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俺と間男と間男
④
しおりを挟む思えば、射精するのは久しかった。子猫ちゃんの愛撫は痛いほどだったし、慣らされずに突っこまれて突かれるのを毎度「早くイってくれ」と苦行に耐えるように思っていたし。
日ごろのセックスがそれでは、自慰をするのも気分が乗らず、すっかりご無沙汰になっていた。なので、久しぶりの射精、しかも、これでもかと昂らされ痛みのない愛撫を施されて達したともなれば、頭の意識が飛びそうに快感に痺れるというもの。
熱く息を切らし涎を垂らしっぱなしにして、ソファにぐったりともたれる姿は、さぞみっともないものだろう。が、優男は別に驚いたようではなく、ベルトを外す手を止めないでジッパーを下ろしお目見えした、濡れそぼったパンツに指をかけた。
パンツがめくられ濡れた粘着質な感触がするのと、ぐちゃ、と水音が立ったのに「っあ・・・」と冷めやまらない体を震わせた間もなく、剥き出しになったそこに固いものが押し当てられた。息を飲む暇も与えてくれないで、とたんに濡れたそこを固いので容赦なくぐちゃぐちゃに扱きだし、両手で胸を揉むようにしながら指で突起をいじくり回した。
「ああ、あ、だ、めえ、は、はぁん、あ、あ、あぁん」
待ち望みながらもずっと放置されつづけたところを急に、しかも同時に扱かれ揉まれて怒涛のように快感が湧いてくる。溜まりに溜まった精液をさっき出したばかりのはずが、腰を跳ねるたびに先走りが噴き出してソファに散った。
ソファを汚すことを気にしている余裕はなく、短い間隔で何度も達しているようで、絶え間なく先走りが散るのも、あんあん高く鳴くのも、とても制御ができない。快楽を処理できるキャパはとっくに超えて、気持ちよくされるのが怖いという思いは頂点に達し「ああ、あ、あ、ん、あん」と喘ぎながらも泣いてしまう。
「・・・怖いんですね」
それまで俺からすこし体を放し、狂ったように善がる姿を眺めていたような優男が、頬ずりをするように耳元に顔を寄せてきた。そう、怖い。だから止めてくれ、と言いたくて、泣きながら首を横に振ると「ふふ」と笑いを含んだ吐息が耳に吹きこまれる。
「こうして、あたなをとことん気持ちよくしている僕が、明日には冷たく突き放すかもしれない。『は?セックスしたくらいで何、本気になっているんですか?』ってね」
「あ、そん、な、ああ、や、やあ」
意地悪なことを囁きつつも、胸と濡れた股を気持ちよくしてくる。怖いという思いは消えないのに、かといって萎えることなく、股をしとどに濡らす。それを見咎めたように、水音を立てるように扱いてきて「ほら」と言われた。
「でも、怖いのは気持ちいい、でしょ?」
ただでさえ火照っている顔が、かっと熱くなる。自覚はないけど、図星のように思えて優男に心の奥底まで見透かされているように思えて、余計に怖かった。これ以上心を暴かれたくなくて、悪魔のような囁きから逃れようと顔を伏せるも、優男は舐め上げた耳の裏に唇を押し当ててくる。
「あなたにとってセックスは、最後の晩餐のようなんですね。明日はどうなるか分からない。今この時にしか気持ちよくなれないかもしれない。だから、体が快楽を貪り食おうとする」
「たまらない体だ」と言われて「や、やあ、あぁん!」と俺は射精せずに達した。脳みそが溶けそうなほどの甘い痺れに、指の先も動かせない状態になったけど、優男の手と囁きは留まることを知らないで、その後も快楽の底なし沼に溺れさせられつづけたのだった。
※ ※ ※
夢も見ずに泥のように眠って、このまま起きれないかと思ったけど、漂ってきたその匂いに反応しないでいられなかった。薄く目を開ければ、昨夜、見上げたのとまた違う見慣れない天井で、横たわっているのはベッドのさらさらのシーツの上だ。
心身、疲弊しきっては指の先を動かすのも億劫だったものを、香ばしい匂いがしてくるほうに何とか顔を向ける。視線の先には扉の隙間があって、カーテンが閉め切られた薄暗い室内に、そこから眩い明かりが漏れていた。
朝の爽やかな日差しを眺めて、ますます起きたくなくなったとはいえ、冗談でなく腹と背中がくっつきそうに極限の空腹になっていたから、布団から這いずりでてベッド脇にあるサイドテーブルに手をつき、どうにか立ち上がってみる。全身気だるくてしかたなく、膝に力が入らなければ腰も痛くて、老人のように腰を曲げたまま、足を引きずっていき扉を開けた。
眩い視界の中で真っ先に目がいったのは、テーブルに並べられた、ご飯とみそ汁、納豆、卵焼きだ。とたんに腹が景気良く鳴って、台所でお茶を入れていた優男が顔を上げ「おはよう」と笑いかけてきた。
「お」と言いかけて、声が嗄れて出てこずに小さく会釈する。テーブルには日本人的百点満点の朝食が両向かいに並べられている。湯呑を片手に優男が片側に座ったので、俺はよろよろとしながら向かいに座った。
気まずいのと空腹で、ひたすら朝食を見つめる俺に、優男は微かに笑いを漏らしつつ「いただきます」と言った。後に続いて、声が出ない代わりにきちんと合掌して箸を手に取る。
まず卵焼きを箸でとり、口に持っていったなら、甘い出汁がじゅわっと口内に広がり、そしたらもう我慢ができずにご飯をかきこんだ。ご飯を口の中に詰めこむだけ詰めこんで、満足げに咀嚼し、途中で我に返って向かいを見やる。
優男のほうは箸を手に取らずに、湯呑に口をつけつつ、こちらを微笑ましそうに見ていた。慈しみあふれるようなその視線がどうにも落ち着かなくて、ご飯を飲みこむと「あんた、いいのか」と所在なく箸をさ迷わせた。
「優しくされるのが怖いというのは、きっと直らない。いちいち怖がられたら面倒くさいもんじゃないのか」
この期に及んで腰が引けている俺に「あたなこそ、分かっていないよ」と優男は湯呑を置いて言い聞かせた。
「優しくされて怖がるなんて、そんな面白い人、中々いません。ずっと傍で見ていたい。だから直らなくてもいいんですよ」
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