スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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六百九十四話 嫉妬が先

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「では、今日はこの辺りで」

完全に日が暮れた頃、アラッドたちは予定通り道中の街……ではなく、丁度良い場所で野営を行うことになった。

(確かに国王が領地に来るってのは、色々とその街を治めてる領主や、泊まる宿……いや、その街を治める領主の家に泊ることになるのか? とりあえずクソ緊張してクソ面倒だろうから、野営して朝まで待つ方が総合的には良い……のか???)

しかし今回の場合、万一盗賊たちが襲ってきたらその領主たちの立場やあれこれはどうなるのだろう……なんて考えながらアラッドは自分たちのテントをあっという間に設置し、料理が出来る騎士や宮廷魔術師たちに交じり、夕食の料理を作り始めた。

「アラッド君は料理も出来るとは聞いていたけど、本当にこう……プロ? だね」

「ありがとうございます。でも、まだ実家で生活していた時に、趣味でやってただけなので」

「趣味、か…………趣味がプロレベルに到達するのは、ある意味理想だね」

アラッドが新しい料理を生み出した。
その話は騎士や魔術師であっても、知っている者であれば知っている常識。

ただ……多くの者は、アラッドが生み出す切っ掛けを料理人に伝えただけで、アラッド自身が並以上の腕前を持っているとは思っていなかった。

「本当ですね。正直なところ……ちょっと自信を無くすレベルです」

貴族出身であれば、料理は女性が行うもの……という感覚はない。
それでも、令息よりは圧倒的に料理が出来る女性が多く、令息であっても好意を抱いた者が作ってくれた料理、というのは非常に興味がある。

宮廷魔術師の女性はそれなりに料理が出来る自信を持っていたが、自分よりも素早く丁寧に調理を進めていくアラッドを見て、自分はまままだ井の中の蛙だと思い知らされた。

「俺は十五歳まで実家で過ごしてましたからね。他の令息や令嬢たちと比べて、自由に過ごせる時間が多かったんですよ」

「自由に過ごせる時間、か…………そうだね。確かに大切な時間だ」

騎士、宮廷魔術師たちの記憶と言えば、学ぶ内容を伝えられ、それについて一生懸命に学ぶ。
それに関しては悪いことではないが、自発的にこれを学んでみたいと思い、学んだ記憶があまりなかった。

「ところで、アラッド君は今回対戦する相手の情報を集めたりしてるのかい」

「いや、全くしてません。嘗めてるとかそういう訳じゃないんですよ。ただ、そっちの方が面白そうだと思って」

「そういう考え方が出来るのは、十分強い証拠だね。でもそうだよね……アラッド君にはあの従魔、名前はクロだったかな。ちゃんと従魔として冒険者ギルドに登録してるんだし、正直負けることはないって気持ちの方が強いよね」

「あまり傲慢にはなれませんけど、もしそういう人が他国であってもいるのであれば、どんな人なのか……非常に気になりますね」

代表戦について話題を振った騎士は、アラッドが代表戦で戦う若手冒険者についてある程度情報を得ており、代表枠に選ばれるだけあり、普通ではないのは確かであった。

「っし、そろそろですね」

全ての料理が出来上がり、簡易テーブルに料理を運んでいく。

「では、皆食べようか」

王と同じ食卓でなど恐れ多い、という気持ちは全員ありながらも、見張りなどを考えれば夕食は食べておかなければならず、立ったまま食べるというのは行儀が悪い。

アラッドは恐れ多いという気持ちはありながらも、そういった気持ちに悩むのも面倒と思い……直ぐにいつも通り食べ始めた。

「ふむ……こういった場所で料理を食べるのも、また一興だな」

国王も過去には体験したことがあるが、王位についてからは殆ど体験しなくなり、記憶から薄れていた。

夜空の下で、いつも王城の料理人たちが作る料理とは違い、良い意味で肉肉しぃ料理にかぶりつく……そんな体験にじんわりとした楽しさを感じる国王。

「少し見ていたが、料理も一人前とはな……アラッドよ。実際のところ、冒険者になってから求婚が止まらないのではないか?」

「っ!!??」

いきなり振られた話題内容に、吹き出しそうになるが、ギリギリ堪えたアラッド。

「っ~~~……はぁーーー。えっとですね……俺はべつに普通と言いますか。冒険者として活動を始めてから、そういった事は全くありませんでした」

関係を持った女性こそ巡り合ったものの、その他の女性たちとそういった関係になることはなく、告白や求婚もされたことはない。

「そうなのか? 侯爵家の令息であれど、冒険者として活動していれば、強さや容姿に性格……そして料理の腕などに惹かれるものが多くいてもおかしくないと思うが」

「やはり、侯爵家の令息というのはやや恐れ多いと言いますか、距離を測りかねる存在なのでしょう。加えて自分は騎士の爵位を持った状態で冒険者となり、既にクロという頼りになる従魔もいることで、嫉妬の対象になる場合が多かったかと」

「そうか。まぁ、それはそれでというものか」

是非とも娘と、と考えている国王としては、アラッドにそういった相手がいないというのは悪くない情報であった。

「自分はまだまだ冒険者として世界を冒険したいと思っていますしッ!!!!????」

「「「「「「「ッ!!!!????」」」」」」」

アラッドが最後まで言い終わる前に、何かを感じ取り渦雷を手に取って構えた。
それとほぼ同じタイミングで、もしくはほんの少し早く護衛の騎士や宮廷魔術師もそれぞれ自身の得物を手に取って構えた。
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