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第20話 話し合い

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 アクアヒルまであとわずかという所でレイはクレハ達エスタの住民にこれからどうするか意思を確認する事にした。

 世界樹の前にエスタの住民を集め皆の意見に耳を傾ける。

「皆さん、もうわずかでアクアヒルに到着します。そこで皆さんにはこれからどうするか話し合っていただきたいのです」
「あの……」

 クレハが手をあげる。

「私達がアクアヒルに移るとして、暮らす場所はあるのでしょうか。私財のほぼ全てがエスタにありますし、慣れない土地で一から生活基盤を整えるのは困難だと思います」
「俺なんかほぼ一文無しだよ。戦うスキルもないし、今から家を買う金なんてとても集められないよ……」
「私も無理です……。もうエスタには帰れないのでしょうか」

 その質問にレイが持論を述べる。

「帰れるとは思います。ですが反乱軍が激しく抵抗した場合、町は焼け落ちたり破壊されていたりするでしょう。仮に反乱軍が抵抗せず降伏したとすれば町は無事でしょうが……一度反乱が起きた場所は国も警備兵を増やすでしょう。全てが同じという事はもうないと思って下さい」
「そんな……。私達は被害者なのよ。国は何もしてくれないのですか!?」

 レイはクレハに質問した。

「クレハさん。エスタの町があった地の領主はどうしてます?」
「反乱軍に加わっていたかと」
「なら尚更国には期待できないでしょうね。領主が変更となれば補償する義務はなくなります。反乱軍に補償させようにも恐らく全員処刑された上、国が財産を没収してしまうかと」
「私達は何も悪い事してないのにあんまりよ!」

 新しい生活を始められる余裕がないエスタの住民達は憤っていた。

「考えられる解決方法としては、皆さんで住宅をシェアし、協力しながら住む家を増やしていく……でしょうか」
「そんな……。よく知らない人と一緒に暮らすのは……」
「どうしても無理な場合はこのままここで暮らすしかありませんよ? その場合自由に外には出られなくなりますが、他の住民のように安定した生活は僕が保証します」

 その言葉にエスタの住民達がざわついた。

「選択肢として私達がこのままここに残る事はありですか?」
「もちろんありです」
「ここに残ったら家や畑がもらえるのか? 土地代やら税金は?」
「土地代はいただいてないですし、作物は毎日収穫できますから余った分はこの収納箱に入れてもらえたら皆さんのように臨時で集まった方々に分けてあげられます。しいて言えばそれが税金の代わりでしょうか」
「今ここに住んだとして、後でやっぱり外に出たいと言ったら?」
「止めません。住むも出るも皆さんの意思に任せます。住むなら全力でサポートいたしますよ」

 住民達は大いに悩んだ。

「まぁ……外に出られないだけで今安定した暮らしを送れるならアリなんじゃないか?」
「ナシよ。ここにはお店もないし……」
「店なら一から始めたら良いじゃないか。レイさん、布とか金属、木材なんかは手に入るのか?」

 レイは男の質問に答えた。

「はい。まず、住民が増えるとこの空間が数に比例して拡張されます。そして発展ボーナスが得られるので空間内に山や川、森林や海などもいずれ作れるようになるかもしれませんね」
「まだわからないって事か」
「はい。僕もまだこのスキルについて試行錯誤している段階でして。発展ボーナスについては不明な点が多々あります」
「仮に手に入らなかったら?」
「その時は収納箱から素材を売却して外から購入ですね。魔獣牧場にいる魔獣の素材は毎日手に入りますし」

 今や魔獣牧場は空間の大半を占めており、かなりの数の魔獣が飼育されている。

「レイさんから私達に何か強制したりとかは……その……」
「な、ないですよ! 僕からは何も強制したりしません! 先程も申したように、このスキルはまだまだ未知なんです。この未知の部分は住民が増えなければ解明すらできない状況なんです」

 レイは住民達に向け言った。

「皆さんが住民になってくれるだけで僕にはメリットが生まれます。先に住んでいた方々もスラムで苦しい生活をしていた方々で、自ら進んでここでの生活を選択してくれました。皆さんに感謝こそすれ、僕が命令したりする事はありません。外での暮らしに戻りたい人はいつでも戻します。戻るために蓄えが必要なら作物などは買い取りします」

 不安そうにする住民達に手を差し伸べる。

「今すぐ決めてくれなくても構いません。住みたい方には家を用意します。住む意思が固まりましたら僕に申し出て下さい。決して無碍には扱いません。僕はここを楽園にしたいんです。誰もが幸せになれる世界、この箱庭の世界をそうしていきたいと思っています」

 レイの言葉を受けクレハ一家が意思を示した。

「私は主様のお世話になりたいです。父や母、娘のマリーも同じです」
「ありがとうございます、クレハさん。町長婦人のクレハさんが味方になってくれたら色々と助かります」
「ふふっ。私より元町長の父の方が役に立ちますよ」
「ワシも力になろうじゃないか。町にするなら設計の段階から助言してやるぞい?」
「あ、ありがとうございます! 設計は畑違いなので助かります!」

 クレハ一家が手をあげた事で他の住民達も続々と手をあげ始めた。

「俺、ずっと自分の店を開きたかったんだよ。スキル【細工】を生かした店を始めたい!」
「私もスキル【服飾デザイン】でお店を開きたいわ!」
「なら【裁縫】持ちの私を雇わない?」
「お、おいらは【採掘】持ってるから山ができたら鉱石掘りで協力できるぞ!」
「私は【薬師】なので薬草畑があれば回復薬を作りますよ」
「それなら森ができたら私の鑑定で薬草とか野草見つけられるよっ。魔獣に襲われないなら採取に行けるし」

 それからおよそ五千人の住民がこれまで我慢していた夢を次々に口にし、この箱庭で始めたい事を語り始めていった。これだけの数がいれば外に出たいと願う住民もいるかと思ったが、誰一人外で暮らすとは口にしなかった。

「皆さん……ありがとうございます。あとわずかでアクアヒル到着の予定でしたが予定を変更します。皆さんがここに住んでくれるならそちらを優先します」

 レイはクレハの父親に頭を下げた。

「すみません、町の設計をお願いします」
「うむ。ワシに任せいっ」
「はいっ!」
「お父さん、私も手伝うからいい町にしましょうね」
「うむっ。クレハは皆の意見を集めるのじゃ。さあ、忙しくなるぞいっ」

 この日箱庭に新たな住民五千人が加わり、世界は元の数倍に拡張されたのだった。
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