チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

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15 しつこいモルガン

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ベルガリュードがルーナスト達3人の教官になったとは言え、最初の1月ほどは合格者全員合同での訓練になる。ルーナスト達は合格した翌日訓練生としての入隊式で説明された。

その入隊式の間、ルーナストはずっとモルガンに睨みつけられていた。

(ちゃっかり合格してるんだ。結局忖度あるんじゃないの?)

何にせよ、ルーナストはモルガンと関わる気はなかったので、入隊式の間睨みつけてくる視線を無視していた。

「おい、お前!」

入隊式が終わり、そのまま訓練が始まるということで外の訓練場まで走って向かっている最中に、後ろから声がした。けれど、ショーンもロイもルーナストの少し前を走っているので、2人ではない。その声を無視して走っていると、ガシッと肩を掴まれて立ち止まらされた。

「っ、何でしょう」

見れば予想はしていたが、声の主はモルガンだった。

「呼んでるんだから止まれよ!」
「すみません。私を呼んでいるとは思わなかったもので」
「ちっ」
「あの、何のようでしょう。早く向かわないと」
「俺はお前には負けないからな!! リンローズも渡さない!!」

そもそも欲しいとも言ったことはないし、狙った覚えもないルーナストからすれば、言いがかりもいいところだ。

「はぁ……。そうですか。分かりました」
「っ、おい!!」

返事をして走り出したのに、また引き留めようとするモルガンを振り払い、走って向かった。

(ただでさえ眠そうでやる気なさそうな顔などと言われる顔なんだから、遅れてったらやる気ないと思われるかもしれないのに)

やる気があるルーナストにしてみればそんな不名誉なことはない。
だが、どれだけやる気があってもこの顔でやる気がないのだと判断されることは少なくないのだ。今までは実力でねじ伏せてきたが、敵を倒すという目に見える功績がすぐに残せそうにない今は、それ以外のことでやる気を見せなければいけない。

その後、運動場では走り込みと剣の持ち方や素振りなどを教えてもらった。
剣を振る型などは自己流だったルーナストは、意外と難しくそれが逆に楽しかった。

昼食の間は、試験の時に約束した通りロイに魔術を教えた。

「体の中にある魔力をこう……がっと集める感じで」
「ルート、それじゃ全然分かんないよ」

呆れ顔のショーンが口を挟み、ルーナストは首を傾げた。

「え? 分かるよね? ロイ?」
「いや、もう少し詳しく、がっとというのはどういう状態だ?」
「だからこう……あ、この本の中に書いてあるんだけど、この部分」

ルーナストは自分で説明するのを早々に諦めて懐から1冊の本を差し出した。
もちろんずっと懐に入れていたわけではなく、異空間に乱雑に突っ込んでおいたものを、懐にしまっておいたように見せかけて取り出しただけだ。

「ふん! お前達のような平民が、そんな本を読んでいくら頑張ったところで魔力量がカスじゃ意味がないだろ」

後ろから当然のように嫌味なことを言ってくるのはもちろんモルガンだ。

「あの、私たちに構わないでもらえますか? それとも友達がいないから話し相手が欲しいんですか?」
「そーだそーだ。それとも僕のことまだ女の子だと思ってるの? 僕のこと好きなの?」
「なっ!!! そんなわけっ!!」

モルガンは驚き目を見開いて固まった。
もうこの短い間で何度と見た表情だ。
けれどモルガンは顔を赤くし怒りが限界に達したのか、またも魔力を溜め出した。
試験の時の反省などまるで無い様子のその態度にルーナストは小さくため息をついた。

サッと周りを確認すると、おそらく今この場所に平民の生徒しかいない。
周りの体調に影響が出る前にルーナストはサッとモルガンの溜めた魔力を離散させた。

「はっ……? え……? なんで……っ」
「どうかされたんですか?」
「魔力が……。あれ?」
「まさか、魔術を使おうとされたんですか? 魔術訓練室以外での魔術の使用、または魔力の放出は禁止されてますよ」

ルーナストは白々しくそう言うと、モルガンはキッとルーナストを睨みつけた。

「そんなの俺は知らない! 平民が偉そうに俺に説教をするな! それと、女男、お前のことなんか好きじゃないからな!!」

女男じゃない!! とショーンが叫んだ。

「では私たちに話しかけないでください」

ルーナストもそれを応援するように静かに告げた。

「話しかけてなんかない!!」

モルガンはそう叫ぶと肩を怒らせながら食堂を出ていった。

「いや、話しかけてはいるだろう」

今まで静かにことの成り行きを見守っていたロイは、その背中を見送りながらポツリとつぶやいた。
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