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1章 出会い
導師の弟子
しおりを挟む「…それでも、僕はサフィラスの弟子になりたい。どうか僕の先生になって」
ニゲルは強くなりたかった。
アーラやマリウスを守りたい。そして、自分の目標を持ってみたい。知らない事を知って、洞穴から出て、この世界に飛び出してみたい。
「じゃあ、私はニゲルが求める事をできるだけ、教えてあげよう。ただし、魔法に関しては、約束を守ってもらうよ」
サフィラスは約束の証にと、丸めて紐で結んである、一枚の古びて破れかけている紙を、懐から取り出した。
紐を解き、クルクルと巻いてあった手のひら大の紙を広げる。
「これは読めるかな?」
差し出された紙を見ると、なにやらミミズが干からびて縮んだ時のような、ちょっとガタガタした文字が並んでいる。
下の方には、その文字が一部消えたような跡もある。
「…読めない字だ…」
「そうか。なら私が読もう。ここには魔法を学びたい者が魔導師と交わす約束が書いてあるんだ。いいかい?……1つ、むやみに見せない。2つ、誰にも教えない、3つ、安易に使わない。」
「え…もしかして、アレは、人に見せたりしたらだめなの…?」
ニゲルの期待は風船の空気が抜けるごとく、一気にしぼんだ。
だいたい誰にも見せられないものを覚えて、いつ使うのか。一生日の目を見ない技になるではないか。
あの宙に浮く矢はすごくかっこよかったのに。
使えるようになっても、誰にも自慢できないなんて。
残念な気持ちに眉が下がる。
「がっかりしたかい?」
「…うん…」
「使えるようになったら、妹や驚く弟に自慢したかった?」
「…まあ、そうだね…だって、サフィラスは僕に見せてくれたじゃない!」
「はは。たしかに。でも私は、見せてとせがまれて誰かに見せたりはしない。魔法は、本当に使うべき時、あとはどうしても使わなければならない時以外はむやみに見せたりはしない。ニゲルだけ、特別だ」
特別。
そう言われた途端、ムズムズするような嬉しさが込み上げた。
ただ1人、自分にだけ特別に見せてくれたのか。
その事実に思わずほおが緩む。
「なんで僕だけ特別に見せてくれたの?」
「それは、今は秘密だ。でも、48日後に教えてあげる」
「そっか…わかったよ…。内緒にしとく!誰にも教えない、言わない。けど、安易に使わないって、どういう意味なの?」
サフィラスは、ニゲルの目を見てしっかりとうなずいた。
「そう、安易に使ったら絶対ダメだ。安易って、つまり、深く考えずに、パッと使っちゃうってこと」
「いちいち考えて使うの?」
「その通り」
「…なんで!?面倒だよ!使えるものはパッと使った方がいいに決まってる!」
サフィラスは首を横に振った。
「それはダメだ」
「なんでよ…」
酷く真剣なかおで見つめ、ニゲルの両腕を握りしめた。
「ニゲル。これはとても大事な事だ。ニゲルは、もしかしたら人を殺せるだろう技をパッと使うのかい?」
「使わないよ!」
「じゃあ、ニゲルを何度も何度もいじめてくる人や、弟達を危険にさらす人が現れたとき、その技を使えたら?」
「…わからない…つかう、かも…」
「そういう困った時や、危険にさらされた時、それ以外のどんな時でも、それを本当につかうべきかどうか、考えなければいけない…それは、力を持つ者の責任なんだ」
「そうなんだ…」
なんだか難しくてよく分からない。
「ニゲルにはまだ難しいかもしれないけど、人は大きな力を持つと、変わってしまう。欲深くなるんだ。自分に都合よく相手を支配しようとしたり、その力で気に入らない相手を痛めつけたりする。そして、もっと、もっとと、手に入る物をどんどん自分のものにしてしまおうと思うようになるんだ」
「僕はしない!」
「そうか、それは安心だ。だけどちょっと考えてごらん?もしニゲルが、それこそ立派な騎士や王様、友達の誰にも負けない強い力を得たら、その力をあちらこちらで気持ちよくふるってみたくなりはしないかい?誰も自分に敵う人がいないんだから。そうして、ちやほやされたり、すごいって褒められて大事にされたりして、好きな様に生きてみたいと。それに、悪い人を倒して!って可愛い女の子なんかに頼まれるかもね。どうかな?」
「たしかに!それはやってみたいかも!そしたら、僕たちは貧乏じゃなくなるじゃない!御礼に沢山お金も貰えるかも!英雄にもなれる!」
そうだ、サフィラスの言う通り、たしかにそうする事もいつかできるかもしれないと思った。だって、不思議な技が使えたら、きっとどこに行っても引っ張りだこだ。
「…あぁ、魅力的だね。お金持ちになれるかも。英雄にもね。…どうする?それだと、私はニゲルに教えられないよ、魔法はね」
「え…」
最後の一言に、ニゲルは大きな衝撃を受けた。
破れそうなその黄ばんだ紙に書かれている文字を凝視する。
(な、なんで…)
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