異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

文字の大きさ
上 下
23 / 167

第23話 考え過ぎたら禿げる

しおりを挟む
「兄ちゃん、美味かったぜ」

「ありがとうございます」

丁度会計金額を受け取り、本日最後の客が帰っていく。

(……あの日以降、タルダさんは来なくなったな)

身分違い、と言えなくもない恋をしているブルームーン好きの騎士、タルダ。

カクテル言葉を知っているアストからすれば、この先彼がどういった人生を送るのか、ハラハラドキドキで一杯である。

そんなタルダがミーティアに訪れなくなってから既に十五日が経過。
基本的にアストが属するコミュニティでは、騎士に関する情報が殆どは言って来ないので、ここ最近どういった風に過ごしているのか、全く解らない。

(でも、会計の時はとても気合の入った顔をしてたし…………とりあえず、前を向いて目標に突き進もうと決めたんだよな)

これから多くの客と出会っていくことを考えれば、一人の客の今後に一々深く悩んでいられない。
悩み過ぎると若禿げになってしまう。

(この先どうなるか凄い気になるけど、俺もそろそろ次の街に移動しないとな)

アストはバーに訪れてくれたタルダ以外の騎士に、彼への伝言を頼むことなく、いつも通り商人の護衛を依頼を受けて、新しい街へと旅立った。


「アストさん」

「どうした?」

護衛中、アストは珍しく自身より歳下で……なおかつ、才能ある有望株のDランク冒険者から、初対面で敵意や嫉妬心を向けられることなく声を掛けられた。

「……どうやったら、女の人にモテますか」

「………………それ、俺に質問しても良いのか? というか、合ってるか?」

現在仕事中ではあるが、多少のお喋りは構わないと思い、会話を続ける。

「はい、合ってます。ギルド内で偶にアストさんの話が出るんですけど、女性冒険者や受付嬢の中でアストさんに気がある人は多いみたいなので」

「そ、そうか」

アストはあまり冒険者ギルド内に長居することはなく、夕食は殆どギルドに併設されている酒場以外の場所で食べている。

なので、そういった異性の冒険者や受付嬢たちの会話内容などはあまり耳に入ってこない。

「グルタは、女性にモテたいのか」

「…………今まで、冒険者として活躍すればモテるのかなって、思って活動してたところはあります」

間違ってはいない。
まだ純情な青年、グルタの考えは間違っていない。

グルタは将来有望なルーキーの一人であり、体格は恵まれているとは断言出来ないが、まだこれから成長する可能性を十分秘めている。

顔は…………決して悪くない。

「まぁ、あれだな。確かにそれは、男が頑張る理由の一つというか、目標というか……ですよね」

「はっはっは!!! そうだな、その気持ちはすげぇ解るぜ」

共に護衛依頼を受けた三十過ぎの体格の良いおっさん冒険者は、アストから振られた話題に笑いながら同意。

「つってもグルタ、あれだぜ~~~。お前は将来有望だから、お前じゃなくてお前が将来手に入れる金を見て近寄ってくる奴だっている筈だぜ~」

「っ……か、金目的という奴ですか」

「そうそう。俺も……まぁグルタほど勢いがあった訳じゃねぇけど、それなりに持ってた頃、一回いてぇ目にあったからな~~~」

見栄を張っている訳ではなく、このベテランオッサン冒険者は本当に大金をとんずらされたことがあった。

「グルタ。モテたいっていう想いは、確かに男らしい原動力だ。ただ、モテたからといって幸せになるとも限らない」

「アストさんも、今幸せじゃないんですか?」

「お、俺か? いや、俺は………………あれだな、こう……清く正しいを売りにしてる冒険者ではないと言うか……ちょっと言葉がおかしいか? とにかく、めちゃくちゃ遊んでいる訳ではないが、特定の人をつくることなくフラフラと遊んでるんだ」

一つの街、もしくは地域に定着しないため、恋人などつくろうとも思わっていないアスト。

基本的に夜の街で発散することが多いが、女性冒険者や受付嬢から誘われることもあるので、そういったケースで発散することもある。

「……ば、バーテンダーとしても活動してるからそ、そんな感じで女性と接することが出来るんですか???」

「それはどうなんだろうな? 個人的には、あまりバーに来る客とはそういう関係にならないように努めてるけどな」

事前に決めていた……というよりは、前世でバーで働き始めた頃から、正社員のバーテンダーから客とはそういう関係になるなよ、と口酸っぱく言われていた。

アスト自身、立ってるだけでモテるほど整った顔は持っていなかったため、特にそういったアプローチを受けることはなかったが……異世界で再びバーテンダーとして働き始めてからも、なるべく最初にバー客として知り合った女性とはそういった関係にならないように努めてきた。

「…………とはいえ、あれだ。まだ十八の俺が君にこういう事を言うのは変だと思うが、変に焦らない方が良い。まだ若いんだからな」

「だっはっは!!!!! 本当にアストが言うことじゃねぇな」

「だから解ってますって。それで、グルタが本当にモテたいのか……それとも遊びたいのか。モテたとしても、直ぐに運命の人だと思える女性に出会って、一途に生きるかもしれない」

「っ……俺みたいな若造が、まだまだ変に悩むのは早いってことですね!!!! 俺、まずは冒険者としてもっともっと頑張ります!!!!!!」

「あっ、うん……そうか」

前世でバーで働き始め、そして今世でもバーテンダーとして働き始めて五年以上が経過した今でも……言葉選びは本当に難しいと実感するアストだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

押し付けられた仕事は致しません。

章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。 書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。 『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...