(完結)好きな人には好きな人がいる

いちみやりょう

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辰巳視点 冬馬

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道が自室に戻ってしまった翌朝。辰巳は寮B棟の食堂に向かった。
もちろん、道と2人で食べる昼食用のお弁当は作ったが、わざわざ朝ごはんを自分のために作るのはやる気が起きなかった。1人で食べる朝食は久々だ。まだ朝が早いためか、食堂の中の人はまばらだったので、辰巳はその中でも人の少ない窓際の席に腰を下ろした。辰巳の選んだ朝定食は栄養のバランスも考えているのだろうメニューだったが、道と一緒じゃないと思うと、味気ない。

あまり美味しく感じない定食をモソモソと食べていると、向かいの席に誰かが座った。

「つまらなそうな顔して食べてるね」
「冬馬……。お前も大概だぞ」

龍一郎の持っているトレイも、辰巳の選んだ朝定食と同じものが乗っていた。そして、龍一郎の顔は明らかに不機嫌そうだ。この台風の影響でずっと部屋に居た律葉が部屋に戻り辰巳と同じく龍一郎もピリついた雰囲気を隠せていないのだろう。

「散々引き止めたのに、律葉ってばあっさり帰っちゃうんだもん」
「俺の方も同じだ」
「でもね、俺。公私混同しちゃおうと思ってさ」

やたら笑顔な龍一郎は、とても良いことを考えているとは思えない。

「まさか。流石の生徒会長の権限でも、下級生の寮の部屋を決められるわけないだろう」

一般的な高校における生徒会長よりも多くの権限を持っている代わりに、仕事量が多いのがこの学園の生徒会長という役職だ。だが、その生徒会長という役職をもってしても、無理なものは無理だろう。辰巳は小さく息を吐いた。だが、龍一郎は自信ありげな顔で辰巳を見た。

「ただの生徒会長ならそうでしょ。まぁ、俺に任せておいてよ。律葉の件ではお世話になっちゃったから、道くんを辰巳の部屋に戻す事ができたら、貸し借りなしってことで」
「はっ。そんなこと…………。できるのか?」
「ぷっ、くく。あはは。まぁ、多分ね」
「そうか」

道が辰巳の部屋に戻ってくるかもしれないと思うだけで、現金な心はピリついた気持ちを消し去った。

「まぁ、あんまり大々的には出来ないんだよね」
「何か良くないことでもするつもりか?」
「あはは。良くないことって。そんなわけないでしょ? 俺、これでも生徒会長だよ」
「じゃあ、大々的にできないって何だ」
「公私混同すると律葉が怒るんだよ」

龍一郎はそう言って肩を竦めた。

「すっかり尻にしかれてるんだな」
「律葉はそんなことしないよ。俺がしかれに行ってんの。というか、律葉をあんまり悲しませたくないんだよ。分かるでしょ」
「俺も道を悲しませたくないが……。つまりは冬馬がやろうとしている事は律葉を悲しませるようなことなのか?」
「んー。バレたら悲しませるっていうか、呆れられそうかな……。俺がさ、こっそり海外で会社経営してるって言ったの覚えてる?」
「ああ。言ってたな」
「それでさ、金は結構あったし、この学園がちょっとした経営難だったんで俺が買い取ったんだよね」
「は……?」

さらっととんでもないことを聞かされて、学年でトップクラスの学力を誇る辰巳も、さすがに思考停止した。

「学園買い取ったって……、てことは冬馬が理事長ということか?」
「そ」

あっさりと頷かれ、辰巳はまた思考停止した。

「そりゃ……、何というか。すごいな」
「今まで権力とかそういうの使うの嫌だったんだけどね。律葉を不快にさせないためというか、守るためというか……まぁ、それで、使える権力は使おうと思って」
「それで、なにして律葉に怒られたんだ」
「実家の影響で、ずっと俺にちょっかいをかけてきていた会計をね、律葉にも影響しそうだったから圧力で潰したんだよ」

龍一郎は、2人の会話が聞こえない距離から見ている人間には、とてもこんな会話をしているとは思えないほど、柔和な笑みを浮かべながらそう言った。ご丁寧に、人差し指と親指をくっつけて「プチっとね」などと供述している。

「そりゃ、気持ちは分かるが、律葉は怒るだろうな」
「そ。だから、藤井の件はごめんね。藤井もちゃんと追い出そうとしていたんだけど、そのタイミングで律葉にバレちゃって。“もうこんなことしないでよねっ”って怒られちゃったから」

また、肩を竦めた龍一郎を見て、辰巳も肩を竦めて返した。
最愛ができると、こうも人は変わるらしい。
律葉のことを影から見守るなんて言っていた人間が、こうも露骨に人を排除するのだから。

「お前も本当、かなり変わったな」
「そうかな?」

辰巳自身も、自分がかなり変わった事は自覚しているが、側から見たらきっと自覚している以上に、変化があるものなのかもしれない。

とにかく、龍一郎の話からすると、道が辰巳の部屋に戻ってくる勝算は高そうなことに辰巳はホッと胸を撫で下ろした。

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