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兄の物語[112]直感的に……

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「ガンツさん、あんな事をして良かったのかしら」

冒険者ギルドを出て酒場へ向かう途中、心配そうにガンツへ声を掛けるペトラ。

「別に構わねぇって。多分言われても無理だろうなってのは解ってるが、それでもあいつらは愚痴やらなんやらを吐くなら、せめてクライレットたちがいないところで吐けば良かったんだよ」

事前に把握していた表情、厨房のおかんに怒鳴られた時の表情や驚き具合を見る限り、どう考えてもあの場でクライレットたちに対して悪意をぶつける気満々だったというのがガンツの見解。

そして実際のところ、その見解は見事的中していた。

「凡な連中が若くて才能あって尚且つ努力が出来て、実力がある連中を妬むなってのは無理な話だ。ただ、時と場所を選ぶことぐらいはあいつらも出来ることだ」

「………でも、多分無理なんですよね」

「無理だろうな。ちょっと考えれば、それをするメリットがねぇことぐらい解ると思うんだけどな。だってよ、例えばロビーに居たお前らに悪意を飛ばそうとした連中が、森の中で絶対に敵わないだろうって魔物に襲われてたら、実際にどうするかは置いといて、直感的に助けようと思うか?」

「…………正直、思えませんね」

「クライレットと同じく、思えません。どうして私たちがと思ってしまいますね」

「ぶっちゃけ、そのままぶっ殺されて食われても良いんじゃねって思うっすね。まぁ、そんなに強い魔物がいたなら、俺が戦ってみたいって思うっすけど」

「ん~~~……助ける義理はないって思っちゃいますね~~」

「私は…………そう、ですね。進んで助けたいとは思えません」

「俺もクライレットたちと同じ意見ですね。そういった態度を取るということは、見捨ててくれと言ってる様なものだ」

「うちも同意見っすね~~~。な~~にが悲しくてそんな連中を助けなきゃならねぇんだって感じっすよ」

ものの見事に、全員直感的には助けたくないというのが本音だった。

「そうだろ。そこに関しちゃあ、相手が自分より良い立場だから云々かんぬんは関係ねぇんだよ。俺らは騎士じゃねぇからな」

「……そう言ってくれるのは嬉しいですが、今回の一件で良からぬ噂が広まったりしませんか?」

ペトラが心配に思ったのは、その部分だった。

「ドーウルスで活動してる連中に事実を話せば、そんな噂を信じる奴は殆どいねぇよ」

「そういうものですか?」

「そういうもんだ。これでも、それなりに頑張ってきたからな」

ガンツは冒険者全体で見ても、良い意味で冒険者らしく、凡人側ではあるものの前に進み続けた結果、Bランクに到達した。
その人望はペトラの想像以上であり、ドーウルスの冒険者ギルドから見て、ガンツはあのゼルートと良好な関係を結べている重要な人物。

そのゼルートの兄であるクライレットに矛先が向かない様に動いたとなれば、表彰もの。
冒険者ギルドとしても、よくやったと褒め称えたい。

「後、言っちゃあ悪いが、ロビーにいた連中がドーウルスに来ても……大半は一年持つかどうか…………殆どの連中は、別の街で活動した方が良いって思って離れていくだろうな」

「どうしてですか?」

ミシェルの質問に、ガンツは少し恥ずかしそうにしながら答えた。

「冒険者ってのは、特に野郎たちの中にはちやほやされたい連中が多いんだよ。ロビーに居た連中が全員ルーキーだとは勿論思ってない。ただ、ドーウルスの冒険者ギルドなら、あのロビーに居た連中のトップが、せいぜい平均より少し上って程度だ」

「なるほど。確かに別の街で活動した方が、ちやほやされますね」

「だろ。別に街や冒険者ギルドの規模が大きいところに移動して活動したからって、勝手に強くなるわけじゃねぇんだ。寧ろ、俺に悪い噂を流されるかもしれないってビビッて、この街や他の街で活動してた方が、あいつらの為になるかもな」

そもそも多少悪い噂を流されたところで、ガンツはBランク冒険者。
噂を上書きする力もあり、特に今回の件ぐらいは恐れるほどの事ではなかった。
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