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4 告白
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ーー何で? いつもは隣の駅を巡回してるのに
だが、桜介は蓮が私服でいることに気がついて、そっとため息をついた。
ーー何だ。デートの待ち合わせか
クリスマスなどのイベントごとは警備に駆り出されやすい職種の蓮は、デートは前日や後日になるのだろう。
桜介はその辺りの事情を、あまり詳しく聞いたことがなかったが、何となく想像は着いた。
ーー朝から蓮さんとデートなんて、羨ましすぎるよな
だが、桜介が蓮を発見してからもう1時間も経つのに相手の女性は現れなかった。
その間、桜介は何件か配達を完了させ駅のファストフード店の前に戻ってくることを繰り返している。桜介が見ている間に、蓮は何回か女性から逆ナンをされていたが、そのどれもを暗い顔で曖昧に笑い断っていた。
一人気の強そうな女性が蓮の腕を引いて無理やり立たせて連れて行こうとした時点で、桜介は我慢できなくなり、走り寄った。
「お待たせ! 蓮さん」
蓮に声をかけながら、女性を牽制するように2人の間に体を滑り込ませた桜介に、女性はわざとらしく小さな悲鳴をあげた。だが、蓮が桜介にしなだれかかり抱きついたことで、女性はドン引きの目で桜介たちを一瞥して捨て台詞を吐きながら去って行った。
「ちょっと、蓮さん、大丈夫?」
「桜介~、何で最近飲みに誘っても断るんだよ~」
桜介は蓮のその言葉にドキと胸を弾ませ、期待しそうになる心を無理やり押さえ込んだ。
「ごめん、ちょっと欲しいものがあってさ。配達に専念してたんだ」
「そうか……。じゃあ、今日は飲みに行ってくれるか?」
「飲みって、まだ朝じゃん。それに今日はデートなんだろ?」
「デート……のはずだったんだけどな。俺、また振られちまった」
ーーじゃあ、俺と付き合っちゃえばいいじゃんっ
いつもの軽口を、桜介はなぜか口にできなかった。
桜介は怒りと悔しさでいっぱいになっていた。
桜介がどんなに好きだと言っても手に入らない蓮の心を、いとも簡単に手に入れた挙げ句、蓮を捨てて傷つけていく、蓮の元カノたちが許せない。
どんなに好きだと伝えても、冗談としてしか受け取ってもらえない自分が悔しい。
「……じゃあ、さ。コンビニで酒でも買って寒いけど海の方に行って飲もうよ」
「いいなそれ。防寒具も買わなきゃだな」
ようやく笑った蓮に、桜介はホッとした。
天から降って来たかのように手に入った蓮とのデートに、桜介は舞い上がった。
ーー今度こそ、冗談だと受け取られないように真剣に伝えよう。
望みはないと諦めてはいても、その一方で、もしかしたらなどと期待する自分に気がつき桜介は自嘲するように笑った。
電車に揺られ、1時間。
着いた駅から少し歩いたところにあるショッピングモールで防寒具を買い、ついでにそこのスーパーで酒とつまみを買ってから海に向かって歩く。
この寒空の中、海に向かう馬鹿な人間は2人の他には見当たらず海は閑散としていた。
冷たい風が吹く中、砂浜から堤防の上に上り座ると、景色だけは綺麗だ。
買ったダウンや毛布にくるまった蓮に、桜介は酒を開け手渡した。
「乾杯っ」
「何にだよ」
「蓮さんの新しい門出に」
「はは。そりゃいいな乾杯」
桜介は買って来たつまみの中から、揚げ銀杏を取り出して開封し一粒口に放り込む。
「んー。やっぱ、これはなんか違うな」
「お前、宅飲みの時いつもそれ言ってるな、買わなきゃいいのに」
「でも、飲んでたら銀杏食べたくなるんだから仕方ないし」
「ははっ…………あー、寒ぃけど、昼間っから飲むのは気持ちいなぁ」
「ここ、夏でもあんま人居ないからおすすめだよ。それにそこの球場からたまに花火が上がるんだ。今度……、彼女できたらここにデートに来たら?」
「そうだなぁ」
穏やかに波を見ながら微笑む蓮に、桜介は意を決した。
「でも、さ。でも、俺、前から言ってる蓮さんのことが好きっていうの、あれ本当だからさ。本当は俺とデートして欲しいんだ」
蓮の顔は見れなかったが桜介は何とか言い切った。
目を逸らした先では、カモメが風に向かって飛んでおり、空の上でピタリと止まっているかのように見える。
ーーあれって遊んでるのかな
ついにはカモメを見ながら現実逃避し始めた自分の心に気がついて桜介は、慌てて蓮の様子を盗み見た。
驚いた様子で、気まずげに桜介を見つめる蓮の様子に、返事は大体予想できた。
「あ~、俺は」
「あ! えっと、分かってる。ごめん! でも、お願い、最後に1回だけ俺とデートしてよ。そうしてくれたらきれいさっぱり諦めるからさ!」
「あ~、分かった。その……悪いな」
ーー俺が誰より蓮さんを好きなのに……失恋して、弱ってる蓮さんの心にだって漬け込ませてもらえない
その後に飲んだ酒は桜介には全て苦く感じた。
けれど飲まずにはいられず桜介は無心で喉の奥に流し込んだ。
「じゃあさ、都合がつく日が分かったら連絡して!」
「おう、風邪ひくなよ」
駅で別れれば自分の部屋に帰るだけ。
桜介はそのまま帰る気分になれず、居酒屋TENTに向かった。
だが、桜介は蓮が私服でいることに気がついて、そっとため息をついた。
ーー何だ。デートの待ち合わせか
クリスマスなどのイベントごとは警備に駆り出されやすい職種の蓮は、デートは前日や後日になるのだろう。
桜介はその辺りの事情を、あまり詳しく聞いたことがなかったが、何となく想像は着いた。
ーー朝から蓮さんとデートなんて、羨ましすぎるよな
だが、桜介が蓮を発見してからもう1時間も経つのに相手の女性は現れなかった。
その間、桜介は何件か配達を完了させ駅のファストフード店の前に戻ってくることを繰り返している。桜介が見ている間に、蓮は何回か女性から逆ナンをされていたが、そのどれもを暗い顔で曖昧に笑い断っていた。
一人気の強そうな女性が蓮の腕を引いて無理やり立たせて連れて行こうとした時点で、桜介は我慢できなくなり、走り寄った。
「お待たせ! 蓮さん」
蓮に声をかけながら、女性を牽制するように2人の間に体を滑り込ませた桜介に、女性はわざとらしく小さな悲鳴をあげた。だが、蓮が桜介にしなだれかかり抱きついたことで、女性はドン引きの目で桜介たちを一瞥して捨て台詞を吐きながら去って行った。
「ちょっと、蓮さん、大丈夫?」
「桜介~、何で最近飲みに誘っても断るんだよ~」
桜介は蓮のその言葉にドキと胸を弾ませ、期待しそうになる心を無理やり押さえ込んだ。
「ごめん、ちょっと欲しいものがあってさ。配達に専念してたんだ」
「そうか……。じゃあ、今日は飲みに行ってくれるか?」
「飲みって、まだ朝じゃん。それに今日はデートなんだろ?」
「デート……のはずだったんだけどな。俺、また振られちまった」
ーーじゃあ、俺と付き合っちゃえばいいじゃんっ
いつもの軽口を、桜介はなぜか口にできなかった。
桜介は怒りと悔しさでいっぱいになっていた。
桜介がどんなに好きだと言っても手に入らない蓮の心を、いとも簡単に手に入れた挙げ句、蓮を捨てて傷つけていく、蓮の元カノたちが許せない。
どんなに好きだと伝えても、冗談としてしか受け取ってもらえない自分が悔しい。
「……じゃあ、さ。コンビニで酒でも買って寒いけど海の方に行って飲もうよ」
「いいなそれ。防寒具も買わなきゃだな」
ようやく笑った蓮に、桜介はホッとした。
天から降って来たかのように手に入った蓮とのデートに、桜介は舞い上がった。
ーー今度こそ、冗談だと受け取られないように真剣に伝えよう。
望みはないと諦めてはいても、その一方で、もしかしたらなどと期待する自分に気がつき桜介は自嘲するように笑った。
電車に揺られ、1時間。
着いた駅から少し歩いたところにあるショッピングモールで防寒具を買い、ついでにそこのスーパーで酒とつまみを買ってから海に向かって歩く。
この寒空の中、海に向かう馬鹿な人間は2人の他には見当たらず海は閑散としていた。
冷たい風が吹く中、砂浜から堤防の上に上り座ると、景色だけは綺麗だ。
買ったダウンや毛布にくるまった蓮に、桜介は酒を開け手渡した。
「乾杯っ」
「何にだよ」
「蓮さんの新しい門出に」
「はは。そりゃいいな乾杯」
桜介は買って来たつまみの中から、揚げ銀杏を取り出して開封し一粒口に放り込む。
「んー。やっぱ、これはなんか違うな」
「お前、宅飲みの時いつもそれ言ってるな、買わなきゃいいのに」
「でも、飲んでたら銀杏食べたくなるんだから仕方ないし」
「ははっ…………あー、寒ぃけど、昼間っから飲むのは気持ちいなぁ」
「ここ、夏でもあんま人居ないからおすすめだよ。それにそこの球場からたまに花火が上がるんだ。今度……、彼女できたらここにデートに来たら?」
「そうだなぁ」
穏やかに波を見ながら微笑む蓮に、桜介は意を決した。
「でも、さ。でも、俺、前から言ってる蓮さんのことが好きっていうの、あれ本当だからさ。本当は俺とデートして欲しいんだ」
蓮の顔は見れなかったが桜介は何とか言い切った。
目を逸らした先では、カモメが風に向かって飛んでおり、空の上でピタリと止まっているかのように見える。
ーーあれって遊んでるのかな
ついにはカモメを見ながら現実逃避し始めた自分の心に気がついて桜介は、慌てて蓮の様子を盗み見た。
驚いた様子で、気まずげに桜介を見つめる蓮の様子に、返事は大体予想できた。
「あ~、俺は」
「あ! えっと、分かってる。ごめん! でも、お願い、最後に1回だけ俺とデートしてよ。そうしてくれたらきれいさっぱり諦めるからさ!」
「あ~、分かった。その……悪いな」
ーー俺が誰より蓮さんを好きなのに……失恋して、弱ってる蓮さんの心にだって漬け込ませてもらえない
その後に飲んだ酒は桜介には全て苦く感じた。
けれど飲まずにはいられず桜介は無心で喉の奥に流し込んだ。
「じゃあさ、都合がつく日が分かったら連絡して!」
「おう、風邪ひくなよ」
駅で別れれば自分の部屋に帰るだけ。
桜介はそのまま帰る気分になれず、居酒屋TENTに向かった。
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