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第22話 本当の意味で強く

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「学生の時から、偶に耳にはしていたんだ……人間、恋をすると弱くなると」

(…………毎度思うんだが、それはどう考えてもその人次第。もしくは、初めて恋人という存在が出来たからこそ、そっちだけに集中してしまうんじゃないのか?)

過去を振り返った結果、真剣に恋愛をして……恋人が出来たことがない経験がないため、偉そうに断言することは出来ない。

ただ、前世とは全く違う世界で今を生きているからこそ、一つ纏まった考えがあった。

「その話題に関しては、やはりその人の気持ち次第かと。ただ……自分は、戦闘職の者であれば……あまり本業が疎かになることはないかと」

「……理由を訊いても良いかな」

「物凄く単純な話ですよ。だって……好きな人を、自分の手で守りたいと思いませんか」

「っ!!!!!!」

この世界では、物凄く死が身近にある。
加えて、タルダとタルダの想い人はどちらも戦闘職。

互いにモンスターと、盗賊などの敵と戦って死ぬ可能性がある。

「好きな人ほど、守りたいという想いが強くなるかと。そういった存在が……恋人や家族など、守りたい存在が出来た奴は弱くなると言う人は確かにいます。ただ……それは守る術を知らない、知ろうとしないからではないかと、個人的には思います」

「………………マスターは、本当にこちらの事情まで汲めるんですね」

「冒険者として活動していると、貴族出身の冒険者と一緒に仕事をすることもあるので」

「そうか……大丈夫ですか? 冒険者という道を選んだとしても、貴族はある程度のプライドを持っています」

「そうですね。なんと言いますか……同世代、歳が近い同業者たちから嫌われるのは今もですか、ある程度対処法は解っていましたので」

決して難しい方法ではなく、高いトーク力が必要だったわけではない。

ただ……大勢の同業者たちが居る前で、真正面から叩き潰せば良い。
相手が若ければ若い程、バカにしてきた分を試合で発揮……おちょくりながら倒すことも出来たが、そういった方法で倒してしまうと、色々と後が怖いと考えていたアスト。

その考えは当たっており、ぶっちゃけどちらの倒し方であっても貴族出身の者からすれば侮辱された感じるかもしれないが……正々堂々と真正面から叩き潰されたとなれば、ただ弱かった……そう思われるだけで済む。

「タルダさんは……そういった部分をうっかり忘れてしまうタイプではないと思います」

「……あり得ないとは思いますけど、上手くいって……他から恨みを買うのだけは避けたいですね」

まだ切っ掛けの手紙すら遅れていないのに、先を考え過ぎ……とはツッコまなかった。

「タルダさんの想い人は、それほど魅力的な方なんですね」

「はい……風で聞いた噂なんですが、既に正妻がいる方から、側室にならないかと提案されたことがあるらしく」

「な、なるほど…………それは、下手すれば恨みを買ってしまうかもしれませんね」

婚約破棄させたり、婚約者を寝取ったりしようとしている訳ではない。
タルダはただ、正当な手順を踏んで想い人に告白しようと考えているだけ。

それが上手くいっても……子爵家の令息と、侯爵家の令嬢が結婚した……タルダが長男ではないということもあり、以前話した通りそれ相応の功績を手に入れれば、相手の家に認められて結婚というのは険しい道のりではあるが、不可能ではない。

ちょっと珍しく、何も知らない者たちが聞けば、ちょっとロマンチックなラブストーリーといった程度の話。

ただ……どんな世界にも、ささいな事で暴走するバカは居る。

(ぶっちゃけた話、転生者で……日本っていう基本的に平和な国で生きてきた俺からすれば、これから共に戦う……背中を預ける相手に喧嘩を売ってくるってのが、未だに違和感というか、信じられないって思う部分があるんだよな~)

こういった件に関して考え出すきりがないため、切り替えてタルダへのアドバイスに集中。

「やはり、物理的に強くなるのが一番大切かと。その…………貴族の事情は詳しくありませんが、タルダさんが想い人と上手くいっても、想い人さんの実家に挨拶に行って……私に、僕に、俺に勝てなければ娘はやらんと立ちふさがる男性陣がいるかもしれません」

「…………………いた。いや、話を聞いただけなんだけど、確かに……僕の知人に、そういった試練を体験した人がいた…………うん、絶対にそうなるとは限らないけど、まず物理的に強くなることが一番必要だね」

「……それと、これは騎士であるタルダさんにはあまり受け入れられないかもしれませんが、冒険者としての私から一つ……上手く、逃げ切る手段を持っていた方が良いかと」

「っ…………信念を、曲げなければならないと」

「敗北が濃厚になったとしても、その脅威を必ず伝えなければなりません。情報は大きな武器ですから」

多少なりとも騎士と関わったことがあるからこそ、騎士を目指す者の……騎士の精神は理解していた。

それでも……本当の意味でタルダが強くなろうとしているのであれば、アストはどうしても伝えておきたかった。
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