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2 白髪紳士スティール
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従者であるショーンとはそこで別れ、茶会の会場に行くとそこそこの人数がその場で話に花を咲かせていた。ルーナストは貴族令嬢として教わった通り、わずかに微笑み挨拶と自己紹介を交わしていく。ある程度終わった頃には疲れ果て、茶会の端の席に座ることにした。
(これなら、剣を振り回していた方が楽しいし、疲れないな)
帰ってからのトレーニングメニューを頭の中で考えつつ、紅茶を一口飲むと目の前に影がさした。
「こちらの席に座っても良いですかな?」
「もちろんです。はじめまして、ルーナスト・メディスタム・ブラクルト辺境伯令嬢でございます」
目の前の白髪の紳士は先ほどまで会場に居なかったように思える。
昔はさぞかしモテたのだろうと思わせるような精悍な顔立ちの紳士は、その赤い目を優しげに細めた。
「私は、スティールと申します」
にっこりとスティールが笑って答えた。
名前を全て名乗らないということは、何か隠しておきたい身分があるということだ。
それも、悪い方面などではなく、この茶会に出席するならば立場を隠しておかなければならないほどの地位の持ち主の可能性がある。他の人もスティールが誰であるのかは知らないようだが、気になりはしているようだ。周りで話すご令嬢やご婦人たちもチラチラとこちらの様子を意識しているように見える。それが分かったとしても、経験値の浅いルーナストにはどうしていいのか分からない。
「来年デュヒタントを迎えます。今日が初めての茶会なのです。何か失礼がありましたら申し訳けございません」
思い切ってそう告げ頭を下げるとスティールはほっほっほっと笑った。
「失礼なんてそんな。では私が練習相手になってもよろしいですかな」
「よろしいのですか」
「ええ。むしろ光栄です。あなたのような可愛らしいご令嬢の練習相手ができるなら」
「ありがとうございます」
「では、早速。社交の定番といえば趣味ですからな。私は釣りをやるんですが、ご令嬢は何かご趣味はありますか?」
「私の趣味は剣術です」
「ほう、剣術」
「令嬢としては珍しいですよね。ですが、ブラクルト辺境伯では女も男も関係なくトレーニングバ……好きばかりで、結構楽しいんですよ」
トレーニングバカと言いそうになったのをギリギリでごまかして微笑んだ。
「それは楽しそうでいいですなぁ。戦えるご令嬢なんて本当にすごい」
「いえ。ですが私は令嬢としての趣味はからっきしで……。婚約者も居る身ですので努力を惜しまないつもりではあるのですが……うまくできるようになるには時間がかかりそうです」
ルーナントがそう言って笑うと、スティールもまた優しげに目を細めた。
「苦手を克服するのも良い心がけですが、得意なことを伸ばすのも良いと思いますよ」
「はい。もちろん、剣を止めるつもりはありません。他の令嬢にできなくて、自分だけができるとしたら、それは婚約者に危険があった際に、他の令嬢よりは身を持って守ることができることだと思います。なので自分を卑下していたりはしていないんです」
「そうですか。それなら良かった」
「あ……、すみませんペラペラと」
「いいえ、私も楽しいですよ。そういえば、このカンドルニア王国の軍に入ればサバイバル訓練や他国との軍事演習などがあるそうなのですよ」
「そうらしいですね。とても興味があるのですが、私には門戸が開かれていないので、指を咥えて見ているのです」
カンドルニア王国軍は女性の入隊を受け入れていない。
魔力があれば男女差は生まれないはずだが、昔からの慣習なのかルーナストは入りたくても入れないのだ。
「指を咥えて見ているだけ?」
スティールが意味ありげな瞳でルーナストを見た。
「え?」
「先ほど、婚約者が居る身だから努力は惜しまないと言っていたでしょう? それは貴族令嬢の嗜みに対してだけですか?」
「どういう……」
スティールに聞き返そうとしたルーナストだったがその時会場の入り口が騒がしくなった。
(これなら、剣を振り回していた方が楽しいし、疲れないな)
帰ってからのトレーニングメニューを頭の中で考えつつ、紅茶を一口飲むと目の前に影がさした。
「こちらの席に座っても良いですかな?」
「もちろんです。はじめまして、ルーナスト・メディスタム・ブラクルト辺境伯令嬢でございます」
目の前の白髪の紳士は先ほどまで会場に居なかったように思える。
昔はさぞかしモテたのだろうと思わせるような精悍な顔立ちの紳士は、その赤い目を優しげに細めた。
「私は、スティールと申します」
にっこりとスティールが笑って答えた。
名前を全て名乗らないということは、何か隠しておきたい身分があるということだ。
それも、悪い方面などではなく、この茶会に出席するならば立場を隠しておかなければならないほどの地位の持ち主の可能性がある。他の人もスティールが誰であるのかは知らないようだが、気になりはしているようだ。周りで話すご令嬢やご婦人たちもチラチラとこちらの様子を意識しているように見える。それが分かったとしても、経験値の浅いルーナストにはどうしていいのか分からない。
「来年デュヒタントを迎えます。今日が初めての茶会なのです。何か失礼がありましたら申し訳けございません」
思い切ってそう告げ頭を下げるとスティールはほっほっほっと笑った。
「失礼なんてそんな。では私が練習相手になってもよろしいですかな」
「よろしいのですか」
「ええ。むしろ光栄です。あなたのような可愛らしいご令嬢の練習相手ができるなら」
「ありがとうございます」
「では、早速。社交の定番といえば趣味ですからな。私は釣りをやるんですが、ご令嬢は何かご趣味はありますか?」
「私の趣味は剣術です」
「ほう、剣術」
「令嬢としては珍しいですよね。ですが、ブラクルト辺境伯では女も男も関係なくトレーニングバ……好きばかりで、結構楽しいんですよ」
トレーニングバカと言いそうになったのをギリギリでごまかして微笑んだ。
「それは楽しそうでいいですなぁ。戦えるご令嬢なんて本当にすごい」
「いえ。ですが私は令嬢としての趣味はからっきしで……。婚約者も居る身ですので努力を惜しまないつもりではあるのですが……うまくできるようになるには時間がかかりそうです」
ルーナントがそう言って笑うと、スティールもまた優しげに目を細めた。
「苦手を克服するのも良い心がけですが、得意なことを伸ばすのも良いと思いますよ」
「はい。もちろん、剣を止めるつもりはありません。他の令嬢にできなくて、自分だけができるとしたら、それは婚約者に危険があった際に、他の令嬢よりは身を持って守ることができることだと思います。なので自分を卑下していたりはしていないんです」
「そうですか。それなら良かった」
「あ……、すみませんペラペラと」
「いいえ、私も楽しいですよ。そういえば、このカンドルニア王国の軍に入ればサバイバル訓練や他国との軍事演習などがあるそうなのですよ」
「そうらしいですね。とても興味があるのですが、私には門戸が開かれていないので、指を咥えて見ているのです」
カンドルニア王国軍は女性の入隊を受け入れていない。
魔力があれば男女差は生まれないはずだが、昔からの慣習なのかルーナストは入りたくても入れないのだ。
「指を咥えて見ているだけ?」
スティールが意味ありげな瞳でルーナストを見た。
「え?」
「先ほど、婚約者が居る身だから努力は惜しまないと言っていたでしょう? それは貴族令嬢の嗜みに対してだけですか?」
「どういう……」
スティールに聞き返そうとしたルーナストだったがその時会場の入り口が騒がしくなった。
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