チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

文字の大きさ
上 下
3 / 49

3 第三王子

しおりを挟む
「ここにルーナスト・メディスタム・ブラクルト辺境伯令嬢が来ていると聞いたが!!」

会場の入り口で叫んだのは、スカイブルーの髪を肩まで伸ばし夕陽のようなオレンジの瞳をした男性だった。

「私ですが」

手を少しだけ上げてそう答えると、その男性はズンズンとルーナストの元まで歩いて来た。ベビーピンクの髪と瞳の、小柄な女性の腰を抱きながら。
ルーナストはそこではたと気がついた。目の前に迫る男性の見た目の特徴は、この国の第三王子と酷似している。つまり、ルーナストの婚約者と同じ色を持った男性がルーナストの名を呼びルーナストの方に向かって来ているということだ。
ルーナストは急いで立ち上がり膝を折った。
ルーナストに釣られ、呆けていた周りのご婦人やご令嬢も膝を降り頭を下げる。

「顔を上げろ」
「はじめまして。モルガン・ノエル・カンドルニア第三王子殿下」

顔を上げ挨拶をすると、モルガンはルーナストの美しさを見て目を見開いた。けれどすぐに持ち直したようにキッとルーナストを睨みつけた。

「……ふん。俺の顔くらいは知っていたか。俺と結婚したいと思っている奴の顔を見ておこうと思ってな」

ルーナストはモルガンと結婚したいなどと言った覚えはなかったが、静かに微笑むに留めた。

「いつまで膝をついている。もう立ち上がっていいぞ」
「はい。ありがとうございます」

ルーナストが立ち上がり、目の前のモルガンを見下ろす形になると、モルガンは顔を歪めた。

「おい。なんだその身長は……女のくせに可愛げのない。なんとかできないのか。見苦しいぞ」

吐き捨てるようにそう言ったモルガンに、ルーナストは首を傾げた。
身長など現状存在するどの魔術を使っても伸びたり縮めたりはできない。

「そうですか。ですが、申し訳けありませんが身長は縮めることができません」
「俺と結婚したいと言っている奴が、こんな化物なんて恥ずかしいと思わないのか」
「まぁ……はい」

身長が高いことが恥ずかしいと思ったことはない。
身長が高いなら高いなりに、低いなら低いなりに戦う方法があるからだ。
ルーナストには、戦闘を中心で物事を考える癖があった。
それにそもそもルーナストはモルガンと結婚したいなどと思ったことはない。
ルーナストの歯牙にも掛けない態度にモルガンは顔を真っ赤にした。

「お前っ、お前のような田舎者で野蛮族のブラクルトとなぜ俺が結婚しなければならないのだと思っていたが、やっぱり可愛げもくそもない! お前とは婚約破棄だ!! 俺はリンローズと結婚する! どうしても俺と結婚したかったら土下座でもするんだな!!」
「殿下……」
「はっ、できないだろ!? ざまぁみやがれっ」

その時、シュンと矢が飛んできてモルガンの頬をかすめ、ズザッと地面に突き刺さった。

「ひっ……」

モルガンは情けない声を上げその場に倒れ込んだ。
その後も何発か矢が飛んでくる。
さっと周りを確認すると敵が4、5人はいるようだった。

(こんな状況だというのに、なんで護衛の1人もいないんだ)

ルーナストもその時になって初めてそう気がついた。
お茶会に参加すること自体が初めてだったというのもあるが、こう言う場所で令嬢やご夫人もいる場所に1人の護衛も待機していないと言うのは不自然なことだろう。

ルーナストはとっさにモルガンに覆いかぶさった。

「なっ、おい」
「おとなしくしていてください。大体、このような場所に護衛の1人もつけずに来てはいけませんよ」
「お、俺に指図するな!! ひっ……」

ちょうどモルガンの顔の横に矢が突き刺さり、またもや情けない声を上げたモルガンに、ルーナストは小さくため息をついた。

「どいてもらおうか。お嬢さん」
「いっ……」

背後に現れた敵と思われる男に、髪の毛を掴まれモルガンから引き離そうとされ、頭皮に痛みが走る。

(今の私の知ってる魔術じゃ周りを巻き込まない方法がない……っ)

ルーナストは剣術や体術ばかりをやり魔術をもっと勉強しておかなかったことを後悔した。
術の激しさを優先して派手に多くの敵をなぎ倒せる技ばかりを習得していたのだ。
おまけに今は剣すら持っていない。

(けど、今後悔してたってこの状況は変わらないよね)

ルーナストは心を落ち着かせた。
戦場では焦りや無駄な思考が命取りになるからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...