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1章 出会い
導師
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「厳しい先生?」
「あぁ。厳しい人だったよ。とてもね」
サフィラスの口ぶりから、もうその人は居ないのかなと感じた。
「…もういないの?その人怖かった?」
「そうだな……、今思い出しても…、すごく怖かった」
サフィラスはニゲルを見ると、びっくりするようなことを言った。
「私は途中、死にかけた事もある。長い間、一緒に試練を積んでね、ニゲルが見たあれよりももっとすごい技を次々覚えなくてはいけなくて、このまま果てて死ぬのではないかという思いをしたことは一度や二度ではないよ」
「なんでそんな厳しい先生とずっと一緒にいられたの?僕なら逃げるかも……」
「ニゲルは厳しくされたり、叱られたら、投げ出してやめてしまうの?」
「…うーん。理由によるかも…」
考えてみる。
お母さんには何度も厳しく叱られたことがある。
弟と喧嘩して叩いたりした時、食べ物を奪い合って、アーラを泣かせた時。
あとは、内緒で畑からリンゴをもいで帰ってきた時だ。
けれど、怒られてから逃げはしなかった。きちんと謝った。
とくにお母さんは、マリウスと蹴り合いの喧嘩をした時、ものすごく怒った。晩ご飯抜きで反省しなさいと言われたほどだ。
「僕の事を考えて叱ってくれるなら、多分、逃げないかな…」
サフィラスは微笑んで頷いた。
「そうだな。私も同じだった」
「その人はサフィラスの事を考えて叱ってくれたの?」
「そうだよ。先生とは、そういうものだと教えてもらった。私の導師はとくに素晴らしい人だったよ。優しく、強く、苦しい時はいつも私に寄り添ってくれた。本当の親の様に。…そして、人として道を間違った方に踏み外さないよう、見守ってくれた」
「その人、きっとサフィラスの事が好きなんだね」
ニゲルの呟きに、サフィラスは微笑んだ。
「私はまだ半人前だ…今もきっと見守ってくれているのだろう……遠い国のどこかで」
そして、何かを懐かしむように、鳥達が羽ばたいていく山の向こう、空の彼方を見て、目を潤ませた。
先生とサフィラスの間には特別な絆があるのだと感じたニゲルは、自分もサフィラスと、特別な絆でつながりたいと思った。そしてそれがあれば、48日後もきっと寂しくないような気がした。
「じゃあ、サフィラスはその人みたいに僕の事を導いてくれるの?…どこに?」
「それは、わからない。進む場所を決めるのは自分だけだからだよ」
「自分で決めるの?」
サフィラスは強く頷いた。
「そうだよ、ニゲル。これからは、自分で自分の目標や、頑張ってみたい事を一人で決めるんだ。もう、帰ってこれないお母さんから一人立ちしよう」
「…ひとりだち…」
「そう。私の弟子になるなら、人任せにして誰かをあてにしたり、何となくやったりするんじゃなくて、自分でやるべき事を考えて決めていくんだ。それがニゲルをきっと強くしてくれる。私は厳しい事を言うかもしれないよ?優しくないかもしれない。さあ、どうする?本当に私に先生になって欲しいかな?」
ニゲルは一生懸命考えてみた。
もしサフィラスに叱られたら。
酷く怒られて、嫌になったら。
けれど、途中で投げ出したりしないのではないか。
すぐにそういう結論に至った。
なぜならサフィラスが自分の事を真剣に考えて、そばにいてくれるなら、それから逃げようと思うなど、今のニゲルには考えられなかったからだ。
ニゲルには頼れる人がいない。
お母さんが居なくなってからこの1年間、誰もニゲル達に手を差し伸べてくれる大人はいなかった。
叱ってくれる人も、真剣に心配してくれる人も。
自分はアーラとマリウスに頼られてはいたが、ニゲルが頼りにできる人は、いま、ここにいるサフィラス、ただその人だけだった。
だから、これから自分の目の前に広がる道を進んでいくために、この世界に出ていき大人になるには、何をしたらいいのか、それをサフィラスから教えてもらいたい、そう思わずにはいられなかった。
「あぁ。厳しい人だったよ。とてもね」
サフィラスの口ぶりから、もうその人は居ないのかなと感じた。
「…もういないの?その人怖かった?」
「そうだな……、今思い出しても…、すごく怖かった」
サフィラスはニゲルを見ると、びっくりするようなことを言った。
「私は途中、死にかけた事もある。長い間、一緒に試練を積んでね、ニゲルが見たあれよりももっとすごい技を次々覚えなくてはいけなくて、このまま果てて死ぬのではないかという思いをしたことは一度や二度ではないよ」
「なんでそんな厳しい先生とずっと一緒にいられたの?僕なら逃げるかも……」
「ニゲルは厳しくされたり、叱られたら、投げ出してやめてしまうの?」
「…うーん。理由によるかも…」
考えてみる。
お母さんには何度も厳しく叱られたことがある。
弟と喧嘩して叩いたりした時、食べ物を奪い合って、アーラを泣かせた時。
あとは、内緒で畑からリンゴをもいで帰ってきた時だ。
けれど、怒られてから逃げはしなかった。きちんと謝った。
とくにお母さんは、マリウスと蹴り合いの喧嘩をした時、ものすごく怒った。晩ご飯抜きで反省しなさいと言われたほどだ。
「僕の事を考えて叱ってくれるなら、多分、逃げないかな…」
サフィラスは微笑んで頷いた。
「そうだな。私も同じだった」
「その人はサフィラスの事を考えて叱ってくれたの?」
「そうだよ。先生とは、そういうものだと教えてもらった。私の導師はとくに素晴らしい人だったよ。優しく、強く、苦しい時はいつも私に寄り添ってくれた。本当の親の様に。…そして、人として道を間違った方に踏み外さないよう、見守ってくれた」
「その人、きっとサフィラスの事が好きなんだね」
ニゲルの呟きに、サフィラスは微笑んだ。
「私はまだ半人前だ…今もきっと見守ってくれているのだろう……遠い国のどこかで」
そして、何かを懐かしむように、鳥達が羽ばたいていく山の向こう、空の彼方を見て、目を潤ませた。
先生とサフィラスの間には特別な絆があるのだと感じたニゲルは、自分もサフィラスと、特別な絆でつながりたいと思った。そしてそれがあれば、48日後もきっと寂しくないような気がした。
「じゃあ、サフィラスはその人みたいに僕の事を導いてくれるの?…どこに?」
「それは、わからない。進む場所を決めるのは自分だけだからだよ」
「自分で決めるの?」
サフィラスは強く頷いた。
「そうだよ、ニゲル。これからは、自分で自分の目標や、頑張ってみたい事を一人で決めるんだ。もう、帰ってこれないお母さんから一人立ちしよう」
「…ひとりだち…」
「そう。私の弟子になるなら、人任せにして誰かをあてにしたり、何となくやったりするんじゃなくて、自分でやるべき事を考えて決めていくんだ。それがニゲルをきっと強くしてくれる。私は厳しい事を言うかもしれないよ?優しくないかもしれない。さあ、どうする?本当に私に先生になって欲しいかな?」
ニゲルは一生懸命考えてみた。
もしサフィラスに叱られたら。
酷く怒られて、嫌になったら。
けれど、途中で投げ出したりしないのではないか。
すぐにそういう結論に至った。
なぜならサフィラスが自分の事を真剣に考えて、そばにいてくれるなら、それから逃げようと思うなど、今のニゲルには考えられなかったからだ。
ニゲルには頼れる人がいない。
お母さんが居なくなってからこの1年間、誰もニゲル達に手を差し伸べてくれる大人はいなかった。
叱ってくれる人も、真剣に心配してくれる人も。
自分はアーラとマリウスに頼られてはいたが、ニゲルが頼りにできる人は、いま、ここにいるサフィラス、ただその人だけだった。
だから、これから自分の目の前に広がる道を進んでいくために、この世界に出ていき大人になるには、何をしたらいいのか、それをサフィラスから教えてもらいたい、そう思わずにはいられなかった。
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