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幻の家
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「さっき、君がいつもの手籠を持って外に出るのを見掛けたのでね」
質問しているものの、氏の中では既に答えが出ていたようだ。レジナルドが答える前に、デュシュッド氏は探るような声で、静かに切り出した。
「私の話が、旧ケイリー伯爵邸を買い取りホテルに改装する計画について――であっても、君は私のテーブルにつくことなく、人命救助を優先するかい?」
(ケイリー伯爵邸…?)
受話器を握る手が震えた。
ケイリー伯爵邸は過去の遺物だ。何年も前に売却され、マーシャル家のものでなくなって久しい。レジナルドの家と呼べる場所ではない。そう割り切り、とうに訣別した場所のはずなのに、その名を聞かされ、意外なほど衝撃を受けている自分がいる。
動揺した隙を突くように、甘い囁きが重ねて誘惑する。
「伯爵邸をよく知る君に、その責任者になってほしいと言っても?」
(――あの家に、戻る?)
伯爵夫人となった母と共に移り、ウィズリー校に入学するまでの二年間を過ごしたあの場所に?
そう思った瞬間、レジナルドの中から一切の動揺は消滅した。
「…私に帰るべき家があって」
質問しているものの、氏の中では既に答えが出ていたようだ。レジナルドが答える前に、デュシュッド氏は探るような声で、静かに切り出した。
「私の話が、旧ケイリー伯爵邸を買い取りホテルに改装する計画について――であっても、君は私のテーブルにつくことなく、人命救助を優先するかい?」
(ケイリー伯爵邸…?)
受話器を握る手が震えた。
ケイリー伯爵邸は過去の遺物だ。何年も前に売却され、マーシャル家のものでなくなって久しい。レジナルドの家と呼べる場所ではない。そう割り切り、とうに訣別した場所のはずなのに、その名を聞かされ、意外なほど衝撃を受けている自分がいる。
動揺した隙を突くように、甘い囁きが重ねて誘惑する。
「伯爵邸をよく知る君に、その責任者になってほしいと言っても?」
(――あの家に、戻る?)
伯爵夫人となった母と共に移り、ウィズリー校に入学するまでの二年間を過ごしたあの場所に?
そう思った瞬間、レジナルドの中から一切の動揺は消滅した。
「…私に帰るべき家があって」
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