上 下
21 / 147

第21話 一番読みやすい

しおりを挟む
(恋、ねぇ……真面目に向き合ったのって、何年前だ?)

タルダの恋愛相談に乗った後、もう三人の客がミーティアに訪れ、深夜前には閉店。

タルダも含めて全員金払いが良かったため、アスト的には儲けられた一日であった。

(転生してからは特にって感じ…………というか、意図的にそういう感情を避けてきたか。そうなると、転生前……どうだった?)

宿に戻る途中、前世の記憶を掘り返すが、中々恋愛に対して真面目に向き合った過去が思い出せない。

(……大学生の時は…………彼女は一応いたか。そんな長続きした記憶はないけど。付き合ったのも、なんか流れに身を任せてって感じだったしな……そうなると、高校の時か)

タルダの恋愛相談に乗っていると……時折、彼女のこういうところを好いているなどと、甘酸っぱい言葉を聞かされる。
アストとしては、そういった話も大好物なので、胸焼けすることはなかった。

(あの時はフラれたんだったよな。スマホで……電話で告白したんだったか? 今思うと、相当なエネルギーを使った気がするな)

久しぶりに思い返すと、フラれた後に電話を切り、スマホに思いっきり電話を投げ捨てたところまで思い出せた。

(……クソ苦い記憶だな。でも、そうか……真面目に生きてきた貴族だと、あまりそういう体験をしてる人は少なそうだな………………とはいえ、俺は伝えられることは伝えたはず。上手くいくかはタルダさん次第……あと、運次第か)

一日の付き合いとはいえ、応援したくなる。

後自分に出来る事は、上手くいってほしいと祈る事だけ……と思っていたら、数日後には再びミーティアに訪れた。

「やぁ」

「どうも。先日ぶりですね」

「そうだね。まず、ブルームーンを貰っても良いかな」

「かしこまりました」

タルダは先日、ブルームーン以外のカクテルも呑んでいたが、それでも一番美味いと感じたのはブルームーンであり、すっかりハマってしまっていた。

(客がお気に入りのカクテルを見つけてくれた……それは個人的に嬉しいんだが、ブルームーンか……うん、確かに美味しいよ。呑みやすいのにアルコールが決して軽くないところとか、色合いも好きだよ……でもなぁ)

ブルームーンのカクテル言葉、叶わぬ恋という言葉を知っているアストとしては、非常に嫌な何かが募っていっている気しかしない。

「ところで、マスターは高名な冒険者だったようだね」

「??? ……確かに朝から夕方にかけては冒険者として活動していますが、特に高名という訳ではありません。しがないソロの冒険者です」

「……言葉遣いも相まって、己の実力を過信しない貴族の様な謙虚さだ。ただ、あなたの事をそれなりに調べてみると……とてもしがないソロの冒険者とは思えない」

二十歳という年齢の中では、頭一つから二つ抜けた戦闘力を持つタルダは実力だけではなく、視る眼もそれなりのものを持っている。

初めてミーティアを訪れた時から、店主であるアストの事を普通のバーテンダーとは違うと感じ取っていた。

少し気になって調べてみると…………仕事の時間以外、殆どをアストについて調べてしまっていた。

「今は……まだ十八だったかな。冒険者になって三年という職歴の短さでありながら、Cランクに到達。Bランクモンスターの討伐に何度も関わっており、ダンジョンの攻略経験もある」

「……どちらも一人では行っていません。同業者たちの……仲間たちの助けがあっての功績です」

「そうなのかもしれない。ただ、それでもあなたはこうして冒険者、バーテンダーの二つを両立させて生活している異色の人物だ」

「…………」

スラディスからも変人スーパールーキーと呼ばれていた為、全く否定出来ない。

「そんなあなただからこそ、もう一度色々と尋ねたい」

「……自分が伝えられる内容であれば」

「ありがとう。っと、その前に何か頼まないとね」

友人同士ではなく、バーテンダーと客。
やはりカクテル一杯で長居は出来ない。

「お待たせしました」

「マスターは料理も一人前なんですね」

「カクテルの道もそうですが、料理の腕なんてまだまだ半人前ですよ」

「……専門外なので変に語れはしませんが、それでも確かな芯を感じます」

牛モンスターの肉をメインに使用した肉料理を一口食べ……心の中で少々大きめの声で「美味い!!!」と零すタルダ。

「ありがとうございます……本日の相談とは、両立に関してでしょうか」

「っ、お見通しでしたか」

「これまでの経験上、仕事と恋愛の狭間で揺れる方たちからの相談を何度も受けてきましたので」

仕事……または目標に向けて頑張りたい。
しかし、意中の人とも距離を詰めたい……または現在付き合い中の恋人とどう接すれば良いか。

アスト(錬)が聞き上手だったこともあり、プライベートも含めて何度も相談に乗ってきた。
だからこそ、アストからすれば流れ的にタルダが何を相談してくるのか、一番読みやすかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな

こうやさい
ファンタジー
 わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。  これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。  義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。  とりあえずお兄さま頑張れ。  PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。  やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

連帯責任って知ってる?

よもぎ
ファンタジー
第一王子は本来の婚約者とは別の令嬢を愛し、彼女と結ばれんとしてとある夜会で婚約破棄を宣言した。その宣言は大騒動となり、王子は王子宮へ謹慎の身となる。そんな彼に同じ乳母に育てられた、乳母の本来の娘が訪ねてきて――

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です

宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。 若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。 若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。 王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。 そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。 これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。 国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。 男爵令嬢の教育はいかに! 中世ヨーロッパ風のお話です。

処理中です...