チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

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1 お茶会

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カン、キンッ
剣がぶつかり合う音がそこかしこから聞こえる。

「ルーナっ、また、強くなっちゃった?」
「そうかなっ、まぁ、鍛えてるからね」
「おかしい。おかしすぎるよ。だって、僕も同じだけ鍛えているはずなのにっ」

2人は会話をしながらも、剣を振る手を休めない。
1人は、柔らかく腰まで伸ばした綺麗な銀髪を一纏めにまとめあげ、ターコイズブルーの瞳で相手を見据える美少年ーーーーもとい、ルーナスト・メディスタム・ブラクルト辺境伯令嬢だ。そう、剣を握っているがまぎれもなく貴族令嬢である。
そしてもう1人は昔からルーナストの侍従を務めるショーン・ウィリー。マッシュショートにしたアイスグリーンの髪に髪よりも濃いコバルトグリーンの瞳の持ち主で、その見た目は、主人であるルーナストを差し置いて美少女然としていたが歴とした美少年だ。

「ショーンも十分強いよ」
「ルーナお嬢様に負けるのが悔しいんです」
「お嬢様はやめてよ」
「でも、お茶会に行くんでしょう?」
「はぁ……なんとか行かなくて良くなればいいのに」

ルーナストはカンカンと打ち合いながら、器用にもため息をつく。
ルーナストには上に兄と姉がいて、兄がブラクルト辺境伯を継ぐのが決まっているし、姉は国で二番目の武力を誇るフィキムスカ辺境伯令息に嫁ぐことが決まっている。ちなみに、国一番の武力を誇るのがルーナストの生まれたブラクルト辺境伯領だ。
ルーナストは自由気ままな末っ子として前戦で過ごそうと思っていたのに、10歳の誕生日の日に行われた魔力検査にて、国内一の魔力量を叩き出してしまった。その影響でブラクルト辺境伯領の所属するカンドルニア王国の第三王子との婚約が決まってしまったのである。

決まったはいいものの、辺境伯領は王都まで遠いので、ルーナストは第三王子と顔を合わせたこともなかった。

ガキンッ!!!

ショーンの持っていた剣がはじき飛び、またルーナストの勝ちだ。

「ルーナもマナーを学んでおかないと、お茶会で恥をかいちゃうよ」
「ある程度のマナーは身につけてるよ。これでも辺境伯令嬢だからね。それに多少は王子妃教育も受けたし。はぁ、でも本当憂鬱だ」

ショーンの落とした剣を拾って渡しながら、ルーナストはまたも長いため息をついた。
デュヒタントを1年後に控え、ルーナストが一度も茶会や社交界の経験がないことに両親が気付き、慌てて茶会の約束を取り付けて来た。
デュヒタントは正式な場での社交界デビューだが、それ以前に非公式のものに参加して場に慣れたり、対応を学んだりするのが一般的らしい。つまりはその非公式の茶会に今週末に行かなければいけないことになり、ルーナストは憂鬱なのだ。
元々、ルーナストは貴族令嬢の嗜みと言われているものが得意ではない上に、好きこそ物の上手なれという言葉の通り、戦う才能に溢れていた。魔力も国一番ではあるが、それ以前に、剣術や体術も優れていたのだ。

ついにお茶会の日になり、ルーナントは侍女にされるがままでおめかしをされた。
普段は動きやすい軍服などを着ていることが多いルーナストは、ドレスの心許なさが落ち着かない。化粧も施してもらい、貴族令嬢の命である髪の毛も綺麗に結い上げてもらった。
茶会の会場に馬車で乗りつけると、ショーンが外から手を差し伸べて、ドレスで降りづらいルーナントを手助けた。

「お綺麗です。ルーナストお嬢様」
「もう、またやめてよ」
「へへ、昨日も負かされた腹いせ」
「可愛くないなぁ」

ニコニコのショーンにルーナントは口を尖らせた。
ショーンは他人事だから楽しめるのだ。
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