チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

文字の大きさ
上 下
14 / 49

14 見回り

しおりを挟む
軽めのダンベルから徐々に重く。
そしてそれが終わったら傾斜のつけられるランニング魔道具でランニング。
誰もいない部屋だから、魔道具が動く音と、部屋の中の音はルーナストの息遣いだけだ。

「精が出るな。だが、初日から飛ばしすぎるともたないぞ」
「っ……閣下」

走るのに集中していたルーナストは、気配を消していたベルガリュードに気がつけず声をかけられ驚いた。

「他の訓練生は皆疲れて寝ているぞ。明日にも響く。今日はもう止めておけ」

そう言った閣下の表情は思いの外優しい。
柔らかい笑みを浮かべているその人が、あのドラスティールの鬼神と言われる人と同じ人とは思えないほどだ。

(もしかして、わざわざ訓練生が残っていないかどうか見回っているのかな)

そうだとしたらここでトレーニングしていることは、ベルガリュードの負担を増やすことになるだろう。

「すみません。すぐに止めます」
「ああ」

ランニング魔道具から降りて、汗をぬぐい片付けをするのを、ベルガリュードは壁に肩を預けながらじっと見てきた。
どうやらルーナストがトレーニングルームを出るまで待つつもりらしい。
ルーナストは急いで準備を終わらせてベルガリュードの待つ出入口に向かった。

「お待たせしました!」
「ああ」

ルーナストがトレーニングをしている間に時刻は深夜2時を回っていたらしい。
教官になると、帝国の皇子で鬼神と恐れられる人ですら、こんな時間まで見回りをしないといけないのかとルーナストは不敬にもこっそり同情した。
それと同時に憧れの軍人と肩を並べ歩いていることに気分が高揚してくる。

「王国軍のトレーニングルームはすごいですね。あんなに色々なトレーニング魔道具があって、効率よく鍛えられて最高です」
「そうか。訓練生から正式に兵になれれば、もっと充実した設備でトレーニングできる」
「そうなんですか! それは楽しみです」

正式に兵になることの楽しみがまた増えてルーナストは俄然トレーニングへのやる気が上がった。

(もちろん一番楽しみなのは閣下に戦ってもらうことだけど)

「眠そうな顔の割にトレーニング好きなんだな」
「えっ!? なんですかそれ。そんな暴言を吐かれたことは」
「ないのか?」
「ありますけど、表情とトレーニング好きは関係ないでしょう」
「ははは。まぁ、そうだが。あ~、いや、お前のやる気は私にはちゃんと伝わっている。少し揶揄っただけだ。悪かったな」
「いえ」

ルーナストは今まで眠そうな顔だとか、やる気が無さそうだとよく言われてきた。
だがそれを言ってきた相手に失言だったと謝れたことは少ない。
申し訳なさそうに眉を下げるベルガリュードを見て、ルーナストは少し嬉しくなった。

「さあ、部屋についた。もう寝る時間も少ししかないだろうが、ゆっくり休め」
「はい。ここまでありがとうございました!」
「ああ」

ベルガリュードはひとつうなずいて颯爽と去っていった。

(こんな下っ端相手に謝れるって、かっこいいなぁ。だけど、見回りなんてしてるの、初日の今日だけかもしれないけど悪いことしたなぁ)

「……浄化」

部屋に入ったルーナストは、魔術で自分の体と着ていたものも全て綺麗にしてベットに上がり寝転がった。1畳ほどの部屋は、2段ベットのように部屋の上に寝るスペースがあり、下は申し訳程度の生活スペースになっている。服などの生活に必要なものを置いてしまえば、筋トレするスペースすら取れない。だが、ルーナストの部屋は角部屋で、その隣がロイ、そしてその隣がショーンの部屋なので、寮の近所付き合いは気楽だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...