俺と間男と昇り龍

ルルオカ

文字の大きさ
10 / 13
俺と間男と間男

しおりを挟む



つい絆されて「俺は」と余計なことを口走りそうになったとき、インターフォンの音が鳴った。

とたんに微笑をひっこめて真顔になった優男が玄関のほうを振りむきつつ、出迎えにいかないでいると、インターフォンの音が絶え間なく鳴りつづけた。

深夜にインターフォンを鳴らすとすれば、身内か恋人だ。
しつこく鳴らしつづけているあたり、気性が荒いという優男の子猫ちゃんなのだろう。

口説かれはしているけど、一線を越えたわけではない。
それに普通なら男が男を家に泊めたくらいで、浮気をしたとは見られないはずだ。

と、思いつつ、インターフォンの音が鳴りつづける中、固唾を飲んでいると、ため息一つ「ここで待っていて」と俺の肩を叩いて優男が玄関のほうへ歩いていった。

鍵と扉が開かれる音がして、つづけて耳に飛びこんできたのは「なんで、お前電話にでないんだよ!」という男の怒鳴り声。
まるで子猫ちゃんのイメージではなく、そもそも男とも思っていなかった。

優男の恋人が男で、頭に血が上りやすいタイプならば、俺と浮気していると誤解して暴れる危険がありそうだったけど、俺は不安になるより、呆気に取られていた。
だって、男の怒鳴り声に聞き覚えがあったから。

「ふざけんなお前!部屋を見せてみろ!」と一段と声を張り上げ、騒がしく物音や足音を立てて居間に乗りこんできた男は、俺を見止めて一瞬、鬼のような形相になったものの、その後は一言も声を発せなくなった。
そりゃそうだ。

優男の言う子猫ちゃんは、俺の恋人でもあるのだ。

すこし遅れて、優男が肩を押さえながら居間にきて、黙りこんでいる俺と子猫ちゃんの顔を不思議そうに交互に見やった。
「え?知り合い?」と言ったのに、我に返ったらしい子猫ちゃんは「しばらっくれんな!」とまた俄然、吠えだす。

「お前らのほうが先につきあってたんだろ!
で、それで、二人して結託して俺を弄びやがったんだ!」

その言い分を聞いて優男は目を見開き、現状を把握したらしい。

それてにしても、その発想が貧困で可笑しかったのか、咄嗟に口に手を当てたのを、子猫ちゃんは聞き逃さなかった。
「なに笑ってやがるんだ!人をこけにしやがって!」と拳を振りあげて、対して優男は逃げる間もなく目を瞑って身を固くした。

でも、子猫ちゃんの拳は振り下ろされることはなかった。
俺がその腕を掴んだからで、振りむく暇を与えないで膝の裏を蹴り、床に跪かせた。

掴んだ腕は背中のほうに捻じ曲げ、肩を掴んでそのまま上体を床に伏せさせる。

殴ろうとしていたのが、いつの間にか床にうつ伏せにされ唖然としている子猫ちゃんに「これ以上暴れたら、逮捕する」と静かに言い渡した。
「・・・は?なに警察みたいなこと」とまだ困惑しているようながら、子猫ちゃんが噛みついてきたのを「警察なんだよ」と返す。

「好きな相手には警察と名乗ったら逃げられると思って、職業は警備員だって嘘をついているんだ」

二度目の衝撃を受けた子猫ちゃんは、でも、開き直ったのか「はっ!捕まえられるもんなら捕まえてみろよ!」と喚きたてはじめる。

「そしたらお前の同僚に、こいつはゲイで乱暴にされて殴られるのが趣味の変態だって証言してやる!」

優男が何か言いかけ身じろぎしたのを目の端に留めつつ「証言したければすればいい」と床に押さえつける力を強めて言った。

「俺のことは本当だからな。
でも、そんな変態でも、警察官として人に暴力をふるう犯罪者を放ってはおけないんだ。

俺の恋人なら尚更、進退を懸けても逮捕してやる」

子猫ちゃんの体の力が抜けていくのが、掴む腕から伝わってくる。
それでも俺は力を緩めずに「もう二度と俺と彼の前に姿を現すな」と言い、子猫ちゃんが悔しげに床に頭突きするのを、肯いたものと見なして腕と肩から手を退けてやった。

「警察」と聞いて十分に怯んだのだろうし、それまで暴行される側だった俺に、いとも簡単に組み伏せられたことで、すっかり戦意喪失したのだろう。

さっきまで血気盛んだったのが嘘のように、力なく起き上がると俺と優男の顔も見ないで、すごすごと猫背で立ち去っていった。

玄関のほうから扉の閉まる音が聞こえて、俺はため息をついて背後にあるソファに座りこんだ。

脱力しきって頭を深く俯けたままでいたら、ひそやかな足音が近づいてきた。
そのつま先が見えるところで足音がやんだけど、俺は顔を上げないまま、また、ため息をして言う。

「俺は警察だよ」

優男は何も言わずに佇んでたものの、少しして、しゃがみこん握りしめている俺の両手に触れた。
「ふふ」と微かな笑いを旋毛に吹きかけるようにし「裏切るには早すぎるでしょう」と手をさすってくる。

優男の言葉に握る力が緩んで、ほどけた片手を持っていかれた。

のもつかの間、指先に生ぬるく濡れた感触がした。「っ」と思わず上げようとした顔を留めて、奥歯を噛みしめ固く目を瞑っているうちにも指先から指の股まで隅々濡らされて、それを一本一本丁寧にやられていく。

指が終われれば手の甲と掌を、Yシャツの袖から舌が届くまでの手首を舐めつくされる。
右手が終われば左手を。

手に唾液を塗りたくられ、これで終わりかといえば、そうではなく、今度はYシャツをしゃぶるように舌を這わせだして、腕の付け根まで舐めていこうとしながら、ボタンを外していった

。腕の付け根までいったところで、すべてのボタンを外し終えてYシャツを脱がされて、俯いていることで晒されているうなじに舌を滑らされた。

猫が毛づくろいするような舌遣いで、時々食むようなことがあっても、やんわりと唇を押し当てるだけで、すこしの痛みも感じさせなかった。
愛撫というには、ひどく、もどかしげなもので、でも、気づかされたことがある。

比べて子猫ちゃんの触り方が痛かったということ。
例えるなら亀の子たわしで擦っているようで、そもそも愛撫はおざなりだったし、後ろを、ろくにほぐしてもくれないで、とにかく早く突っこみたがっていた。

子猫ちゃんに乱暴に抱かれて気持ちよくなくても不満はなかった。
気持ちよくなるほうが不安で怖かったから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...