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兄の物語[111]おかんの怒号

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「クライレット、予定通り一旦戻るぞ」

「えぇ、分かりました」

三日間、探索を続けたがバジリスクとは遭遇出来ず、クライレットたちは一旦街に戻り、冒険者ギルドで討伐したモンスターの素材を換金。

「こちらが、買取金額になります」

「ありがとうございます」

三日間だけでは、本命のバジリスクを発見して討伐することは出来なかった。

ただ、その結果に受付嬢達は落胆していなかった。
何故なら……クライレットたちが買取に提出した素材には、Cランク魔物の物も含まれていた。

彼等はまだ若くも、Cランクの魔物と戦っても特に疲労を感じさせない。

それだけでギルド職員たちとしては希望が持てる。

「あんた達!!!!!! あの若い子らに無駄なちゃちゃ入れんじゃないよ!!!!!!!!!」

「「「「「「「「っ!!!!!! …………」」」」」」」」

クライレットたちが買取金額を受け取った瞬間、ギルドに併設されている酒場の厨房から、恰幅の良さそうな女性の怒鳴り声がロビーまで届いた。

厨房を仕切っている女性の料理長は、受付嬢からとあるバカが、わざわざ昇格試験の為とはいえ、バジリスクを討伐する為にドーウルスから訪れたクライレットたちに対して失礼な発言をしたという話を聞いていた。

料理長のおばちゃんは元冒険者……といった経歴を持ってはいないが、平民の冒険者たちには逆らってはいけないおかんというイメージを持たれていた。

そのおかんから口を開く前に思いっきり釘を刺され、クライレットたちにバカ絡みしようとしていた冒険者たちはその怒鳴り声に肩を震わせ……バツの悪そうな顔を浮かべた。

「わぉ…………なんつーか、母ちゃんを思い出す声だったぜ」

「珍しく同意見じゃない。自分が起こられた訳でもないのに、思わず震えちゃったわ」

バルガスとジェリスはそういったタイプの幼少期を過ごしていたこともあり、バカ共を征してくれたくれたことを喜ぶ半面、何故か自分も怒られたと本能が感じてしまった。

「厨房を仕切る女性が、バカな冒険者を鎮める…………初めて見たけど、なんて言うか…………とりあえずスカッとしたわね」

ペトラからすれば、バカな兄弟がしっかり怒られて罰を受けてるのを見て、ざまあみろといった気分だった。

「どうやら、三日目にあった出来事を、このギルドで逆らっちゃいけない存在に受付嬢たちが伝えてくれてたみてぇだな」

これ以上クライレットにイライラを起こさせない為には、ガンツは自分が体を張らなければと考えていた。

ただ、ガンツは身内の喧嘩であれば上手く仲裁出来るが、関わりのない同業者を上手く宥め、対応するのはあまり得意ではなかった。

そうなれば、無理矢理腕力で解決するという手段もあるが、試験監督として……なにより、他の街を拠点としている立場としては、なるべく避けたい。

とはいえ、全く何も出来ない訳がなく、ガンツはアドリブでクライレットに話を振った。

「しっかし、ここにいる連中はどうやら一時だけでもドーウルスで活動したくねぇらしいな。そう思わないか、クライレット」

「……ふふ、そうですね。Bランク冒険者であるガンツさんに喧嘩を売るなんて、ドーウルスでは活動したくないって言ってる様なものなのに」

「「「「「っ!!!!????」」」」」

実際のところ、ガンツにそこまでの権力的な力は、当然ながらない。

ただ、ガンツはドーウルスで十年以上も活動し続けている古株。
ここ最近でBランクに上がったこともあり、前まで以上に後輩たちから頼られることが増えた。

後輩たちと関りがあるだけではなく、当然ながら共に冒険者道走って走って突っ走って来た同年代の者たちとも関りがあり、グレイスやコーネリアといった冒険者の中でトップクラスの者たちとも関りがある。

その為……ガンツが本気で広めたい話を広めようとすれば、あっという間に広まってしまう。
勿論、二人の会話は冗談であるため、本気でそのような事をするつもりはない。

しかし、そこまで二人の腹の内が読めない冒険者たちに対して、良い牽制となった。
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