スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

文字の大きさ
上 下
21 / 81

第21話 広がる世界

しおりを挟む
 人口およそ五千人。かつて暮らしていたイストリア侯爵領の半分近い人口が箱庭に集まっている。レイは集まってくれた人々に感謝し、世界樹に触れる。

《人口が五千人を越えました。一度に増えたため今より全段階における特別ボーナスを支給いたします》
「なるほど。一気に増えるとこうなるんだ」

 特別ボーナスの支給内容を以下にまとめていく。

・箱庭の空間が資源により拡張可能となる。
・特別家屋タイプの種類増加。
・魔獣牧場が進化し、魔獣のタイプ別に飼育可能な場所が増える。
・世界樹の麓に回収ボックスが設置される。住民が必要のない物資を投入すると金銭に変わる。
・居住環境の選択が可能となる。村は千人まで。町は五千人まで。主都は一万人まで居住可能となり、空間内に町や村を制作可能になる。
・魔獣合成施設が建設可能になる。
・スキルを得るための教会が設置される。司祭はおらず、神の水晶が自動で儀式を執り行う。
・満足度ポイントが十倍になる。
・獲得資源が十倍になる。
・仮想訓練場が建設可能になる。

 全ての特別ボーナスを見てさすがのレイも固まった。

「五千人でこんなにもらえて良いの!? まだ国を一つ出ただけなのに!? いや、安易に喜んでばかりもいられないか。住民が減れば特別ボーナスは使用不可能になる。となると……」

 レイは特別ボーナス一覧を確認しながら今後の方針を固めていく。

「箱庭の中をどこよりも快適にしてしまえば良いんだ。新しい機能で貨幣も生まれる。環境さえ整えてしまえば誰も出たくなくなるだろう。よし、次の確認は……」

 今後の方針は住民に飽きられないように快適な環境を整える事とし、次にステータスの確認に移る。

「このステータスはもう何て言うか……ははっ」

 魔獣のスキルはともかく、五千人近くのスキルがレイ一人に集まっている。スキルにはスキルレベルが設定されているものがあるのだが、例えばある人が【魔力値上昇:1】を持っており、他の人が【魔力値上昇:2】を持っているとする。このスキル二つがレイの中で積算され、【魔力値上昇:3】になる。

 この結果、現在レイの能力値は世界中の誰よりも高くなっていた。レイはステータスをそっと閉じる。

「これは……もしかすると非常にまずい状況なのでは……。うっかり鑑定でバレようものなら……」

 エルドニアは戦がないとはいえ、大きな力を得たら人は変わる生き物だ。人の欲は底なしだとレイもわかっている。一つ望みが叶えばまた一つ。叶わなければ失望する。レイはそんな連中に関わりたいとは思わなくなっていた。

「うん、この考えは変わらないな」

 この考えに至ったきっかけは追放ではない。それ以前より欲深い者達とは距離をとっていた。その際たる例が実弟【ノワール・イストリア】にレイの婚約者だった【エリス・セイラム】嬢だ。

 ここで場面はイストリア侯爵領、領主邸に移る。

 レイが追放した父はレイの弟であるノワールを後継者にしようとしたが、才能にのみ頼り努力しないノワールに執務室で仕事を捌きつつ落胆していた。

「あのバカめ。才能はあるというのになぜ努力せんのだ!」

 そこにノワールがレイの婚約者だったエリスを連れ現れた。

「父上~、少しお話があります」
「……ノックもできんのか貴様らはっ!!」
「「ひっ」」

 ノワールとエリスは侯爵の威圧に怯み尻餅をついた。

「……醜い。少しは鍛錬したらどうだノワール」
「え、えっと……その……」

 侯爵の前には子どものオークが二体転がっているようだ。

「ぼ、僕は~その~……ね? そう! 魔法師なので!」
「まだ儀式前なのにか? 私が剣聖なのは知っているだろう。ならば貴様も──」

 そこでノワールが禁断の言葉を口にした。

「しかしレイは──」
「誰の話だ」
「あ、いやっ!」

 侯爵の額と拳に血管が浮かび上がる。

「も、申し訳ありません、父上!」
「貴様はいつも言い訳ばかりだ。魔法師になりたい理由は動かなくても良いからだろうが! そのような根性ではとても侯爵の座は譲れんな」
「し、しかし父上! この家には僕しか……」

 侯爵はエリスを見た。

「そのためにセイラム男爵から娘を回してもらっている。貴様には過ぎた娘だがな。今すぐ世継ぎを作れ。貴様に期待しているのはそれだけだ」
「ま、待って下さい侯爵様!」
「なんだ」

 怯えながら黙っていたエリスが口を開く。

「わ、私の婚約者は別にいたはずですわっ。彼ならばと納得しておりましたがノワール様では釣り合いませんっ」
「何を言うか。見た目から何から釣り合っているではないか。セイラム男爵からは娘の浪費癖をどうにかして欲しいと頼まれている。今後は私の娘のつもりで厳しくいく。逆らったらノワールと同様厳しい訓練を課す。覚えておけ」
「そ、そんなっ!」

 エリスは床に崩れ落ちた。

「……私はレイ様だから婚約を決めたのです! レイ様ならばあの見た目だけで何をされようが許せます! この白豚と私が釣り合っている? 私を侮辱しているのですか!」
「貴様こそ爵位が上の私に口ごたえなど侮辱しているのか? 今ここで無礼討ちにしても良いのだぞ」
「ひっ」

 侯爵の手が腰から下がる剣に伸びる。

「二度言わせるな。貴様らには世継ぎしか望まん。出て行け」

 侯爵は二人を執務室から追い出し窓から空を見上げる。

「この家は終わりかもしれんな。私は子に恵まれなかったらしい。神よ、恨むぞ」

 その頃部屋を追い出された二人はと言うと。

「エ、エリス? 僕と子作りする?」
「す、するわけないでしょう! 貴方は侯爵になれない、つまり贅沢な暮らしができないではないですか! あんな父親も貴方もこちらから願い下げですわっ! 婚約なんて破棄です! 失礼っ!」

 エリスは床を踏み鳴らしながら侯爵邸を出ていった。

「ど、どいつもこいつも兄さんと僕を比べてばかり! あんな不遇スキルしか授からなかった兄さんの何が良いんだよっ! 今に見てろ……儀式で最高のスキルを授かったら全員追放してやるからなっ!」

 ノワールは未だ授かっていないスキルに望みを託し今日も自堕落な生活を送るのだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

処理中です...