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俺の罪
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「とんでもない事件……?」
「そう。そしてその事件のせいで恭一は女性と付き合えなくなった」
「付き合えなくなった?」
「恭一は、自分で気がついていないかもしれないけど、女性恐怖症なのよ」
「そんな。だって、署にいる女性とも話してるし聞き込みでも普通に」
「そう。恭一の場合は普通に話すことはできるの。だけど、自分が男として見られると嫌悪感を抱く」
「な、何をしたんですか。その春子さんは」
「口に出すのもおぞましい事件よ。だけどあえて言うなら非道で下劣な強姦ね」
「非道で下劣な強姦……?」
仙石さんは春香さんに強姦された……?
はぁ、はぁ、と息が荒くなっていく。
だってそれは俺がやったことも春香さんとまるっきり同じだ。
「はぁ、はぁ、あ、せんごくさ、はぁ、すみませ、ごめんなさ、はぁ」
「ど、どうしたの? 西くん! ごめんね! こんな話突然したからビックリしたよね。落ち着いて、えっと、この袋使って!」
そしてお姉さんが俺の口にビニール袋を当ててくれて何とか過呼吸は治ってきた。
「はぁ、すみませんでした」
「こちらこそごめんね。とにかくね、こう言う時に支えてくれる奥さんて大事だと思うわって話だったのに、こんな重い話突然本当にごめんね」
「いえ、仙石さんは昔の話とかあまりしてくれないから、聞けてよかったです」
そして俺は病室からでた。
気づけば仕事に戻らなければならない10分はとうに過ぎていた。
急いで署に戻ってとりあえず他の奴らが聞き込みから帰ってくるまでの間に溜まっていた書類を片付けようと椅子に座ったら、同期の一人が疲れた顔をしながらも、少し嬉しそうに部屋に入ってきた。
「おー、西! はよ~」
「おはよう、田町。なんかいいことでもあったのか?」
「聞いて驚け! お前を1年とちょっと前に刺した犯人が捕まった!」
「まじか! ありがとな。やっぱり仙石さんが逮捕した奴の逆恨みだったのか?」
「それがさぁ、違ったんだよ。いや、逆恨みってとこは合ってんだけど、犯人は仙石さんの元奥さんの弟だった」
「え!」
「なぁ、驚くよなぁ。元奥さんだぜ? 奥さんは亡くなってるらしいんだけどさぁ。ってことは前に見た仙石さんと一緒にいた美人は奥さんじゃなかったんだぜ?」
「そこかよ!」
仙石さんが俺に罪滅ぼしで付き合ってくれてるんだとしたら、俺が仙石さんを庇って刺されたからだけだと思ってた。
だけど、あの時仙石さんは誰が自分を刺そうとしたのか、分かってたんじゃないのか?
だって結婚してた奴の弟の声で仙石さんの名前を叫んでいたんだから。
仙石さんの罪滅ぼしはそこにあったんだ。
仙石さんに責任なんてないのに。責任なんて感じる必要ないのに。
俺は仙石さんのせいで刺されたわけじゃい。悪いのは春子さんの弟なのに、何で仙石さんが責任取ろうとするんだよ。
プルルルル
携帯が鳴った。
「はい」
『あ、西くん!?』
「はい。お姉さんどうされたんですか?」
『恭一の目が覚めたの!!』
「ほ、本当に!? すぐ行きます!」
『だけど』
あ、お姉さん何か言いかけてた。
だけどすぐ行くしいいよな。
俺は急いで病院へ向かった。
「仙石さん!!」
病室に入ると仙石さんは上体を起こして座っていた。
その横でお姉さんがこちらを少し申し訳なさそうな顔で見た。
「あー、知り合いか?」
仙石さんが俺を見てそう言った。
知り合いか???
俺のことがわからないってこと……?
そんな……。
「この子は西くん。恭一の部下よ。恭一が目覚めるまで時間が少しでもあるとお見舞いに来てくれていたのよ」
お姉さんが俺を紹介してくれた。
「そうか。西、すまない。お前のことを覚えてないんだ」
仙石さんも申し訳なさそうにそう言った。
「西くん、ちょっといい?」
そう言ってお姉さんは俺を病室の外に連れ出した。
俺が呆然としながら言われるがままお姉さんの後をついていくと休憩室のような場所に着いた。
「恭一ね、春子と結婚する少し前くらいまでの記憶しかないみたいなの」
「そ、うなんですか」
「こうなってしまって、すごく悲しいけど、私は少しだけ安心してしまったわ」
「え」
「だって、今の恭一は女性恐怖症じゃないんだもの。普通に人を好きになって恋愛して結婚だって出来るかもしれないわ。もう過去に囚われなくてもいいかもしれないと思うと」
「……お姉さん」
「恭一はこんな大怪我したけれど、あの子の人生は今から再スタートするのかもしれないわ」
俺も、安心した。
仙石さんは春子さんにされたトラウマも、俺にされたことも何も覚えていない。
俺は確かに安心した。だけど、それと同時に罰が当たったんだとも思った。
好きな人に自分のことを忘れられるのは辛い。
春子さんがしたことと同じことを俺はしてしまった。
俺は、罪を償わないといけない。
だけど、それは今すぐにじゃない。
仙石さんが、幸せになるのを見届けて、それから自分への罰を決めよう。
「そう。そしてその事件のせいで恭一は女性と付き合えなくなった」
「付き合えなくなった?」
「恭一は、自分で気がついていないかもしれないけど、女性恐怖症なのよ」
「そんな。だって、署にいる女性とも話してるし聞き込みでも普通に」
「そう。恭一の場合は普通に話すことはできるの。だけど、自分が男として見られると嫌悪感を抱く」
「な、何をしたんですか。その春子さんは」
「口に出すのもおぞましい事件よ。だけどあえて言うなら非道で下劣な強姦ね」
「非道で下劣な強姦……?」
仙石さんは春香さんに強姦された……?
はぁ、はぁ、と息が荒くなっていく。
だってそれは俺がやったことも春香さんとまるっきり同じだ。
「はぁ、はぁ、あ、せんごくさ、はぁ、すみませ、ごめんなさ、はぁ」
「ど、どうしたの? 西くん! ごめんね! こんな話突然したからビックリしたよね。落ち着いて、えっと、この袋使って!」
そしてお姉さんが俺の口にビニール袋を当ててくれて何とか過呼吸は治ってきた。
「はぁ、すみませんでした」
「こちらこそごめんね。とにかくね、こう言う時に支えてくれる奥さんて大事だと思うわって話だったのに、こんな重い話突然本当にごめんね」
「いえ、仙石さんは昔の話とかあまりしてくれないから、聞けてよかったです」
そして俺は病室からでた。
気づけば仕事に戻らなければならない10分はとうに過ぎていた。
急いで署に戻ってとりあえず他の奴らが聞き込みから帰ってくるまでの間に溜まっていた書類を片付けようと椅子に座ったら、同期の一人が疲れた顔をしながらも、少し嬉しそうに部屋に入ってきた。
「おー、西! はよ~」
「おはよう、田町。なんかいいことでもあったのか?」
「聞いて驚け! お前を1年とちょっと前に刺した犯人が捕まった!」
「まじか! ありがとな。やっぱり仙石さんが逮捕した奴の逆恨みだったのか?」
「それがさぁ、違ったんだよ。いや、逆恨みってとこは合ってんだけど、犯人は仙石さんの元奥さんの弟だった」
「え!」
「なぁ、驚くよなぁ。元奥さんだぜ? 奥さんは亡くなってるらしいんだけどさぁ。ってことは前に見た仙石さんと一緒にいた美人は奥さんじゃなかったんだぜ?」
「そこかよ!」
仙石さんが俺に罪滅ぼしで付き合ってくれてるんだとしたら、俺が仙石さんを庇って刺されたからだけだと思ってた。
だけど、あの時仙石さんは誰が自分を刺そうとしたのか、分かってたんじゃないのか?
だって結婚してた奴の弟の声で仙石さんの名前を叫んでいたんだから。
仙石さんの罪滅ぼしはそこにあったんだ。
仙石さんに責任なんてないのに。責任なんて感じる必要ないのに。
俺は仙石さんのせいで刺されたわけじゃい。悪いのは春子さんの弟なのに、何で仙石さんが責任取ろうとするんだよ。
プルルルル
携帯が鳴った。
「はい」
『あ、西くん!?』
「はい。お姉さんどうされたんですか?」
『恭一の目が覚めたの!!』
「ほ、本当に!? すぐ行きます!」
『だけど』
あ、お姉さん何か言いかけてた。
だけどすぐ行くしいいよな。
俺は急いで病院へ向かった。
「仙石さん!!」
病室に入ると仙石さんは上体を起こして座っていた。
その横でお姉さんがこちらを少し申し訳なさそうな顔で見た。
「あー、知り合いか?」
仙石さんが俺を見てそう言った。
知り合いか???
俺のことがわからないってこと……?
そんな……。
「この子は西くん。恭一の部下よ。恭一が目覚めるまで時間が少しでもあるとお見舞いに来てくれていたのよ」
お姉さんが俺を紹介してくれた。
「そうか。西、すまない。お前のことを覚えてないんだ」
仙石さんも申し訳なさそうにそう言った。
「西くん、ちょっといい?」
そう言ってお姉さんは俺を病室の外に連れ出した。
俺が呆然としながら言われるがままお姉さんの後をついていくと休憩室のような場所に着いた。
「恭一ね、春子と結婚する少し前くらいまでの記憶しかないみたいなの」
「そ、うなんですか」
「こうなってしまって、すごく悲しいけど、私は少しだけ安心してしまったわ」
「え」
「だって、今の恭一は女性恐怖症じゃないんだもの。普通に人を好きになって恋愛して結婚だって出来るかもしれないわ。もう過去に囚われなくてもいいかもしれないと思うと」
「……お姉さん」
「恭一はこんな大怪我したけれど、あの子の人生は今から再スタートするのかもしれないわ」
俺も、安心した。
仙石さんは春子さんにされたトラウマも、俺にされたことも何も覚えていない。
俺は確かに安心した。だけど、それと同時に罰が当たったんだとも思った。
好きな人に自分のことを忘れられるのは辛い。
春子さんがしたことと同じことを俺はしてしまった。
俺は、罪を償わないといけない。
だけど、それは今すぐにじゃない。
仙石さんが、幸せになるのを見届けて、それから自分への罰を決めよう。
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