スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
696 / 1,043

六百九十五話 ちゃんと伝えている

しおりを挟む
(クソッ!!! この距離まで気付かなかったとは……夕食中とはいえ、不覚だ!!!)

アラッドだけではなく、クロも同じ気持ちであった。
誰かに言われたわけではない。
それでも……クロの中で、自分の第一の役割は接近者の発見だと思っていた。

(敵意や殺気は、ない? けど、この感じ…………間違いなく強い!!!!)

やはり野営は野営で面倒なことになったと思いつつ、冷静に接近者の出方を窺う。
現在、アラッドたちの役割は接近者を倒すことではなく、国王を第一に守ること。

接近者の殲滅は二の次。

「安心するんだ。争うつもりはない」

「ッ!? その、声は」

茂みの奥から現れた人物は妙齢のダンディな男。
中華風の服装を身に付けており、こう歳を取りたいと思う理想を体現していた。

「も、もしや…………木竜殿、でしょうか」

「うむ、その通りだ」

「「「「「「「「っ!!??」」」」」」」」」」

国王は当然知っており、現在護衛中の騎士や宮廷魔術師たちも話だけは聞いたことがある。

「この間ぶりだな、アラッド、クロ。そしてスティーム、ファルよ」

「お、お久しぶりです」

スティームも木竜の声には聞き覚えがあり、直ぐに万雷をしまった。

「国王陛下。こちらは以前、手紙でお伝えさせていただいた木竜殿です」

「サンディラの樹海を住処とし、一度消えたという……」

「怪しむのは当然であろう。であれば、元の姿に戻ってみようか?」

「いや、大丈夫だ。実際に出会ったアラッドとスティームが認めているのだ。必要以上に怪しむ必要はない」

国王が出来ではない断言したため、騎士たちも得物を一応下ろした。

「同席しても良いか?」

「っ、えっと…………も、勿論です」

この場で決定権があるのは自分ではない。
そう思って国王に視線を向けるが、帰って来た答えはアラッドが決めてくれというもの。

アラッドとしても来客を断れる存在ではないため、同席を許可した。

「それで、木竜殿は何故此処に?」

とりあえずそこを訊かなければ始まらないと思い、交流があるアラッドが訪ねた。

「参加させてらうとなれば、まずはアラッドの上司? とやらに当たる人物に礼を言っておかねばと思ってな。私なりに考えた結果、国王という結論に至った」

「…………っ、なるほど。そういう事でしたか」

この木竜の言葉だけでは、全員が何を言ってるのか理解出来ない。

しかし、ある程度事情を知っているスティームと国王だけは理解出来た。

「なるほど。そうであったか。しかし……話を聞いた限り、あなたは今でもサンディラの樹海を住処としていると聞いているが」

木竜があの一件に関して、直々に礼を言いに来た。

一国の王と言えど、相手はAランクの正真正銘、ドラゴン。
ほんの少し嬉しさがある……だが、明確な住処を持っているドラゴンが移動したとなれば、それだけで騒ぎが起きるというもの。

やはり王としては、まずそこが気になった。

「安心しろ。確か…………クランの名前は、緑焔だったか。そこのトップであるハリスという男に話は付けてきている」

見た目(人間態)通り、猪突猛進ではない。
自分が別空間に消えたことで、人間の世界に及ぼした影響は忘れておらず、出発前にどうやって騒がれず人間に少しの間移動すると伝えようか、しっかりと考えていた。

(良かった~~~~。勝手にここまで来てたら……いや、別に木竜殿は誰かの従魔ではない訳だから、誰かの許可なしにあそこから移動する必要はないんだけども、とりあえず本当に知恵というか人間界の常識があるドラゴンで助かる)

今回、木竜が自分たちに会いに来た一件、特に問題はない。
そう思ったアラッドだったが……一つ、頭の中に疑問が浮かんだ。

(……もし、陛下が相手国に行く予定がなく、王城から出る予定がなかった場合……どうやって会いに来るつもりだったんだ?)

もしかしたら、アラッドの気配を負って見つけ、アラッドを経由して国王に挨拶しようと考えていたのかもしれない。

そうであれば、特に問題はない。
ただ……人間界の常識を持っていれど、ドラゴンはドラゴン。
Aランクの超猛者であるため……面倒な部分は端折る可能性も否定出来ない。

(…………き、聞かないでおこう)

ここで素直に木竜が国王への接近方法を語れば、それはそれで問題になりそうだと予想したアラッドは、大人しく肉料理を摘まむ。

「ところでアラッド、スティーム。お前たちは何故、国王と共に行動してるのだ? 私の記憶が正しければ、お前たちは冒険者として行動していた筈だが」

国王に感謝の気持ちを伝え終えた後、木竜は直ぐに気になっていたことを尋ねた。

「え、えっとですね。実は……」

木竜が相手となれば、特に隠すこともない。

国王ともアイコンタクトで確認を行い、アラッドは何故国王や騎士、宮廷魔術師たちと共に行動しているかを伝えた。

「なるほど。そういう理由だったか…………」

理由を聞いて納得した木竜。

ただ、納得はしたものの、アラッド以外の代表戦に参加した者を見渡し……思わず口にしてしまった。

「その代表戦とやら、やる意味はあるのか?」
しおりを挟む
感想 466

あなたにおすすめの小説

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

処理中です...