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物語のようにはいかない
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「佐々木警視長! おはようございます」
「ああ、おはよう。その顔は全部うまく行ったって顔だね?」
「……はい。あの、本当にありがとうございました。何とお礼を言ったらいいのか」
「ははは、気にしないで? 俺も最近大切な子ができたんだよ。君のおかげでね?」
「え、俺の……ですか?」
「君がホテルから帰ったあとね、池田くんがきたんだよ。西さんにひどいことしないでください~ってね」
「え? 池田が!?」
「それで、俺に対する噂とホテルで本当は何があったかをね、話したんだ」
「そ、そうなんですか」
「あの子はいい子だね。それに素直だ。俺に謝ってくれたし、俺に抱かれるなら自分なら本望ですとか言ってくれちゃって」
「えぇ!?」
「それで美味しく頂いちゃったんだよ。西くんがせっかく体を張って守ってあげた池田くんを俺の毒牙にやられてしまって、何だか申し訳ないね?」
「いや、池田が納得してるなら俺は別に」
「そう? まぁそういうことだから今度ダブルデートでもしようよ」
「え!? ダブル? 警視長と池田と……俺と、誰ですか?」
「え? 仙石くんだろ? まさかバレてないとでも思ったのかい?」
「そんな」
「ははは」
そんなこんなで、全部がうまくいったって思ってた。
好きって言って、好きって言ってもらえて、キスもして、セックスもして、幸せで。
幸せはずっと続くと、そう思ってた。
実際は物語のようにハッピーエンド。はい終わり。とはならない。
俺はともかく仙石さんは元々は女好きのノンケだし。
そうじゃなくても特に俺たちのように警察官という職業には色々ある。
そもそも休みが合うことだって稀だ。
俺たちのデートはほとんど近場の居酒屋かどちらかの家で飲むかくらいしかない。
いつ呼び出されても大丈夫なようにだ。
2人ともがそんな職業で、ラブラブハッピーってなるのはかなり難しい。
それに最近はお互い別々のでかい事件ばかりを抱えて忙しくて署に泊まり込みになることも多いし、2人の時間なんて全然とる時間なんてない。
そんな中、仙石さんが事件に巻き込まれて意識不明の大怪我を負った。
俺は意識が戻らない仙石さんの病室に時間のある限り通った。
「仙石さん……、寝る間も惜しめば仙石さんの近くにこんなに居られるんですね。俺、仕事ばっかりで、仕事のせいで仙石さんに会えないんだって思ってたのに」
病室内は静かだ。俺が話せば俺だけの声が虚しく響く。
たまに仙石さんのご両親とも会うし、前に一緒に居るのを見た、仙石さんのお姉さんとも何回か会った。
俺は持ってきた替えの花を花瓶の花と入れ替えて、窓を開けた。
夏だけど、夜の風が心地いい。
思えば仙石さんと付き合えることになってから、こんなにゆっくりと過ごした日はなかったな。
あと10分もすれば俺はまた仕事に戻らなきゃいけない。
「あ、いつも来てくれてありがとうね、西くん。だけど恭一のためにそんなに隈作ってまでお見舞いに来なくてもいいのよ」
「お姉さん……、こんばんは。俺の隈は別に仙石さんが入院する前からありましたよ」
「そうなの? でも恭一が入院してからもっと増えたんじゃない? 最初に病室で会った時はそんなに濃くなかったもの」
「そうですか? 多分気のせいですよ」
「そうかしらね」
仙石さんのお姉さんは困ったように笑った。
「この子はいつも無茶ばかりするから心配だわ」
「そうですね。でもそこが仙石さんのかっこいいところだと思います」
「ふふ、そうね。恭一もあなたのような部下が居て安心ね」
「そう、だといいんですが」
「絶対そうよ。でも部下は良くても家庭の方がね……。そろそろ結婚をした方がいいと思うの」
「え、結婚……ですか」
「ええ。恭一が昔結婚してたことは知ってる?」
「あ、はい。少しだけ聞いたことがあります……亡くなったんですよね」
「そうなの。だけど、あの子、えっと恭一の亡くなった嫁の名前は春香というのだけど、恭一は春香のことを恋愛的な意味で好きだったわけじゃないわ」
「そうなんですか?」
確かに市原さんが前に言っているのを聞いたことがある。
『また好きでもない相手と罪滅ぼしのために付き合うつもりか』
市原さんはそう言っていた。
「春香はね、従姉妹だったの。春香の両親は相当悪いことに手を染めていて、恭一は警察官としてそれを検挙した。その時に自暴自棄になった春香の父親がナイフを持って恭一に襲いかかって、それを恭一が避けた。そして春香の父親はその勢いのまま倒れ込んで、シンクの角に頭をぶつけて死んだの」
「そんなことが……。え、でも何でそれで仙石さんと春香さんが結婚することに?」
「恭一は馬鹿だから、春香の父親が死んだのは自分のせいだと思ったみたい。そこに春香はつけ込んだ。春香は昔から恭一のことが好きだったから自分と結婚してくれって頼んだのよ」
「そんな……」
「でも、そんな始まりでも2人は案外うまくいっているように見えたわ。恭一は決して春香に恋愛感情を抱かなかったようだけれど、春香を妹のように可愛がっていたから」
俺的にはこんな話を聞いて何だか複雑な感情になる。
「でもね、春香はそれじゃ満足しなかった。自分を恋愛的に好きになってほしい。愛して欲しいって思った。まぁこの感情は普通よね」
「まぁ、そうですね」
だって俺だってそう思う。
「だけどね、春香はとんでもない事件を犯した」
「ああ、おはよう。その顔は全部うまく行ったって顔だね?」
「……はい。あの、本当にありがとうございました。何とお礼を言ったらいいのか」
「ははは、気にしないで? 俺も最近大切な子ができたんだよ。君のおかげでね?」
「え、俺の……ですか?」
「君がホテルから帰ったあとね、池田くんがきたんだよ。西さんにひどいことしないでください~ってね」
「え? 池田が!?」
「それで、俺に対する噂とホテルで本当は何があったかをね、話したんだ」
「そ、そうなんですか」
「あの子はいい子だね。それに素直だ。俺に謝ってくれたし、俺に抱かれるなら自分なら本望ですとか言ってくれちゃって」
「えぇ!?」
「それで美味しく頂いちゃったんだよ。西くんがせっかく体を張って守ってあげた池田くんを俺の毒牙にやられてしまって、何だか申し訳ないね?」
「いや、池田が納得してるなら俺は別に」
「そう? まぁそういうことだから今度ダブルデートでもしようよ」
「え!? ダブル? 警視長と池田と……俺と、誰ですか?」
「え? 仙石くんだろ? まさかバレてないとでも思ったのかい?」
「そんな」
「ははは」
そんなこんなで、全部がうまくいったって思ってた。
好きって言って、好きって言ってもらえて、キスもして、セックスもして、幸せで。
幸せはずっと続くと、そう思ってた。
実際は物語のようにハッピーエンド。はい終わり。とはならない。
俺はともかく仙石さんは元々は女好きのノンケだし。
そうじゃなくても特に俺たちのように警察官という職業には色々ある。
そもそも休みが合うことだって稀だ。
俺たちのデートはほとんど近場の居酒屋かどちらかの家で飲むかくらいしかない。
いつ呼び出されても大丈夫なようにだ。
2人ともがそんな職業で、ラブラブハッピーってなるのはかなり難しい。
それに最近はお互い別々のでかい事件ばかりを抱えて忙しくて署に泊まり込みになることも多いし、2人の時間なんて全然とる時間なんてない。
そんな中、仙石さんが事件に巻き込まれて意識不明の大怪我を負った。
俺は意識が戻らない仙石さんの病室に時間のある限り通った。
「仙石さん……、寝る間も惜しめば仙石さんの近くにこんなに居られるんですね。俺、仕事ばっかりで、仕事のせいで仙石さんに会えないんだって思ってたのに」
病室内は静かだ。俺が話せば俺だけの声が虚しく響く。
たまに仙石さんのご両親とも会うし、前に一緒に居るのを見た、仙石さんのお姉さんとも何回か会った。
俺は持ってきた替えの花を花瓶の花と入れ替えて、窓を開けた。
夏だけど、夜の風が心地いい。
思えば仙石さんと付き合えることになってから、こんなにゆっくりと過ごした日はなかったな。
あと10分もすれば俺はまた仕事に戻らなきゃいけない。
「あ、いつも来てくれてありがとうね、西くん。だけど恭一のためにそんなに隈作ってまでお見舞いに来なくてもいいのよ」
「お姉さん……、こんばんは。俺の隈は別に仙石さんが入院する前からありましたよ」
「そうなの? でも恭一が入院してからもっと増えたんじゃない? 最初に病室で会った時はそんなに濃くなかったもの」
「そうですか? 多分気のせいですよ」
「そうかしらね」
仙石さんのお姉さんは困ったように笑った。
「この子はいつも無茶ばかりするから心配だわ」
「そうですね。でもそこが仙石さんのかっこいいところだと思います」
「ふふ、そうね。恭一もあなたのような部下が居て安心ね」
「そう、だといいんですが」
「絶対そうよ。でも部下は良くても家庭の方がね……。そろそろ結婚をした方がいいと思うの」
「え、結婚……ですか」
「ええ。恭一が昔結婚してたことは知ってる?」
「あ、はい。少しだけ聞いたことがあります……亡くなったんですよね」
「そうなの。だけど、あの子、えっと恭一の亡くなった嫁の名前は春香というのだけど、恭一は春香のことを恋愛的な意味で好きだったわけじゃないわ」
「そうなんですか?」
確かに市原さんが前に言っているのを聞いたことがある。
『また好きでもない相手と罪滅ぼしのために付き合うつもりか』
市原さんはそう言っていた。
「春香はね、従姉妹だったの。春香の両親は相当悪いことに手を染めていて、恭一は警察官としてそれを検挙した。その時に自暴自棄になった春香の父親がナイフを持って恭一に襲いかかって、それを恭一が避けた。そして春香の父親はその勢いのまま倒れ込んで、シンクの角に頭をぶつけて死んだの」
「そんなことが……。え、でも何でそれで仙石さんと春香さんが結婚することに?」
「恭一は馬鹿だから、春香の父親が死んだのは自分のせいだと思ったみたい。そこに春香はつけ込んだ。春香は昔から恭一のことが好きだったから自分と結婚してくれって頼んだのよ」
「そんな……」
「でも、そんな始まりでも2人は案外うまくいっているように見えたわ。恭一は決して春香に恋愛感情を抱かなかったようだけれど、春香を妹のように可愛がっていたから」
俺的にはこんな話を聞いて何だか複雑な感情になる。
「でもね、春香はそれじゃ満足しなかった。自分を恋愛的に好きになってほしい。愛して欲しいって思った。まぁこの感情は普通よね」
「まぁ、そうですね」
だって俺だってそう思う。
「だけどね、春香はとんでもない事件を犯した」
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