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道視点:レクリエーション2

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『では、1年生は各々出発してください』

レクリエーションの当日、会長の合図で俺たちは出発した。

「じゃあ、僕、こっちに行ってみるから。道も頑張ってね!」
「うん! お互い頑張ろう!」

律葉と別れ俺は張り切って散策を始めた。
数組に分かれた上級生の最初の組みが出発するまで10分。この時間が勝負の決め手だ。
ここでボールを一気に見つけて、あとは隠れながらゆっくりと、というのが俺の作戦だ。

そして、俺は割と順調にボールを見つける事ができた。
中庭の木の幹、ベンチの椅子の裏、噴水の淵……。10分しないうちに3つもボールが見つかったので、俺は逆に不安になった。だって、俺が簡単に3つも探せたという事は、それだけ多くのボールが隠されているということだ。一体何個のボールを見つけ出せれば、上位に食い込めるのだか。

ジリリリリ

「わぁ……」

4つ目を見つける前に、最初の鬼がスタートした鐘がなった。
校舎に入る、一番近い入り口からそっと中に入ると、扉の上にボールがついているのを見つけ、それを取り、階段から上に登った。
階段の踊り場にある窓からそっと外を覗くと、鬼たちはまだ中庭のあたりをうろついている。

最上階に到着して普段はめったに使われることのなさそうな物置部屋を見つけたときには、すでに3組目の鬼が出発していて、手元には12個のボールが集まっていた。

レクリエーションを楽しみたい気持ちはもちろんあるけど、ハチマキを取られてしまえば、いくらボールを集めていても全部無駄になる。それならば、このあたりで探すのをやめて、時間まで隠れているのも手だ。

物置部屋の奥に進むと、ちょうど人1人分ほどのスペースが空いていて、そこだけ埃が払われているような場所があった。ひょっとしたらいつもはここで授業などをさぼっている人がいるのかもしれない。入り口からは見えない位置で、ちょうど良いので俺はそこに座り込んだ。

背後の窓の外からは、階下や中庭で鬼の上級生が下級生を探したり雑談したりする声が小さく聞こえていた。

レクリエーションが終了するまであと10分ほど。
このままジッとして見つからなければ、悪くてもお菓子の詰め合わせくらいの景品は見込めそうだと、取らぬ狸の皮算用をしているとガラと誰かがドアを開けた音が聞こえた。

途端、体は緊張して身構えた。

同じ、1年生だったらいいけど。
トツトツと上履きで歩く音が聞こえる。
それは迷いのない足取りで、俺の方まで向かってきていた。
どうしよう。時計を見ればゲーム終了まではあと9分になっていた。

ドキドキと心臓が煩く跳ねた。
そして、多くの荷物が積み重なったそこから顔を覗かせたのは、思いもよらぬ人物だった。

「……藤井?」
「っ、市原……」

藤井も、俺の姿を見て目を見開いていた。

「なんだ。藤井か。よかった」

胸を撫で下ろすと、藤井はあからさまに困惑した顔を見せた。

「よかったって……」
「だって、てっきり上級生かと思ったんだよ。あれ? 藤井、ハチマキは?」
「……俺は参加してないから。時間潰そうと思ってここにきただけだ」
「そうなの? じゃあ、そこにいられると目立つし、こっちに来て座っててくれる?」
「いや、それなら俺は他に移動する」
「ちょ、待って。もしかしてここって普段藤井が使ってる場所? 埃もここだけなかったし、1人分のスペースあるし」

尋ねると、藤井は一巡考える様子を見せ、小さく頷いた。

「自業自得だけど、今は教室にいずらいからな」
「……そっか。まぁでもそういうことなら尚更、出ていかせられないよ。どうせあと9分……、いや、あと7分だし、我慢して一緒にここに隠れててよ。時間になったら俺、行くし」
「市原は、嫌じゃないのか?」
「いや? なんで」
「なんでってあんな事があっただろ」
「あんなことって言うけど、律葉はともかく、俺と藤井のは一応同意の上だったし。あ、今はちゃんと付き合ってる人がいるから、絶対しないけどね。まぁ、今更藤井の方こそ、俺としようなんて自暴自棄な真似はしないだろうけどさ」

あの時は、藤井もきっと心がまいっていたのだ。
好きな人に振り向いてもらえない苦しさは、俺だって痛いほど分かる。
けれど結局は俺とのことも未遂に終わったし律葉にも許されて、この学園に残っているのだし、今更俺が気にするようなことではない。
まぁ、先輩に藤井と密室に2人きりでいるという、この状況がバレたら、最悪の結果をもたらしそうだけども。何せ最近の先輩ときたら、律葉にすら嫉妬を見せる事があるくらいだからだ。

「付き合ってる人って、風紀委員長か?」
「……そうだよ」
「そうか。市原、あの時はごめん」
「え?」
「市原を律葉の代わりにしようとした。ずっと律葉にもひどいことをしていた。あの時、市原が居てくれて良かった。市原は俺を受け入れてくれているわけじゃないと分かっていても、あの時の俺は酷く安心できたから」
「あ……えっと。うん」

返事に困っていると、藤井はふっと息を漏らした。

「あの時、市原は自分の体を使ってくれて構わないと言ったけど、俺はその言葉に衝撃を受けたんだ。俺が言えたことじゃないけど、市原には自分を大切にして欲しい」
「大切に、してるよ。今は」
「そっか。それならよかった。あの時は、本当にごめん。そしてありがとう」

そう言って頭を下げた藤井は、あの時や、最近の顔から比べると、まるで憑物が落ちたようにスッキリした顔をしていた。
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