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完
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「うぅ……」
「悪い。ちょっとやり過ぎたな」
「ちょっと……?」
「いや、かなりだよな」
肩を竦めて反省しているように見せかけている目の前の男は、満足しきった顔で艶々していてムカついた。
「そりゃあ、俺がなんでもするって提案したけどさ……」
「ごめん」
俺の前髪をスッとかき分けて、謝った声は、やっぱりどこか弾んでいる。
「今日は引っ越し作業しなきゃなんなかったのに、俺全然動けそうにないよ」
「大丈夫だ。全部俺が運ぶから」
「でもそんなの、1人じゃ大変すぎるし」
「そんなに荷物も多くないし、道が思うほど大変じゃない。もちろん、道の事も俺が運ぶから安心してくれ」
「お、俺は自力でいけるよ。そんな恥ずかしいことできない」
「風呂が溜まったみたいだ。持ち上げるぞ?」
先輩は俺の返事を聞かず、風呂の方を見やった。負担がかからないようにそっと持ち上げられても、先ほどまで酷使させられた腰は違和感がある。
「ぅぅ」
「もう後何時間かすれば朝だから、それまでゆっくり寝て、昼ごろから引っ越し作業をはじめような」
「……ん」
「風呂に入れて、布団に入れておくから寝ていていいぞ」
「むりじゃん、起きちゃう、よ」
「もう寝そうなやつが何を言っている。まぁ、俺のせいだけど」
風呂なんか入れられて、寝たままで居られるわけないと、毎回そう思うのに、結局いつも寝てしまって起きたら全部きれいになっている。
むしろ、今回起きた時には部屋の中のものの大半は運ばれた後で、備え付けのベッドの上の布団と、その上に横になっている俺だけが残っているだけだった。
「起きたか? 腰の調子はどうだ?」
「んー、意外と平気そう」
「そうか。よかった。なら、弁当を作っておいたから食べような」
俺が寝ている間に、荷物を運ぶだけじゃなく弁当までこさえていたらしい先輩は、作業の手を止めて手を洗ってから俺の方へいそいそと寄ってきた。
その中には当然のように俺の好きなものが詰められている。
「ほら、あーん」
「あー……ん」
「うまいか?」
「んまい」
「そうか」
俺の返事に、先輩はニコニコとご満悦だ。
この世話好きな人が昨晩のような性癖を持っていることを知っているのはもしかしたら俺だけかもしれない。俺だって昨晩知ったし。そう思えば、昨日は死にそうなほどにイかされたけれど、なんだか嬉しい気がしてきた。
「先輩、好き」
「俺も道が好きだ……。なんだか久しぶりに言われた気がするな」
「そうかな」
「毎日言ってくれてもいいぞ」
「あはは」
受け入れる側の方が負担が大きいとしても、昨日あれだけしたのに元気潑剌な先輩は、食事が終わった後、俺を新しい部屋まで運び、その後、俺の部屋の荷物まで涼しい顔で運んでくれた。
俺を新しい部屋に置いたソファの上に運んだあとの先輩は、隣の先輩の部屋に運んだあれこれを整理していたけれど、夜ご飯の時間になって先輩の部屋に招き入れられた俺は愕然とした。
「ベッド、ダブル?」
「もちろん、一緒に寝るのに狭すぎるのは嫌だろう? それに、逆にキングなんて置いてせっかく道と一緒に寝ているのに遠すぎるのも嫌だしな」
「でも、俺の部屋は隣だし」
「隣にベッドは運んでないぞ。隣はソファとダイニングだけだ」
「なんか、用意周到じゃない? これって本当に計画的じゃない?」
先輩はにっこり笑ってただ黙った。
「先輩?」
「計画してできることじゃないだろう?」
黙る俺に先輩は苦笑して続けた。
「悪いことは何もしてない。俺も、冬馬も」
それってことはつまり、悪いことではないけど、何かしらのことはした、と言うことじゃないのだろうか。
「やっぱグルなんじゃん!!」
叫んでからごね始めた俺を、先輩は宥め賺して、親鳥のように給餌して、ドロドロに甘やかし、剰え手書きの絵などをプレゼントされたので、結局話はなあなあにされて、ご満悦顔の先輩と卒業までずっと一緒に住むことになったのだった。
完
「悪い。ちょっとやり過ぎたな」
「ちょっと……?」
「いや、かなりだよな」
肩を竦めて反省しているように見せかけている目の前の男は、満足しきった顔で艶々していてムカついた。
「そりゃあ、俺がなんでもするって提案したけどさ……」
「ごめん」
俺の前髪をスッとかき分けて、謝った声は、やっぱりどこか弾んでいる。
「今日は引っ越し作業しなきゃなんなかったのに、俺全然動けそうにないよ」
「大丈夫だ。全部俺が運ぶから」
「でもそんなの、1人じゃ大変すぎるし」
「そんなに荷物も多くないし、道が思うほど大変じゃない。もちろん、道の事も俺が運ぶから安心してくれ」
「お、俺は自力でいけるよ。そんな恥ずかしいことできない」
「風呂が溜まったみたいだ。持ち上げるぞ?」
先輩は俺の返事を聞かず、風呂の方を見やった。負担がかからないようにそっと持ち上げられても、先ほどまで酷使させられた腰は違和感がある。
「ぅぅ」
「もう後何時間かすれば朝だから、それまでゆっくり寝て、昼ごろから引っ越し作業をはじめような」
「……ん」
「風呂に入れて、布団に入れておくから寝ていていいぞ」
「むりじゃん、起きちゃう、よ」
「もう寝そうなやつが何を言っている。まぁ、俺のせいだけど」
風呂なんか入れられて、寝たままで居られるわけないと、毎回そう思うのに、結局いつも寝てしまって起きたら全部きれいになっている。
むしろ、今回起きた時には部屋の中のものの大半は運ばれた後で、備え付けのベッドの上の布団と、その上に横になっている俺だけが残っているだけだった。
「起きたか? 腰の調子はどうだ?」
「んー、意外と平気そう」
「そうか。よかった。なら、弁当を作っておいたから食べような」
俺が寝ている間に、荷物を運ぶだけじゃなく弁当までこさえていたらしい先輩は、作業の手を止めて手を洗ってから俺の方へいそいそと寄ってきた。
その中には当然のように俺の好きなものが詰められている。
「ほら、あーん」
「あー……ん」
「うまいか?」
「んまい」
「そうか」
俺の返事に、先輩はニコニコとご満悦だ。
この世話好きな人が昨晩のような性癖を持っていることを知っているのはもしかしたら俺だけかもしれない。俺だって昨晩知ったし。そう思えば、昨日は死にそうなほどにイかされたけれど、なんだか嬉しい気がしてきた。
「先輩、好き」
「俺も道が好きだ……。なんだか久しぶりに言われた気がするな」
「そうかな」
「毎日言ってくれてもいいぞ」
「あはは」
受け入れる側の方が負担が大きいとしても、昨日あれだけしたのに元気潑剌な先輩は、食事が終わった後、俺を新しい部屋まで運び、その後、俺の部屋の荷物まで涼しい顔で運んでくれた。
俺を新しい部屋に置いたソファの上に運んだあとの先輩は、隣の先輩の部屋に運んだあれこれを整理していたけれど、夜ご飯の時間になって先輩の部屋に招き入れられた俺は愕然とした。
「ベッド、ダブル?」
「もちろん、一緒に寝るのに狭すぎるのは嫌だろう? それに、逆にキングなんて置いてせっかく道と一緒に寝ているのに遠すぎるのも嫌だしな」
「でも、俺の部屋は隣だし」
「隣にベッドは運んでないぞ。隣はソファとダイニングだけだ」
「なんか、用意周到じゃない? これって本当に計画的じゃない?」
先輩はにっこり笑ってただ黙った。
「先輩?」
「計画してできることじゃないだろう?」
黙る俺に先輩は苦笑して続けた。
「悪いことは何もしてない。俺も、冬馬も」
それってことはつまり、悪いことではないけど、何かしらのことはした、と言うことじゃないのだろうか。
「やっぱグルなんじゃん!!」
叫んでからごね始めた俺を、先輩は宥め賺して、親鳥のように給餌して、ドロドロに甘やかし、剰え手書きの絵などをプレゼントされたので、結局話はなあなあにされて、ご満悦顔の先輩と卒業までずっと一緒に住むことになったのだった。
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