11 / 93
1章 出会い
導師
しおりを挟む
「厳しい先生?」
「あぁ。厳しい人だったよ。とてもね」
サフィラスの口ぶりから、もうその人は居ないのかなと感じた。
「…もういないの?その人怖かった?」
「そうだな……、今思い出しても…、すごく怖かった」
サフィラスはニゲルを見ると、びっくりするようなことを言った。
「私は途中、死にかけた事もある。長い間、一緒に試練を積んでね、ニゲルが見たあれよりももっとすごい技を次々覚えなくてはいけなくて、このまま果てて死ぬのではないかという思いをしたことは一度や二度ではないよ」
「なんでそんな厳しい先生とずっと一緒にいられたの?僕なら逃げるかも……」
「ニゲルは厳しくされたり、叱られたら、投げ出してやめてしまうの?」
「…うーん。理由によるかも…」
考えてみる。
お母さんには何度も厳しく叱られたことがある。
弟と喧嘩して叩いたりした時、食べ物を奪い合って、アーラを泣かせた時。
あとは、内緒で畑からリンゴをもいで帰ってきた時だ。
けれど、怒られてから逃げはしなかった。きちんと謝った。
とくにお母さんは、マリウスと蹴り合いの喧嘩をした時、ものすごく怒った。晩ご飯抜きで反省しなさいと言われたほどだ。
「僕の事を考えて叱ってくれるなら、多分、逃げないかな…」
サフィラスは微笑んで頷いた。
「そうだな。私も同じだった」
「その人はサフィラスの事を考えて叱ってくれたの?」
「そうだよ。先生とは、そういうものだと教えてもらった。私の導師はとくに素晴らしい人だったよ。優しく、強く、苦しい時はいつも私に寄り添ってくれた。本当の親の様に。…そして、人として道を間違った方に踏み外さないよう、見守ってくれた」
「その人、きっとサフィラスの事が好きなんだね」
ニゲルの呟きに、サフィラスは微笑んだ。
「私はまだ半人前だ…今もきっと見守ってくれているのだろう……遠い国のどこかで」
そして、何かを懐かしむように、鳥達が羽ばたいていく山の向こう、空の彼方を見て、目を潤ませた。
先生とサフィラスの間には特別な絆があるのだと感じたニゲルは、自分もサフィラスと、特別な絆でつながりたいと思った。そしてそれがあれば、48日後もきっと寂しくないような気がした。
「じゃあ、サフィラスはその人みたいに僕の事を導いてくれるの?…どこに?」
「それは、わからない。進む場所を決めるのは自分だけだからだよ」
「自分で決めるの?」
サフィラスは強く頷いた。
「そうだよ、ニゲル。これからは、自分で自分の目標や、頑張ってみたい事を一人で決めるんだ。もう、帰ってこれないお母さんから一人立ちしよう」
「…ひとりだち…」
「そう。私の弟子になるなら、人任せにして誰かをあてにしたり、何となくやったりするんじゃなくて、自分でやるべき事を考えて決めていくんだ。それがニゲルをきっと強くしてくれる。私は厳しい事を言うかもしれないよ?優しくないかもしれない。さあ、どうする?本当に私に先生になって欲しいかな?」
ニゲルは一生懸命考えてみた。
もしサフィラスに叱られたら。
酷く怒られて、嫌になったら。
けれど、途中で投げ出したりしないのではないか。
すぐにそういう結論に至った。
なぜならサフィラスが自分の事を真剣に考えて、そばにいてくれるなら、それから逃げようと思うなど、今のニゲルには考えられなかったからだ。
ニゲルには頼れる人がいない。
お母さんが居なくなってからこの1年間、誰もニゲル達に手を差し伸べてくれる大人はいなかった。
叱ってくれる人も、真剣に心配してくれる人も。
自分はアーラとマリウスに頼られてはいたが、ニゲルが頼りにできる人は、いま、ここにいるサフィラス、ただその人だけだった。
だから、これから自分の目の前に広がる道を進んでいくために、この世界に出ていき大人になるには、何をしたらいいのか、それをサフィラスから教えてもらいたい、そう思わずにはいられなかった。
「あぁ。厳しい人だったよ。とてもね」
サフィラスの口ぶりから、もうその人は居ないのかなと感じた。
「…もういないの?その人怖かった?」
「そうだな……、今思い出しても…、すごく怖かった」
サフィラスはニゲルを見ると、びっくりするようなことを言った。
「私は途中、死にかけた事もある。長い間、一緒に試練を積んでね、ニゲルが見たあれよりももっとすごい技を次々覚えなくてはいけなくて、このまま果てて死ぬのではないかという思いをしたことは一度や二度ではないよ」
「なんでそんな厳しい先生とずっと一緒にいられたの?僕なら逃げるかも……」
「ニゲルは厳しくされたり、叱られたら、投げ出してやめてしまうの?」
「…うーん。理由によるかも…」
考えてみる。
お母さんには何度も厳しく叱られたことがある。
弟と喧嘩して叩いたりした時、食べ物を奪い合って、アーラを泣かせた時。
あとは、内緒で畑からリンゴをもいで帰ってきた時だ。
けれど、怒られてから逃げはしなかった。きちんと謝った。
とくにお母さんは、マリウスと蹴り合いの喧嘩をした時、ものすごく怒った。晩ご飯抜きで反省しなさいと言われたほどだ。
「僕の事を考えて叱ってくれるなら、多分、逃げないかな…」
サフィラスは微笑んで頷いた。
「そうだな。私も同じだった」
「その人はサフィラスの事を考えて叱ってくれたの?」
「そうだよ。先生とは、そういうものだと教えてもらった。私の導師はとくに素晴らしい人だったよ。優しく、強く、苦しい時はいつも私に寄り添ってくれた。本当の親の様に。…そして、人として道を間違った方に踏み外さないよう、見守ってくれた」
「その人、きっとサフィラスの事が好きなんだね」
ニゲルの呟きに、サフィラスは微笑んだ。
「私はまだ半人前だ…今もきっと見守ってくれているのだろう……遠い国のどこかで」
そして、何かを懐かしむように、鳥達が羽ばたいていく山の向こう、空の彼方を見て、目を潤ませた。
先生とサフィラスの間には特別な絆があるのだと感じたニゲルは、自分もサフィラスと、特別な絆でつながりたいと思った。そしてそれがあれば、48日後もきっと寂しくないような気がした。
「じゃあ、サフィラスはその人みたいに僕の事を導いてくれるの?…どこに?」
「それは、わからない。進む場所を決めるのは自分だけだからだよ」
「自分で決めるの?」
サフィラスは強く頷いた。
「そうだよ、ニゲル。これからは、自分で自分の目標や、頑張ってみたい事を一人で決めるんだ。もう、帰ってこれないお母さんから一人立ちしよう」
「…ひとりだち…」
「そう。私の弟子になるなら、人任せにして誰かをあてにしたり、何となくやったりするんじゃなくて、自分でやるべき事を考えて決めていくんだ。それがニゲルをきっと強くしてくれる。私は厳しい事を言うかもしれないよ?優しくないかもしれない。さあ、どうする?本当に私に先生になって欲しいかな?」
ニゲルは一生懸命考えてみた。
もしサフィラスに叱られたら。
酷く怒られて、嫌になったら。
けれど、途中で投げ出したりしないのではないか。
すぐにそういう結論に至った。
なぜならサフィラスが自分の事を真剣に考えて、そばにいてくれるなら、それから逃げようと思うなど、今のニゲルには考えられなかったからだ。
ニゲルには頼れる人がいない。
お母さんが居なくなってからこの1年間、誰もニゲル達に手を差し伸べてくれる大人はいなかった。
叱ってくれる人も、真剣に心配してくれる人も。
自分はアーラとマリウスに頼られてはいたが、ニゲルが頼りにできる人は、いま、ここにいるサフィラス、ただその人だけだった。
だから、これから自分の目の前に広がる道を進んでいくために、この世界に出ていき大人になるには、何をしたらいいのか、それをサフィラスから教えてもらいたい、そう思わずにはいられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
こわがり先生とまっくら森の大運動会
蓮澄
絵本
こわいは、おもしろい。
こわい噂のたくさんあるまっくら森には誰も近づきません。
入ったら大人も子供も、みんな出てこられないからです。
そんなまっくら森のある町に、一人の新しい先生がやってきました。
その先生は、とっても怖がりだったのです。
絵本で見たいお話を書いてみました。私には絵はかけないので文字だけで失礼いたします。
楽しんでいただければ嬉しいです。
まんじゅうは怖いかもしれない。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる