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幻の家
(3)
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感情の抜け落ちた、乾いた口調で続ける。
「それを勝手に他人にいじられたなら、きっと私は冷静ではいられないでしょう」
何か感じるものがあったのか、デュシュッド氏は無言で先を促す。
「よく知った場所ではありますが、ケイリー伯爵邸が私の帰るべき家だったことは一度もないのです」
前妻の死後、十数年続いた愛人としての日々に終止符を打ち、母は正式にマーシャル家に迎えられた。レジナルドもその一員となったが、ウィズリーへ入るまでの日々は重苦しく、冷ややかな視線と無言の侮蔑に満ちていた。
――妾の子。
新しい弟を空気のように扱う年の離れた異母兄姉、彼らに同調する心無い使用人の中傷。
レジナルドを深く傷つけ萎縮させたケイリー伯爵邸から、逃げるように入学した寄宿学校での生活は、粗末な寝具に冬は凍え、厳しい規則に縛られていても、心安らぐ天国のように思えた。長い休みが近づくと、帰省に浮かれる級友達とは反対に憂鬱になった。またあの、暗い海の底のように冷たい場所に帰らなければならないのか、と。
「それを勝手に他人にいじられたなら、きっと私は冷静ではいられないでしょう」
何か感じるものがあったのか、デュシュッド氏は無言で先を促す。
「よく知った場所ではありますが、ケイリー伯爵邸が私の帰るべき家だったことは一度もないのです」
前妻の死後、十数年続いた愛人としての日々に終止符を打ち、母は正式にマーシャル家に迎えられた。レジナルドもその一員となったが、ウィズリーへ入るまでの日々は重苦しく、冷ややかな視線と無言の侮蔑に満ちていた。
――妾の子。
新しい弟を空気のように扱う年の離れた異母兄姉、彼らに同調する心無い使用人の中傷。
レジナルドを深く傷つけ萎縮させたケイリー伯爵邸から、逃げるように入学した寄宿学校での生活は、粗末な寝具に冬は凍え、厳しい規則に縛られていても、心安らぐ天国のように思えた。長い休みが近づくと、帰省に浮かれる級友達とは反対に憂鬱になった。またあの、暗い海の底のように冷たい場所に帰らなければならないのか、と。
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