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45 女性の正体
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あの日、帰ってきて速攻、ショーンには好きな人が出来た事を伝えたルーナストだったが、ショーンはなぜだか曖昧に笑って生暖かい目を向けてきた。
それからグランツェから仮面舞踏会での諜報活動が指示されることが多くなった。
そして毎回、あの女性は現れた。
最初の仮面舞踏会での反省を生かし、ルーナストはあの女性との話に夢中になるだけではなく、他の女性とも踊り、情報収集をこなした。
おそらくあの女性は帝国の貴族令嬢なのだろう。
(彼女は、きっといずれどこぞの貴族男性と結婚するんだろうなぁ)
名前も知らない彼女は、仮面舞踏会でルーナストを見つけるといつも嬉しそうに話しかけてくれて、少なくともルーナストへ多少なり好意があることは分かっている。
(でも、ダメだ。閣下以上に彼女とはダメだ)
会うたびに好きになるけれど、貴族同士はお互いに利があってこその結婚だ。
ルーナストがどれだけ頑張ったところで、彼女に性別を隠したままでは誠実ではないし、本当のことを話しても気持ちが悪いと嫌われるのがオチだ。そもそも帝国も王国も貴族の同性同士の結婚は固く禁じられている。
こうしてたまにでも会えるというだけで、とても幸せなことなのだからとルーナストは自分に言い聞かせた。
そして、その日も一通りの諜報が終わり、例の女性を探すと、ちょうど会場から出てテラスに向かおうとしているのが見えた。休憩などで使われるテラスは、ダンスで疲れた時だったり、少しの酔いを覚すのにちょうどいい。
ルーナストも後を追うようにテラスに向かった。
けれどテラスにいたのは彼女一人ではなかった。
「ロイ……」
思わず呟いたけれど、2人には幸い聞こえていなかったようだ。
ロイは仮面もつけていなかったし、何やら真剣な顔で話していた。
(ロイ、あの女性と付き合ってるのかな。ロイは、ああ見えて公爵家の当主だって言ってたし)
ロイのボサボサだった髪も髭も、今は小綺麗に整えられていて、どこから見ても由緒正しい帝国の、公爵家当主にふさわしい見た目だった。少なくともルーナストが勝てる部分など1つもありはしない。
最初から実るはずもない恋だとは分かっていたけれど、いざ目の前で見てしまうとショックは大きい。ルーナストは後ずさるようにその場を後にしようとした。
気配消しはもちろん完璧なはずだった。
けれどその場を後にしようとした微かな空気の動きを気づかれた。
あの女性からとても貴族令嬢とは思えない強い殺気を向けられて、ルーナストは困惑する気持ちで女性を見た。
「お前……」
彼女は思わずと言ったようにそう言った。
向けられていた殺気は一気に離散した。
けれどルーナストはそれ以上に驚いたことがあった。
彼女の声は聞き覚えのある、そう。訓練中も何度も聞いた、ベルガリュードの声だった。
(彼女は……、だって、閣下の声のはずない)
今までも何度だって彼女の声を聞いていたし、何度もその姿を見てきた。
仮面越しだったとしても、いくらなんでもベルガリュードのような体躯の男を女性と間違えたりはしないはずだ。
「……閣下、なんですか」
そうではないと信じたくて、ルーナストはそう声を発していた。
けれど結果は残酷だった。
「ああ」
女性だと思っていたその人は、わずかに息を吐き、頷いた。
ルーナストが2度目の恋をしたのは、結局1度目と同じ相手だったということだ。
「はは」
なんだか馬鹿らしくなって笑えてきた。
「そっか。私の好きになった人は、また閣下ですか」
実るはずのない恋。
けれど、恋をしてはいけないと、分かっている相手だったのだ。
閣下だとしても、女性だとしても。
(閣下は何かの諜報活動でこんなことを? だったら、陛下は知っていたはずだ。なのに、何度もブッキングさせるなんてこんな仕打ちはあんまりだ……。いや……違う。分かってる。勝手に好きになったのは私だ。分かってる。分かってる。だけど)
心は少しも追いつかなかった。
それからグランツェから仮面舞踏会での諜報活動が指示されることが多くなった。
そして毎回、あの女性は現れた。
最初の仮面舞踏会での反省を生かし、ルーナストはあの女性との話に夢中になるだけではなく、他の女性とも踊り、情報収集をこなした。
おそらくあの女性は帝国の貴族令嬢なのだろう。
(彼女は、きっといずれどこぞの貴族男性と結婚するんだろうなぁ)
名前も知らない彼女は、仮面舞踏会でルーナストを見つけるといつも嬉しそうに話しかけてくれて、少なくともルーナストへ多少なり好意があることは分かっている。
(でも、ダメだ。閣下以上に彼女とはダメだ)
会うたびに好きになるけれど、貴族同士はお互いに利があってこその結婚だ。
ルーナストがどれだけ頑張ったところで、彼女に性別を隠したままでは誠実ではないし、本当のことを話しても気持ちが悪いと嫌われるのがオチだ。そもそも帝国も王国も貴族の同性同士の結婚は固く禁じられている。
こうしてたまにでも会えるというだけで、とても幸せなことなのだからとルーナストは自分に言い聞かせた。
そして、その日も一通りの諜報が終わり、例の女性を探すと、ちょうど会場から出てテラスに向かおうとしているのが見えた。休憩などで使われるテラスは、ダンスで疲れた時だったり、少しの酔いを覚すのにちょうどいい。
ルーナストも後を追うようにテラスに向かった。
けれどテラスにいたのは彼女一人ではなかった。
「ロイ……」
思わず呟いたけれど、2人には幸い聞こえていなかったようだ。
ロイは仮面もつけていなかったし、何やら真剣な顔で話していた。
(ロイ、あの女性と付き合ってるのかな。ロイは、ああ見えて公爵家の当主だって言ってたし)
ロイのボサボサだった髪も髭も、今は小綺麗に整えられていて、どこから見ても由緒正しい帝国の、公爵家当主にふさわしい見た目だった。少なくともルーナストが勝てる部分など1つもありはしない。
最初から実るはずもない恋だとは分かっていたけれど、いざ目の前で見てしまうとショックは大きい。ルーナストは後ずさるようにその場を後にしようとした。
気配消しはもちろん完璧なはずだった。
けれどその場を後にしようとした微かな空気の動きを気づかれた。
あの女性からとても貴族令嬢とは思えない強い殺気を向けられて、ルーナストは困惑する気持ちで女性を見た。
「お前……」
彼女は思わずと言ったようにそう言った。
向けられていた殺気は一気に離散した。
けれどルーナストはそれ以上に驚いたことがあった。
彼女の声は聞き覚えのある、そう。訓練中も何度も聞いた、ベルガリュードの声だった。
(彼女は……、だって、閣下の声のはずない)
今までも何度だって彼女の声を聞いていたし、何度もその姿を見てきた。
仮面越しだったとしても、いくらなんでもベルガリュードのような体躯の男を女性と間違えたりはしないはずだ。
「……閣下、なんですか」
そうではないと信じたくて、ルーナストはそう声を発していた。
けれど結果は残酷だった。
「ああ」
女性だと思っていたその人は、わずかに息を吐き、頷いた。
ルーナストが2度目の恋をしたのは、結局1度目と同じ相手だったということだ。
「はは」
なんだか馬鹿らしくなって笑えてきた。
「そっか。私の好きになった人は、また閣下ですか」
実るはずのない恋。
けれど、恋をしてはいけないと、分かっている相手だったのだ。
閣下だとしても、女性だとしても。
(閣下は何かの諜報活動でこんなことを? だったら、陛下は知っていたはずだ。なのに、何度もブッキングさせるなんてこんな仕打ちはあんまりだ……。いや……違う。分かってる。勝手に好きになったのは私だ。分かってる。分かってる。だけど)
心は少しも追いつかなかった。
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