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父さん
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俺は寮に帰ってから電話をかけた。
数回のコールですぐに相手が出た。
『もしもし』
電話越しに養父の声が聞こえる。
「久しぶり……父さん」
ガシャン!!
電話の向こうから派手な音が聞こえてその後ガサガサとなった。
『……あ、ああ。久しぶりだな凛太郎』
「何か大きな音がしたけど、なんかあったのか?」
『いや、電話を落としてしまっただけだ。ところで、用件は何だ?』
「いや、食事でもどうかと思って。忠次と一緒に」
『ああ。わかった。ではあとでスケジュールを報告するからその中で都合のいい日を選んでくれ』
「わかった。あと、お袋も誘っていい?」
『それは……もちろん』
「なに? なんか都合が悪い?」
『いや。そんなことはない』
そんな感じで養父の態度は煮えきらない。
「父さん」
『っ……なんだ』
「俺、一度呼んでみたかったんだ。あなたのことを父さんって」
『そうか』
「お袋に相談したら、今は俺の親なんだから呼んでもいいって言ってくれたから。でも、もしも父さんに好きな人とか、結婚したい人が居るんならもう呼ぶのはやめておくよ」
『……そんな人はいない。だから好きに呼ぶといい』
「本当に? 本当に気になってる人もいないのか?」
『ああ』
そう答える養父の声からは感情を読み解くことができなかった。
お袋は養父のことが多少なり気になっている様子はあった。
だけど、養父からはそんな感情は読み解けない。
お袋が養父の弟と結婚していたから。
俺が養父の甥だから。
だから気にかけているのだとしたら、俺がキューピットになろうとするのは余計なお世話なのかもしれない。
それでも俺はわがままを言いたかった。
今のこの人なら俺のわがままを聞いてくれるんじゃないかって。
「俺、お袋と父さんと家族になってみたいんだ。わがままだって分かってるけど、2人が仲良くしてくれればって思ってしまう」
『凛太郎……』
「だからって急にお袋のことを好きになるなんて無理だって分かってる。だからせめて一緒に出かけたりとか」
『それは……。私の感情だけでどうにかなることではないだろう。文恵さんの心が大切だ……文恵さんは私の弟のことが好きで、だが弟にひどい目に合わされていた。そうだろう? 私の顔は少なからず弟に似ている。私のような立場では』
諭すような声からはお袋を思いやる言葉が出てきた。
少しは特別な気持ちを持ってくれているのかもしれない。
だが、自分で言ってしまったことにびっくりしたのか電話口の声は途中で止まった。
「立場とか関係ないだろ。確かに父さんはあの人に似てるかもしれない。だけど、あの人はもっと小さい人だったよ。うまくいかないとすぐに暴力を振るってた。父さんとは……うまく言えないけど違うと思う、父さんは不器用だけどちゃんと弱い人のことも考えるでしょう。だから父さん、あの人と顔が似ていることを理由にお袋に近づきたくないとは思わないでほしい」
電話口で養父が息を飲むのがわかった。
『私は……。私は、文恵さんに近づいても……好きになっても良いのだろうか……』
「いいんだよ」
俺は力強く答えた。
嬉しかった。
お袋が安心して一緒に歩める人と過ごせるかもしれない。
養父が養父じゃなく父さんになってくれるかもしれない。
その後は何回か、養父とお袋、俺と忠次で食事に行ったり出かけたりした。
お袋が養父を見上げて嬉しそうに笑う顔は、日に日に健康になって行き、養父も照れ臭そうに笑うようになった。
数回のコールですぐに相手が出た。
『もしもし』
電話越しに養父の声が聞こえる。
「久しぶり……父さん」
ガシャン!!
電話の向こうから派手な音が聞こえてその後ガサガサとなった。
『……あ、ああ。久しぶりだな凛太郎』
「何か大きな音がしたけど、なんかあったのか?」
『いや、電話を落としてしまっただけだ。ところで、用件は何だ?』
「いや、食事でもどうかと思って。忠次と一緒に」
『ああ。わかった。ではあとでスケジュールを報告するからその中で都合のいい日を選んでくれ』
「わかった。あと、お袋も誘っていい?」
『それは……もちろん』
「なに? なんか都合が悪い?」
『いや。そんなことはない』
そんな感じで養父の態度は煮えきらない。
「父さん」
『っ……なんだ』
「俺、一度呼んでみたかったんだ。あなたのことを父さんって」
『そうか』
「お袋に相談したら、今は俺の親なんだから呼んでもいいって言ってくれたから。でも、もしも父さんに好きな人とか、結婚したい人が居るんならもう呼ぶのはやめておくよ」
『……そんな人はいない。だから好きに呼ぶといい』
「本当に? 本当に気になってる人もいないのか?」
『ああ』
そう答える養父の声からは感情を読み解くことができなかった。
お袋は養父のことが多少なり気になっている様子はあった。
だけど、養父からはそんな感情は読み解けない。
お袋が養父の弟と結婚していたから。
俺が養父の甥だから。
だから気にかけているのだとしたら、俺がキューピットになろうとするのは余計なお世話なのかもしれない。
それでも俺はわがままを言いたかった。
今のこの人なら俺のわがままを聞いてくれるんじゃないかって。
「俺、お袋と父さんと家族になってみたいんだ。わがままだって分かってるけど、2人が仲良くしてくれればって思ってしまう」
『凛太郎……』
「だからって急にお袋のことを好きになるなんて無理だって分かってる。だからせめて一緒に出かけたりとか」
『それは……。私の感情だけでどうにかなることではないだろう。文恵さんの心が大切だ……文恵さんは私の弟のことが好きで、だが弟にひどい目に合わされていた。そうだろう? 私の顔は少なからず弟に似ている。私のような立場では』
諭すような声からはお袋を思いやる言葉が出てきた。
少しは特別な気持ちを持ってくれているのかもしれない。
だが、自分で言ってしまったことにびっくりしたのか電話口の声は途中で止まった。
「立場とか関係ないだろ。確かに父さんはあの人に似てるかもしれない。だけど、あの人はもっと小さい人だったよ。うまくいかないとすぐに暴力を振るってた。父さんとは……うまく言えないけど違うと思う、父さんは不器用だけどちゃんと弱い人のことも考えるでしょう。だから父さん、あの人と顔が似ていることを理由にお袋に近づきたくないとは思わないでほしい」
電話口で養父が息を飲むのがわかった。
『私は……。私は、文恵さんに近づいても……好きになっても良いのだろうか……』
「いいんだよ」
俺は力強く答えた。
嬉しかった。
お袋が安心して一緒に歩める人と過ごせるかもしれない。
養父が養父じゃなく父さんになってくれるかもしれない。
その後は何回か、養父とお袋、俺と忠次で食事に行ったり出かけたりした。
お袋が養父を見上げて嬉しそうに笑う顔は、日に日に健康になって行き、養父も照れ臭そうに笑うようになった。
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