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3 彼女
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「それに、さっきの女性と連絡先を交換したんだ」
「……へ~、良かったね。蓮さんの好きそうな感じだったもんね」
「俺の好きそうなってどんなだよ」
「穏やかで、幸せそうな笑顔の人。今までの人もずっとそんな感じだったし」
「そうか~? 桜介はよく見てるなぁ」
「まあね。俺は蓮さんのこと大好きだから」
「またお前そんなこと言って」
呆れたような口調の蓮に桜介は、殊更冗談のように笑った。
蓮とその女性が付き合い出したのはそれから3ヶ月後の少し肌寒くなって来た頃だった。
いつもの弁当の時間に交際の報告をされた桜介は、もう慣れた笑顔を顔に貼り付けた。
クリスマスも1ヶ月後に控え、桜介はまた今年も1人で過ごすクリスマスが確定し、うんざりとした気持ちでこっそりため息を漏らす。
「今回こそはうまく行くよう願っておいてくれ。俺もいい年だしな」
桜介の作った弁当をもぐもぐと食べる蓮の様子を見ても、今日は嬉しさが湧き上がらない。
「俺もいい年って……。結婚するつもりなの?」
「そうできりゃいいなと思ってる」
「……そっか。じゃあ、蓮さんが幸せになれるように祈っておくよ」
「おう、頼むな」
ーーそんなこと、俺が祈れるわけないのに。
8年間の片思いの間、桜介はずっと蓮の近くにいた。
だが、結婚を意識していることを言われたのは初めてだった。
「あと美咲が弁当作ってくれるって言うからよ、明日からは……」
「分かった! 良かったね、蓮さん」
弁当を断る言葉を言い淀む蓮に、桜介の方から了承を伝えると、蓮はあからさまにホッとしたように息を吐いた。
「おう、だが飲みには行こうな?」
「うん! 楽しみにしてる!」
その日は弁当箱をそのまま返してもらって家路に着いた。
桜介の唯一の蓮との接点を失い、桜介は蓮に関することで初めて涙を流した。
今までの飲みは、蓮が弁当に対するお礼として連れて行ってくれていたものだった。
これからは何でもない時に誘ってくれるのだろうか。だが、その回数だってかなり減るのだろう。そして、だんだんと桜介との接点は薄くなり、最後には無くなってしまうのかもしれない。
8年間の片思いを諦める時が来たのだろう。
桜介は、蓮が女性と結婚して子供に恵まれて幸せに過ごす姿を横でずっと見ていることなど想像するだけで耐えられなかった。
それから桜介は蓮からの連絡を、なんだかんだ理由をつけて断った。
スマホさえあればできるこの仕事はこんな時にも便利だった。
1駅だけ離れた場所を活動拠点にすれば桜介と蓮は何の関わりも生まれない。
8年もの間、必死でつなげて来た小さな繋がりを、桜介は自らの手でたち切った。
配達の依頼で頭の中を一杯にして働いていた桜介は、クリスマスイブがもう明日に迫っていることに気がつかなかった。街は1ヶ月以上前からクリスマスモードで、あちこちに電球があるし、服のセールの名前もクリスマスが使われている。日本では恋人たちの為にあるようなイベントから意識を背ければクリスマスでも、それ以外の日でも何の違いもない。
桜介のような恋人のいない人間からすれば、ただ、クリスマスイブや、クリスマス当日の夜にはケーキが安く売られるだけの日と成り下がる。
今日、23日は桜介にとってそんなケーキの安売りの日の前日なだけだったが、駅前のライオンの像の前に暗い顔で座り込んだ蓮を発見して一気に心臓が跳ね上がった。
「……へ~、良かったね。蓮さんの好きそうな感じだったもんね」
「俺の好きそうなってどんなだよ」
「穏やかで、幸せそうな笑顔の人。今までの人もずっとそんな感じだったし」
「そうか~? 桜介はよく見てるなぁ」
「まあね。俺は蓮さんのこと大好きだから」
「またお前そんなこと言って」
呆れたような口調の蓮に桜介は、殊更冗談のように笑った。
蓮とその女性が付き合い出したのはそれから3ヶ月後の少し肌寒くなって来た頃だった。
いつもの弁当の時間に交際の報告をされた桜介は、もう慣れた笑顔を顔に貼り付けた。
クリスマスも1ヶ月後に控え、桜介はまた今年も1人で過ごすクリスマスが確定し、うんざりとした気持ちでこっそりため息を漏らす。
「今回こそはうまく行くよう願っておいてくれ。俺もいい年だしな」
桜介の作った弁当をもぐもぐと食べる蓮の様子を見ても、今日は嬉しさが湧き上がらない。
「俺もいい年って……。結婚するつもりなの?」
「そうできりゃいいなと思ってる」
「……そっか。じゃあ、蓮さんが幸せになれるように祈っておくよ」
「おう、頼むな」
ーーそんなこと、俺が祈れるわけないのに。
8年間の片思いの間、桜介はずっと蓮の近くにいた。
だが、結婚を意識していることを言われたのは初めてだった。
「あと美咲が弁当作ってくれるって言うからよ、明日からは……」
「分かった! 良かったね、蓮さん」
弁当を断る言葉を言い淀む蓮に、桜介の方から了承を伝えると、蓮はあからさまにホッとしたように息を吐いた。
「おう、だが飲みには行こうな?」
「うん! 楽しみにしてる!」
その日は弁当箱をそのまま返してもらって家路に着いた。
桜介の唯一の蓮との接点を失い、桜介は蓮に関することで初めて涙を流した。
今までの飲みは、蓮が弁当に対するお礼として連れて行ってくれていたものだった。
これからは何でもない時に誘ってくれるのだろうか。だが、その回数だってかなり減るのだろう。そして、だんだんと桜介との接点は薄くなり、最後には無くなってしまうのかもしれない。
8年間の片思いを諦める時が来たのだろう。
桜介は、蓮が女性と結婚して子供に恵まれて幸せに過ごす姿を横でずっと見ていることなど想像するだけで耐えられなかった。
それから桜介は蓮からの連絡を、なんだかんだ理由をつけて断った。
スマホさえあればできるこの仕事はこんな時にも便利だった。
1駅だけ離れた場所を活動拠点にすれば桜介と蓮は何の関わりも生まれない。
8年もの間、必死でつなげて来た小さな繋がりを、桜介は自らの手でたち切った。
配達の依頼で頭の中を一杯にして働いていた桜介は、クリスマスイブがもう明日に迫っていることに気がつかなかった。街は1ヶ月以上前からクリスマスモードで、あちこちに電球があるし、服のセールの名前もクリスマスが使われている。日本では恋人たちの為にあるようなイベントから意識を背ければクリスマスでも、それ以外の日でも何の違いもない。
桜介のような恋人のいない人間からすれば、ただ、クリスマスイブや、クリスマス当日の夜にはケーキが安く売られるだけの日と成り下がる。
今日、23日は桜介にとってそんなケーキの安売りの日の前日なだけだったが、駅前のライオンの像の前に暗い顔で座り込んだ蓮を発見して一気に心臓が跳ね上がった。
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