドレスを着ていた。

「とにかく、主役にはそれなりに派手な格好をしてもらわないとね」
 そう言うと丸夫は真司の顔を見た。口の動きだけで何かを伝えようとしている様子だった。たぶんホ、メ、ロと言っている様だった。

「瑠璃ちゃんのその服可愛いよ」
 真司がにこやかな笑みを作ってそう言うと「そ……そう?」と瑠璃子もまんざらではない顔になった。
「ちょっとおっぱいが開きすぎかもしれないけど、真ちゃんが可愛いって言うなら」
 セクシードレスを着て、モジモジと恥ずかしそうにする瑠璃子は破壊力抜群の可愛さだった。
 丸夫が小さくガッツポーズを決める。

 結局真司の言葉が決め手になり、瑠璃子はそのセクシードレスを着ることを了承した。
 女の子はやっぱりお洒落をしたいのである。きわどい服だって、好きな男の子が可愛いと言えばまんざらじゃない。

「衣装が決まったなら、今日のダンスパーティの説明をするわね」
 加奈子の説明はこんな感じだった。
 まず、出席者は真司と瑠璃子のクラスメートだけ、20人ほどのパーティになるようだった。
 軽音部でギターを弾いている斉藤くんとNPCのバンド演奏に合わせみんなで踊る。曲はクラブミュージック中心で初心者でもなんなく踊れるそうだ。
 実際にBGMを流しながら加奈子に軽くレクチャーを受けると、二人ともちゃんと踊れた。瑠璃子なんかは持ち前のVRゲーム上手さを発揮して見事に踊った。
 セクシードレスの瑠璃子の踊りはとにかく栄えた。
 さらに立食スペースが確保され料理研究会所属の嫁にしたい女の子クラスナンバーワンの後藤さんの料理と加奈子のお茶が振る舞われるそうだ。

 一通り必要なレクチャーを受けた真司たちがダンスホールに移動すると、そこにはもう十数人のクラスメートが集まっていて、二人を歓迎してくれた。
 ホールは広々としていて、中世の貴族が集まる劇場の様だった。
 ダンスをする中央のスペースは十分な広さで20人程度が踊るのにちょうどよい広さだった。
 ダンススペースの脇には立食台が置かれ、美味しそうな料理が湯気を上げている。ホールの奥にはステージがありバンドがすでにセッティングを済ませていた。

「瑠璃ちゃんマジ可愛い、結婚して」
 クラスメートの男子が口々に瑠璃子を褒める。
「あんたたち瑠璃ちゃん驚いてるでしょ、たからないたからない」
 瑠璃子を囲んでぎゃーぎゃー騒ぐ男子を女子たちが一匹一匹引き連れていく。瑠璃子は嬉しそうに男の子たちの相手をしていた。
 そんなやり取りをしているうちにパーティの開始の時間になった。

「盛り上げってるかい、野郎ども、今日は新しい仲間の歓迎会だ」
 わあと歓声がわく、壇上に立つ丸夫が唾を飛ばしながら開会のあいさつを始めた。
 ほどなくして、真司と瑠璃子も壇上に上がりみんなにあいさつした。
「私、このゲームを遊びつくすつもりだから、皆、よろしくなのだ」

 瑠璃子が元気な声であいさつすると、男連中から黄色い声援が飛んだ。女の子たちも力いっぱい拍手してくれた。
 その後軽音部の斉藤くんと料理研究会の後藤さんが軽く挨拶をして、ミュージックスタートともに歓迎会は開演となった。

 予想の通り、瑠璃子には多数のダンスのお誘いがあった。
 瑠璃子は片っ端から男子の手を取ると、ホール中央で踊り倒した。
 そんな瑠璃子を立食コーナーのお茶を飲みながら見ていた真司も女子に誘われた。

「瑠璃ちゃん妙にダンス上手いね、クラブとかに通って……るわけないか、瑠璃ちゃん全身麻痺だもんね」
 真司をダンスに誘った嫁にしたい女子ナンバーワンの後藤さんが不思議そうに瑠璃子を見た。
「こっちでは凄い元気そうでよかった。みんな瑠璃ちゃんのこと好きで、心配してるんだよね」

 女子の大半は瑠璃子に優しいし、男子連中にも密かな人気があった。
 皆、瑠璃子を大事に思っていてくれている、それが二人には有難かった。

 後藤さんと軽く何曲が踊った後、今度は加奈子が真司の元へやってきた。
「瑠璃ちゃん凄い元気、あっという間にこの会場の誰よりダンス上手くなっちゃったね」
 瑠璃子はホールのど真ん中で相変わらす踊りたおしている。
 男子連中はそんな瑠璃子と祭りではしゃぐ子供の様に戯れていた。
 とても心地良い時間だった。

 加奈子の踊りは控えめで、中央で踊る瑠璃子の良い引き立て役になった。
 真司もそんな加奈子の手を取り控えめに踊った。
 数曲踊った後、加奈子は立食台のお茶をチェックしに行った。

「真ちゃんっ! 来てっ!」
 男子全員と踊りたおした瑠璃子が真司を呼んだ。真司はうなずいて、ホール中央へと向かう。
 瑠璃子の手をとって二人が踊り出した時には周りから声援が飛んだ。
「やっぱお似合いだぜ、二人とも」
「頑張れよな、瑠璃ちゃん、真司」
「みんな、ありがとう~」

 感極まった瑠璃子は泣いてしまった。ポロポロと涙をこぼしながら、それでも嬉しそうに笑った。

「私決めたよ」
 涙をぬぐって瑠璃子が凄く真面目な顔をした。
「何を?」
「病気なんかに絶対負けない、絶対、しぶとく、しぶとく生きてやるのだ」
「それで、僕のお嫁さんになるんだよね」
「うん、幼稚園の時に約束したもんね」
「そう、約束した」
「三流小説家が書いた設定みたいな運命に負けるもんか」

 ゲームを始める数日前、瑠璃子は真司に言った。
「本当は死ぬのすごく怖い……怖いの」
 真司はその時も上手い返事ができなかった。ただ瑠璃子を抱きしめた。

 今も真司はふいにダンスを止め、瑠璃子を抱きしめた。
「ちょっ! 真ちゃんどうしたの?」
「好きだ……僕は瑠璃ちゃんを愛している」
 パッと瑠璃子の顔が桜色に染まる。

「私も……真ちゃんを愛しています」
 抱き合う二人を見て、みんなが拍手した。
 大歓声に包まれながら二人はキスをした。

 この日は、二人にとってとても思い出深い夜になった。
しおりを挟む
筆者同人サークルR18サークルぶるずあい
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...