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市原さんと飲み
しおりを挟む仙石さんが仕事に復帰して、仙石さんの記憶にある頃から仕事内容で変わったことはほとんどないらしいけど少しずつ覚えて、元々仕事が出来る人だったから特に問題はなさそうだった。
職場にいる女性たちとも、以前はあった心の壁がないからなのか元々モテてはいたみたいだけど、より女性からモテているようだ。
相変わらず忙しい毎日で、その上、俺たちには付き合っていると言う事実すら消えてしまったから仙石さんと2人で過ごすなんてことはまるっきりなくなった。
やっと取ることができた休みの前日。
俺は仙石さんの同期の市原さんに飲みに誘われた。
市原さんは、以前仙石さんと俺の話をしていた先輩だ。
「かんぱーい」
「あ、かんぱい…です」
「元気ねぇなぁ」
「あー少し疲れているかもしれません。最近は特に忙しいので」
俺は誤魔化すようにそう告げた。
市原さんの口の端が少し上がった。
「そうか」
「あの、何で今日誘ってくださったんですか」
俺は市原さんとは違う課だし、同じ話題といえば仙石さんのことくらいだ。
少し警戒した俺を見て市原さんはまた愉快そうに片眉を上げた。
「後輩を誘うのに理由が必要か?」
「……仙石さんのこと、ですよね」
「っふ。何でそう思う?」
「以前、市原さんと仙石さんが話しているのを立ち聞きしました。また好きでもないやつと罪滅ぼしのために付き合うのかと」
「へ~。聞いてたんだ」
「俺、大丈夫です。仙石さんが記憶がない今、迫ったりしません。仙石さんをもう二度と傷つけたりしません。だから…………仙石さんが……仙石さんが、幸せになるのを見届けるまでは仙石さんの側に居させてもらえませんか」
「その後はどうするつもりなんだ?」
「わかりません。ただ、俺みたいなのが仙石さんの近くにいるのは良くなとだけは分かっています。仙石さんの知らない場所に行って……それからのことは特に決めていません」
笑って答えた。それなのに。
「お前、死ぬつもりじゃないよな?」
ドキッとした。
「そんな訳ないじゃないですか。10代じゃあるまいし、失恋したって死んだりしませんよ」
市原さんは俺をまっすぐに見つめた。
「失恋……本当にそれだけか? お前は仙石に罪滅ぼしをさせてしまったなんて思ってるんじゃないのか?」
「ふふ。何ですか? それ」
「お前は仙石に似ている気がするんだ。西、自分を追い詰めるな」
「追い詰めてなんかないですよ」
ただ俺は仙石さんを傷つけた罰を受けなければいけないだけなんです。
仙石さんはきっと俺がやったことで思い出したくもない辛い思い出を思い出して、さらに男の俺相手にもっと嫌な思いをさせた。
それはきっと辛くて苦しくて耐えられないくらいの苦しみじゃなきゃ償えない。
仙石さんは覚えていなくても、俺は俺が仙石さんを傷つけたことを覚えているんだ。
何も知らない人は、俺の自己満足だと言うかもしれない。
だけど俺は俺自身が許せないんだ。俺は大好きで大切な仙石さんを最悪な形で傷つけた。
だからその報いを、捌きの鉄槌を俺は自分自身で落とすんだ。
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